ジレルドット攻略戦(5)
エドゥアルドとレイモンドはくだけた服装でテーブルセットへと腰掛ける。下はパンツスタイルだが上はタンクトップだ。それはラティーナが彼らに許しているからの格好である。
きちんとヒップホルスターにはハンドレーザーを吊ってあるし、ガイドにはスタンロッドも差してある。護衛として機能するのならば、日常的な重装備など要求しない。
ユーゴから、彼らが近衛隊だという説明を受けた少年少女は見惚れている。エドゥアルドは体躯も大きくかなり筋肉質であり、細身のレイモンドでも鍛えられた隆起が衣服越しでさえ分かるほどだからだろう。
「やっぱ本物の宙士はすごいなー」
「うん、すごく鍛えてるんだろうね」
コルネリアは薄着の彼らに少し頬を赤らめていた。
「僕も一応護衛なのに」
「生身の護衛は無理さ。ユーゴはアームドスキン要員。そっちじゃオレも負けるからね」
ウインクするレイモンドの前に無重力タンブラーが置かれる。ジャクリーンは多少素っ気ないながらも二人ももてなす。
「冷たいドリンクのほうがいいのでしょう?」
「ありがたい」
「分かってるね、ジャッキー。今日も美人だよ」
軽いノリの護衛に彼女は肩を竦める。
「そう思うなら婦女子を前にする時の身だしなみに配慮なさい」
「えー、野性的でよくない?」
「よくありません」
ポーズを取るレイモンドからジャクリーンは目を逸らす。が、嫌っているわけではない。二人が優秀であるのは彼女も認めているのをラティーナは知っている。
「冷たいジュース欲しいな」
ユーゴが呟くとジャクリーンは「いらっしゃい」と誘って、クールチャンバーへと連れ立っていく。
「話は聞いている。二人は仮仕官だったな」
「はい、おれもコリンも一時的にパイロットとして採用されたので」
「もう一時的とは言えないほどの期間となりますけど」
エドゥアルドの質問にかしこまって答えている。
「申し訳ないわね。移住地の兵員の事情も厳しくて、或る程度は現地の裁量に任せるしかない状況なの」
「大丈夫です。常駐艦を送ってくださってからは週の半分以上は自宅に帰っていますし学校にも通えてますので」
「せめて手当くらいは十分にしたいところね。明日にでもご両親とお話ししておくわ」
「ありがとうございます」
そこへユーゴがタンブラーをいくつも抱えて戻ってきた。二人に要望を聞いて分け合っている。
「ジャッキー、二人のギャランティはどうなっているのかしら?」
彼女はすぐに情報パネルを立ち上げた。
「現在は仮採用扱いで一銀宙士相当の階級給になっておりますね。その他に戦闘時の危険手当と訓練時の呼集手当も付いています。えー……」
「どうかした?」
珍しく言い淀んでいる。
「契約書は交わされておりますが、ご両親の承諾手続き関連にいささか不備が見られます」
「明日までに揃えて。私がお話しします」
わずらわせているのが心苦しいのか少年たちは小さくなる。
「お? おいおい、ちょっと待ってくれ。この戦果は……」
「うむ、階級に見合っていないな」
「演習でもこれだけの撃墜数上げてる奴、どれだけいるって言うんだ? 金線に届いていたっておかしくない数字じゃん」
覗き込んだ近衛隊員は驚きの声を上げた。数字的には金線宙士の階級でも変ではないと言っている。
「でしょ? だから今度の作戦だって、おれたちも役に立ちますって」
一転して得意げになるルフリット。
「いや、ジークロアと基地の所属機はオレたちの指揮下で直掩に付く配置になってるのさ。だから基本的には戦闘はない計画なんだ」
「え?」
「わたしたちは戦わなくていいのですか?」
二人は意外な話に呆気に取られている。
「そんな……。ユーゴともいっぱい訓練したし、別れてからもフィメイラのデータでずっとシミュレータをやって頑張ったのに、いざとなったら……」
「ちょっと待って」
(この二人の技量は高い。それは証明済みだけど、だからといって彼らを危険な場所へやっていい理由にはならない。でも……)
彼らはユーゴとの相性がいいのだ。
(組ませれば戦力として格段に上がるし、ユーゴもあまり無理をできなくなる。目の届かない場所に突入させるならこの二人が最適だわ。例の提案の件もあるから視覚的効果も)
ラティーナの中で司令官としての計算が働く。
『ユーゴの助けとなってくれるだろうか?』
「できるよ!」
「できます!」
『頼めるか、ラティーナ』
リヴェルも賛同してくれる。これで決まりだ。
「二人の分の二銀宙士用契約書を用意して、ジャッキー。作戦終了後には三銀宙士に昇格してもらいます。だからお願い、今回の作戦ではユーゴと三機編隊で突入戦に参加してくれないかしら?」
「はい!」
「危険性に関してはご両親ともお話しします。もし、反対されるのでしたら外すことになるけど、そのつもりでいてくれる?」
引き締まった顔での敬礼が返ってくる。
(私は子供たちにも戦闘を命じる。でも、その責任は全て背負うわ。彼らがのちにどんな選択をしようと最後まで面倒を見る)
それが決意だ。
(ユーゴだけに死を背負わせない。そのためにもう一度ゴートへ降りてきたんだもの。彼らの心を守るのが役目)
紛争の結果を全て背負う。覚悟を決めてラティーナは司令官を拝命したのだ。
表では微笑みを湛えて礼を言いつつ、心中には覚悟を秘めていた。
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