ダイヴァー Ep.2
「奇遇だね、同じ夢を見るなんて」
僕がほんの少しだけ興奮してそう言うと彼女も嬉しそうに、
「本当にそうね、私の頭の中覗いたでしょ」と笑いながら言った。
記憶はそこで終わっている。
そこにはさっきまでの笑顔も二人を染めた夕焼けもなかった。
あるのは煌々と燃える焚火とパンをもしゃもしゃと頬張る白いひげを蓄えた老人だけで、辺りを見渡そうと体を動かすとかけてあった毛布が上半身を滑り腰のほうへと落ちた。それに気づいた老人は微笑みながら「おお、目覚めはどうかな」と言った。
その問いかけに応じようと口を開けるが喉がカラカラでこえがでない、口をパクパクと動かす僕を見かねて老人は水を分けてくれた。
「ありがとうございます、僕の名前は
「海宝 鯨、いい名じゃな。ここは、死の山じゃよ」
「死の…山?」
「ああ、正確にはここら一体がそうじゃ。なんでも奥深くまで立ち入ると帰れなくなるそうじゃ」
その話を聞くと僕は不安になった。するとそれを察して「ここはまだ山のふもとじゃから安全じゃよ」と老人は続けた。
「ところで、海宝はどこから来たんじゃ?見たところ鞄もないようじゃが」
顎をさすりながら不思議そうに尋ねる。
僕は老人に自分の住所を伝えたが、老人は首を傾げた。
「そんな名前の村はこの辺には…まさか海宝、お主白いクジラの夢を見なかったか?」
「…ああ、見ました。クジラの背中に乗って空を飛ぶ夢を
そこまで話すと僕はハッとして立ち上がりさっきよりも大袈裟に辺りを見渡した。
「どうした、何か思い出したのかな?」
微かな動揺をはらませて老人は言った。
「鯱…僕と一緒に鯱という女性が倒れていませんでしたか、同じ白いクジラの夢を見たんです」
僕は一息にそういった。
「いや、倒れていたのは君だけじゃ。でもおそらく、こっちには来ているじゃろう」
「こっち?ここは一体どこなんですか」
狼狽えを隠せない僕を見ながら老人は冷静沈着に言った。
「ここは、海宝たちの世界から見たら上の世界じゃ元の世界へ帰るには、下に降りる必要がある」
「下に…降りる…?」
言葉の意味を十分に理解できないままの僕に老人は言った。
「そうと決まれば早速出発じゃ!西の村に
老人は意気揚々と言い放った。
「夢浮人って何ですか?」
初めて聞く言葉に疑問を持たずにはいられなかった。
老人は身支度を整えて立ち上がると、その疑問に対して答えを返した。
「夢浮人はな、何千年かに一人白いクジラの夢を見た人間がこの地に訪れるらしい。二人というのはまれなケースではないかの…なんにせよ詳しいことは後じゃ、それいくぞ」老人は胸を張って歩き出した。
「楽しんでません?」と僕が言うと。
「ば、馬鹿を言うな、ワシは至って真面目じゃ」と老人は言った。
その言葉に信憑性はなかったがついていくよりほかにない、死の山に背を向けて舗装されていない獣道を歩きはじめた。
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