エピローグ+
血の誓い
アルミナ紛争から八年。
大型戦艦ベネルドメランの
少し眉根に皺を寄せているのが彼、リューンの苛立ちを表している。この作戦が面倒くさくて仕方なかった。
「まったく。未だにアルミナ紛争の余熱で騒ぎ立てる連中が居やがる」
苛立ちは声音にも混じっている。
「仕方ないでしょ、お兄ちゃん。トルメアさんはいつも国賓待遇で迎えてくれるんだから、お願い事くらい聞いてあげなきゃ」
「だから、お兄ちゃんって呼ぶんじゃねえ。お前は嫁になったんだから名前で呼べ。俺の趣味が疑われちまうだろうが」
「そう呼んでた期間が長過ぎて簡単には抜けないんだもん。いいじゃない」
二十五歳になった青年は「よくねえ!」と叫ぶ。
戦闘空母十隻を従える旗艦ベネルドメランは、総帥リューン・バレル率いる国際軍事組織ブラッドバウの司令部でもある。
ゼフォーンやアルミナを主とした周辺諸国の出資も募って組織されたこの軍事組織は
組織の準備と信用を得るための細々とした活動に三年。その後は本格的な活動と組織の拡充に努め大艦隊へと育っている。今回は随行していないが、他に七十隻の戦艦及び戦闘空母を運用する国家規模の軍事組織だ。
とはいえ、どの国も自国だけで解決できないほど大きな問題を抱えているでもなく、普段はゼムナで反政府活動を行っている。国際情勢はこの五年で大きく変化していた。
それまでゼムナに依存していた新兵器技術の中心が、協定者を有するガルドワとこのブラッドバウに移行している。各国はガルドワから新製品を購入するか、ブラッドバウから新技術の使用権を買うようになっていた。
「そんなだるそうにしなくたってさ、俺たちがカチコミ掛けりゃすぐに終わってゼムナに帰れるぜ、リューン」
一つ歳上の戦隊長は安請負する。
「まあ、そうなんだがよ、オリバー。こんな大所帯になっちまったから動き回るだけで金も物資も時間も嫌んなるほど掛かりやがるだろ。イライラするぜ」
「そのイライラはここじゃなく敵相手に発散してよ、リューン」
「当たり前じゃねえか、ネイツェ」
プネッペンの少年少女は今や組織の中核的存在にまで成長していた。
「余計なことを吹き込むのではない! お前たちはまったくいつまで経っても若い頃の癖が抜けん。相手は弾圧の苦しみを忘れられずアルミナの王制維持に疑問を抱いて活動しているだけの地方組織だ。アディド大統領閣下も極力穏便に済ませてくれとの要請なのだからな」
「解ってるって。説教が長いぜ」
深い茶色の髪を撫でつけ、筋肉質の体と大きな声で一喝したのは歴戦の兵士然とした壮年の男。リューンの副官というわけではないが、相談役的役割を任じている。
「声がでけえよ、ガラントのおっさん! 弁えてっから心配すんな!」
「ゼビアルに乗れば意気揚々と繰り出すのがお前ではないか」
「ゼムナ相手の時以外は仕事の分は超えてねえだろ。いいかげん引退して家族で野菜でも育ててろって言ってんじゃねえか」
口うるさいお目付け役に閉口する。
「あれだけエムスに慰留されたんだからアルミナに残りゃよかったのによ」
「陛下の新体制に四家の名を持つ私が加わるべきではない。何度もそう言った」
頑固だけは変わらない。
「ならブラッドバウの宇宙ドックをホームドラマの舞台にすんじゃねえ!」
ガラントの一家は組織の有する宇宙ドックに住んでいる。ドックとは言うが、規模と装備は要塞に近い。安全な場所だ。各国との定期便も結ばれている。
「遊んでないで、そろそろ気を引き締めなさいな。ゼフォーンが見えてきたわよ」
エルシに諭された。彼女も当然リューンの脇に控えている。
「へらへらしてんなよ、ヴェート。今回は
「にやけてなどいるもんか!」
「嘘吐け。どんどん腑抜けてってんじゃねえか」
エルシの恋人のような感じになってからヴェートは顔付きからして温厚になってしまっている。本当に陸戦隊を任せておいていいものか不安になるほどだ。
「子供ができたらあんたも引退だぞ。一人で育てろ。エルシは渡せねえ」
「なっ!」
「そこまでの機能はこの身体にはないから心配の必要はなくてよ」
真っ赤になって迫ってくる男を押さえながら伝説の後継者は立ち上がる。
「野郎ども! 喧嘩の時間だぜ!」
〈完〉
※ これにて完結です。あとがきも同時更新しているので、宜しければお立ち寄りください。今後にも触れてあります。
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