破壊神のさだめ(後編)(12)

(ちょっと疲れたなぁ)

 ユーゴはこぼす。

(でも、もう少しなんだから頑張らなきゃ)


 リヴェリオンも消耗している。弾体ロッドも残り少ない。ハイパーカノンを浴びた機体も各部に溶解痕が確認できる。ビームコートなぞ完全に蒸散してしまっていた。


(あれならザナストは降伏するしかないだろうし)

 戦力は残っていても中心となる指導者を全て失っている。

(安心し切っちゃって何かが抜けたような顔してたけど、ラーナの顔を見れたからいいや、最後・・に)

 少年は満足だった。


 球面モニターに薄い灰色の塊が数多く浮かんでいる宙域が映り込んできた。氷塊環礁だ。そこ最後の目標が居る。

 氷塊を縫うように進んでいくと部隊回線がノイズを立て始める。ターナミストで通信阻害されているが、この先で騒ぎ立てているのが分かる。おそらく射出したプローブからのレーザー通信で戦場の様子を覗いていたことだろう。


 更に進めば艦隊が停泊しているのが確認できた。ガルドワ第二艦隊である。その中央には白い大型戦艦の姿もある。ホーリーブライト、御者神ハザルクが差し向けてきた戦艦だ。

 何も知らない第二艦隊は航宙灯を明滅させて歓迎してくれる。ユーゴの健闘を讃えてくれているのだろう。


(これから僕のすることを見てびっくりしちゃうんだろうなぁ)

 申し訳ない気分になるが、当初からの計画は変える気はない。


「よくぞやった、プロトツー! 素晴らしい働きだ。お前こそ完成品の名に相応しい」

 ホーリーブライトの前まで進み出ると通信が繋げられる。

「ありがとう」

「うむ、これからは望み通りに進めようではないか。協議の結果、幾つか修正点は見つかったが……」

「じゃあ、終わりにしようか?」

 ビームカノンを艦橋ブリッジへと突き付ける。

「何をする!?」

「ここで御者神ハザルクも終わりにするのに決まっているじゃないか」

「な!」


 通信越しに警報音がけたたましく鳴り響き始めるのが聞こえる。艦橋要員がコンソールに嚙り付いて確認と操作を始めていた。


「何だこれは!?」

 立ち上がった首魁のモーゼン・ファガッシュが吠える。

「この前来たときに仕込んでおいた仕掛けトラップが起動しただけ。そんなに慌てるなよ。超空間フレニオン通信機器を使わせてもらうね」

『汝の名でレイオット・ボードウィンにリストを送っておいた』

「やっぱり構成員全てのリストがあったんだね。ここにならちゃんと記録してあると思ったんだ」

 これで一斉検挙は完璧になる。

「裏切ったというのか?」

「裏切った? 最初からお前らなんかに加担する気なんてさらさらないね。僕の思い通りに動いてほしかっただけさ」

「どうしてだ!」

 まだ分からないらしい。

「お前らのお陰で生まれてきたっていうのはあながち間違いじゃない。それは認めるよ。百歩譲って僕をどうこうしようってのはいい。だからって母さんを殺したのを許すとでも思う? 会長やラーナを苦しめているのを許すと思う? 許すわけないじゃないか」

「貴様ー!」

「全部方便さ。組織を存続させるって言ったのだって、お前らがここで喜び勇んで観戦してくれていないと困るから言っただけ。さすがにその格納庫ハンガーに置いてある荷物・・の相手をしたあとでザナストやアクスの相手をするのは体力的にも状況的にも厳しいからね」

 事実上、ガルドワ所属艦を撃沈したのちに、友軍機と肩を並べて最終決戦に臨もうと思うほど厚かましくもない。

「それで一計を案じたわけ」

「プロトツー! やはり意志など残しておくのは誤りだったか!」

「そう思うのは勝手だよ。でも、ただの人形が戦って勝ち残れるほど戦場は甘くないね。基本の部分で間違っているのさ」

 理念そのものから否定し破壊する。


 瞳を見開いた老人は顔面をどす黒く染めていく。年齢を重ねてからはこれほど小馬鹿にしたような言動を受けた試しなど無かったのだろう。


(考え抜いて、必要だったから狡猾に振る舞ったけど、もう疲れたよ)

 性分として合っていないのは明白。


 怒りに満ちた面持ちで何か吠え立てている。周囲の人間も歪ませた表情で何らかの作業を始めた。


「あまり時間は無いか……」

 そう呟くと別のウインドウが開いた。

「こちら第二艦隊司令アライア・ドミトリーだ。何をしている、クランブリッド宙士!」

「協定者の責任において問題排除行動を……、って言っても分からないか。あとでラーナに事情を聞いてね。とりあえず、この場で起こることは忘れたほうがいいよ、お姉さん」

「やめろ!」


(ごめん。やめない)

 静かな心で、薄笑みさえ浮かべてユーゴはトリガーを絞った。


 ビームは艦橋を直撃し焼き尽くす。透過金属製の窓が内側から弾け、熱波とともに燃えやすい物を火の粉にして吐き出した。

 中枢を破壊されたホーリーブライトの上方に移動し、フランカーとビームカノンで撃ち抜いていく。機関部も念入りに貫き、対消滅炉エンジンの誘爆で艦体が膨れ上がるのを確認する。


(出てくるよね)

 爆炎の中からイオンジェットが閃きアームドスキンが姿を現した。三十機、全てがナゼル・アシューである。特務艦から輸送されていたのはこれと、いずこかの拠点で生産されたそのパイロットである。


「あれかな、あれかな?」

「うん、白いからあれじゃない?」

「あれを壊したらママが褒めてくれる?」

「パパも褒めてくれるよ、きっと」

 さんざめく声。全てが幼さを感じさせる。量産品の破壊神ナーザルク


(厳しいなぁ、今のリヴェリオンの状態じゃ)

 ひどく落ち着いている。

(でも刺し違えるくらいはできる)


「壊すよー!」

「無理だよ。それに……」

 破壊神のさだめに従うべき時。

「これから始まる世界に必要ないんだ、君たちも……」


「僕も……」

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