本星決戦(9)

 陽光にギラリと煌めく銀色のアームドスキンがひるがえる。印象的な武骨さを感じさせるフォルムは、周囲を圧倒するかのように振る舞っていた。


(あれか。剣王)

 ショルダーガードに三本の金線をあしらった濃緑色のカスタムローディカを低く飛行させつつガラント・ジームは目標を察知する。

(幼き精神の暴走。それを許す度量が無ければ大人だなどとは言えん。まずは止めてみせる)

 右手にビームカノンを持たせると、放つことなく男は接近を続ける。


 噂通りの強さだ。不用意に接近した僚機はブレードの一撃も合わせることなく右腕を刎ねられ胴を斬り裂かれる。

 ターナ変調の青白い光を銀色がまばゆく反射させ、次の目標へと機体を滑らせていく。味方を討たれた悔しさよりも、それを成人もしていない少年がやっていることに痛々しさを感じてしまう。


(戦い慣れしているな。そうまでさせる大人の横暴、ここで断ち切ってやらねばいかん)

 確かに脅威。だが気圧けおされるわけにもいかない。

(剣筋は通っているし狙いも正確。それならそれでやりようがあるというもの。ここは経験差を見せつけるのみ)

 ガラントは牽制砲撃を周囲に撒きつつ、ペダルを軽く踏み込む。


 その時、剣王が異様な動きを見せた。特に予備動作も無く、突然に回転して横へと跳ねる。直前まで彼のいた空間をビームが通過し、味方が直撃を食らって爆散した。


「ブラインド?」

 思わずこぼす。

「あれをやられるんで厳しいんですよ」

「エフィか」

「はいはーい、僕です。援護しますんで、ガラント殿は目的を達してください。狙撃手のお嬢さんはこっちでお相手しますよ」

 わざわざ出しゃばってきたのには理由があると思っていたら、狙撃手はXFiゼフィの女性パイロットらしい。


(癖はあるが腕は立つ。それだけ頼りにもなる)

 エフィのこだわりはときに有利に働く。

(ならば任せる)

 いきなりの狙撃を避けるために回り込む機動を取った。


 情報分析も進んでいて、球形モニターには銀色のアームドスキンを『パシュラン』とし、敵性機体を表す赤いターゲットシンボルが映し出される。色もそうだが、戦い方もかなり派手で目を奪われる何かがある。

 空に刻まれる剣閃にビームカノンを引いて台尻を叩きつけようとしたファーレクは、回転しつつ懐に入り込んだパシュランに肘打ちを食らう。衝撃で固まったところで両足を刈り取られ、噴射したイオンジェットは機体をロールさせる。無防備なその背中へとビームバルカンが浴びせられて対消滅炉エンジンは誘爆を起こす。閃光に紛れて急接近した。


「私はガラント・ジームという」

 流れのままに跳ね上げられた薄黄色い刃に、青白いジェット噴流で応じながら問う。

「少年、名は?」

「なんだ、おっさん? ……リューン・バレルだ」

 声から年季を読み取ったのか、年代を言い当てられた。


 ガラントに敵機と対する気持ちはない。銀色の装甲の向こうに、映像で見たオレンジ色の髪の癇の強そうな面立ちを思い浮かべる。そのイメージに語り掛けるように言葉を紡いだ。


「やはりか。……聞け」

 再びブレード同士を合わせながら伝える。

「大人たちは君と君の戦果を褒め讃えるだろう。しかし、それは幻想だ。これはゲームではないのだよ」

「はぁん?」

「当然だが撃破したアームドスキンには人が乗っている。それくらいは分かるな?」

 噛んで含めるよう説明する。

「彼ら彼女らにも家族はいる。君が奪った命を大事の思う存在は大勢いる。その人間はどう考える? 恨みを募らせても仕方ないのではないか?」

「なに言ってんだ?」

「少し深く考えてみたまえ。自分は何をしているのかと」


 少年は間を取るようにバルカンを放って距離を空ける。ガラントはジェットシールドでそれを受けて離されないよう追い詰める。機体と同時に、思考まで逃がしては駄目なのだ。ここは畳み掛けるように言葉を浴びせて深く浸透させねばならない。


「それは本当に正しいのかと」

「…………」

 再び斬り掛かってくるが、それは戸惑いだろうか?

「……んぶわっはっはっはぁー! 笑わせんなよ、おっさん。もしかして俺が何も分からねえままに口車に乗せられて踊らされてるって思ってんのか?」

「違うとでもいうのか? 平気なのかね、人を苦しめても」

「平気も何もねえだろ。ここがどこか、あんたのほうが知ってんじゃねえのか、ガラント?」

 逆に問われる。

「子供が居ていい場所ではない。私はそう思っている」

「確かに不向きな場所だよなぁ。戦場だ。敵は牙をむいて襲い掛かってくる。相手が子供だろうが容赦ねえ。だがよ、そこへ追い込んだのは誰だよ?」

「我が王室の統制のことを言っているのだな。そこには私も問題を感じている。だからといって君のような子供が大人に混じって戦う必要は無い」

 戦場に身を投じるべきではないと訴える。

「誰か身内を失ったのかね? 言えた義理ではないのかもしれない。それでも今はぐっと我慢したまえ。そうでなければ、君は必ず後悔する。将来、奪ってしまった命を思って眠れない夜を幾度も過ごさねばならなくなる。とりかえしのつかない思いに責め苛まれるぞ?」


 歴戦の搭乗兵は現実を突きつけるようにブレードをパシュランの胸元に突きつけると、ともに大地にゆっくりと降り立つ。


「来ねえな」

 少年は背後を気にする様子を見せながら呟く。

「チェスカはあの腰抜けと遊んでんのか?」

「リューン・バレル!」

「焦んな! 後悔なんかしねえよ。その理由を今から教えてやる」


 ガラントのブレードを弾き上げた少年はそう告げてきた。

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