戦気眼VS戦気眼(12)

 一直線に伸びてくるビームブレードを長大な刃で削るように流す。カウンター気味に突き出した左のフォトンブレードが腰部を貫いていた。左足でコクピット付近を蹴ってブレードを引き抜くと、正面に同じく両手にブレードを構えたイムニが入り込んでいくのを横目にする。クリスティンもダイナ隊の相手に忙しい。


「増長するな、小僧風情が! 閣下や自分が本気を出せば!」

「ほざいてねえでやってみせろよ!」

 しかし、彼の斬撃は全て打ち払われ、リューンの突き出した肘から放たれるバルカンに距離を取らざるを得ない。

「後ろだ、イムニ!」

「はっ!」

 副官はリューンに貫かれた僚機が背後で爆炎に変わるのに気付いていない。

「ぐはっ!」

「墜ちやがれ!」



 気を取られたイムニ機が腹部に足蹴を食らう。流れたオルドバンは爆圧で再び押し出され剣王の新型機に接近。そこへカウンターの横薙ぎを合わせて撃破しようとするリューン。

 察したイムニも推進機ラウンダーテールを噴かして上方へ回避しようとするが、それを読んでいた少年は斬撃の軌道を変えて跳ね上げた。絶体絶命に思われる状況にクリスティンは割り込み、左のブレードで叩き落す。振り返りざまのビームカノンを新型機は後方宙返りをしつつ躱した。


「躱したか」

「よく動くだろ。ゼビアルならてめぇに遅れは取らねえぞ」

 新型機は『ゼビアル』というコードらしい。


 追い込んだ敵軍の将軍機を撃破まで持っていきたかったが、副官の危機に動くしかなかった。そのダイナ機は損傷が激しく、友軍機に促されて後退する。結果的に再び一対一の対峙になるも、それはクリスティンも作為的に選んだ状況だ。


「君はそのままでいいのか?」

「何がだ?」

 疑問を投げ掛ける。

「言った通りの事実があるなら、何千光年の彼方で暴れていたところで怨恨を抱く相手はのうのうと暮らしているぞ」

「まあな。てめぇが墜としてくれりゃ好都合だとほくそ笑んでやがるだろうぜ」

「それなら、すべきは違うことなのではないかい?」


 ゼビアルは左手の大型ブレードグリップを背中に格納すると、ひと回り小型の物に変える。現れた力場剣は剣身が10mほどで接近戦での取り回しに優れていると思われた。

 リューンはその小剣型のフォトンブレードを前に突き出し、引いた右の大剣を立てて構える。背部に二種類のブレードグリップを備えているのは、状況に応じて使い回すためらしい。


「出自をつまびらかにした今、ゼムナに戻るべきだ。正統なる血を引くものとして本家に入り、伯父上や養父母を謀殺した者に制裁を加えるべきではないのか? もちろん十分な捜査の上でだ。それが正しき道だと私は思うが」

 道理を説く。

「けっ、それで何になる?」

「法に沿った裁きを……」

「できるのかよ? できねえんだろうが」


 ビームカノンを狙って払われた小剣をクリスティンは左のブレードで叩き落す。そこへ大剣が落ちてくる。斬線は戦気眼せんきがんで感知しているので右半身に引いて躱す。振り上げた射線で放ったビームをゼビアルはかがんで逸らした。

 瞬時に懐に入り込んでくる相手にカウンターでブレードを突き出すが小剣で跳ね上げられ、大剣の斬撃を後退して避けた。戦気眼を持つ者同士の戦闘は容易に決着がつきそうにない。


「自分にできねえことをさせようとしてんじゃねえのか?」

 逆に切り込まれる。

「そんなのはてめぇが好きそうな理屈だ。だがよ、実際にしたくても思い切れねえから誘いかけてんだろ?」

「なにを……」

「やりたくたってできねえんだろうが!」

 二連撃をブレードでいなす。

「怖いんだよ、てめぇは! 名だけのライナックどもに粛清を断行すれば英雄の名が穢れる。市民の目にはそう映るのが嫌なのさ」

「そんなことはない! 本家の正当性を証明できるのだからな!」

「証明してどうする? 信用を失ったライナックの名は権力の座に留まるのを許されねえと思ってんじゃねえか?」


 拡散ビームの気配に射角からエクセリオンを逃がす。避けざまに放ったビームは斬り裂かれて拡散した。


「今の名声と権力を放り出すのが嫌なのさ。自分じゃ怖ろしくてできねえから俺にさせようとしてる」

「違う!」

 声が震える。心の奥がそれを肯定してしまっている。

「認めろよ。てめぇはクズだぁ。ごく潰しどもの行状を知っていながら目を瞑ってる。自分可愛さで黙ってるクズじゃねえか!」

「ぐっ! 君に言われる筋合いはない! 力だけで何もかも解決しようとしてる奴にな!」

「まだマシなんじゃねえか? 目ぇ背けてる奴よりよぉ?」


 ショルダーカノンとビームカノンでインターバルを潰し、連射でゼビアルを追う。しかし、そのことごとくが躱され斬り裂かれてリューンには届かない。


「他人のことを言える立場か! 君こそ本家に飛び込む勇気がないんじゃないかい?」

 相手の理屈の盲点を突く。

「ああ、確かに俺は逃げた男の息子だ。そんで生き延びてえばっかりで今の今まで名前を隠して逃げ続けてた奴さ。俺もクズなのは間違いねえ。じゃあよぉ……」

「な……にを?」

「クズならクズ同士潰し合うのが道理だろぉー? そう思わねえかぁー!」


(これは……、憎悪だ。彼は自分の名そのものに憎悪を抱いている。こんな人間に掛ける言葉なんてあるのか? 少なくとも私は知らない)


 振り向けられる悪意にクリスティンは怖れおののいた。

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