心ここに在らず Ep.2
「No」
男はそういった。
「むぅー…素直じゃないですね。」
突然現れた長い銀髪のおさなげな少女は、頬を膨らませ腕を組みながら考え始めた。
「そもそも!なんでもっとこう驚いたり慌てたりしないんですか!?」
「フン…なんでだろうな。」
男は自嘲するようにそう言った。
「まぁ少なくともそれができれば退屈しないだろうな。」
「それってつまり今の生活にうんざりしてるってことですよね?ならいいじゃないですか!!」
少女は大きな声で言った。
「はい!それではもう一回だけ聞きますよ!はいかYesで答えてくださいね!今の生活を全て捨てて私に着いてきてくれますか!?」
「はぁ…」
男は面倒くさそうに溜息をつき少女を無視した。
「もー!なんで無視するんですか!」
「当たり前だろ‼」
男は大きな声で言い放った、その迫力に少女は少し怯んだ。
「急に現れたと思ったらなんだ?全て捨ててついてこいだ?そんなアホらしいことして何になる?」
「それは言えません!」
「そんなことを聞いてるんじゃない!」
男は少女を蔑むような目で睨みつけた。
「…じゃあ未練が有るんですか?」
少女が落ち着いた声で話しだした。
「未練…?何に?」
男が面倒くさそうに返した。
「もちろん今の暮らしにです。」
「ない。」
「じゃあ…」
「あぁ!またそれか!もういいだろ!お前は何がしたいんだ!?」
男は再び声を張り上げた。
「ひっ…くっ…」
少女は泣き出してしまった。
予想外の少女の反応に男は戸惑った。
「……悪かったよ。」
男は頭を掻きながらそういった。
「なんだ、優しいんですね。」
少女は笑いながら言った。
「なんだ嘘泣きか!?
なんだ?優しい?どこが?」
少女の二度目の予想外の反応に、また、男は少し戸惑った。
「どこがって言われると困りますけど、あなたに言い寄ってくる人たちよりは遥かに優しいですよ。」
「フンッ…どうだか。」
「そうですよ!」
少女はさっきまで泣いていたのが嘘だったかのような大きな声で言った。
と、いうよりさっきのは嘘泣きだったのかもしれない。
「あーもう、いちいちうるさいな、お前は。」
「あ、ご、ごめんなさい。」
「まぁいい……で、もう一度言うが俺はお前の要求を飲む気はさらさらないぞ。」
「またその話ですか…」
「は?」
男は少女を睨みつけた。
「もういいです!私があなたに着いていきますから!」
「は!?」
少女の三度目の予想外な発言に男は本気で戸惑った。
「もう決めました!拒否権はないですよ!」
「は!?ちょっと待て…は!?」
男の思考は追いついていなかった。
「私の名前はエル、今日からこの家に一緒に住まわせてもらいますので、よろしくお願いします。」
「一緒に住む?ふざけたことを言うな!!」
「ふざけてないです!」
「そういうことを言ってるんじゃない!だいたいなぜそうなる!?」
「………私が思ってたよりあなたが優しかったからです!それにこの家はあなたが住むには大きすぎますよ!」
「そんなもの理由になるか!!」
「なります!本当にそうなんですから!」
少女は一歩も引かなかった。
「俺がなにかお前にするかもしれんぞ?」
「しませんよ!だってあなた優しいですもん。」
「またそれか!あぁ…!もういい!勝手にしろ!」
男はそう言い放って部屋をでた。
「あっ!どの部屋を使えばいいですか?」
「知るか!」
男は洋風な長い廊下を足早に歩きながら頭の中で必死に少女に対する疑問と愚痴を投げ掛けていた。
が、ふと男は。
最後にこんなにしっかり人と話したのがもう、随分と昔ことだと気が付いた。
「優しい…か。フンッ…」
男はそう言うと歩くスピードを落とし少女のためのミルクティを淹れる為にキッチンへと向かった。
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