第396話『うちのWBC』

せやさかい


396『うちのWBC』さくら   





 WBC…………字面で見ると、トイレのドアを二本の指で開けてるとこに見える。


 言葉で聞いても、ダブルビーシ、ダブルシー、なんかトイレっぽい。


 思わへん?


 思わないよ( ´艸`)。




 コタツに向かい合って座ってお煎餅齧りながらテレビを見てる。


 テレビ言うても放送局の実況と違って、ユーチューブ。


 留美ちゃんと二人、ライブでは見られへんかったWBC決勝戦、日本VSアメリカ戦のダイジェストを観てる。


 留美ちゃんは感動しまくりやねんけど、うちはあかん。


 どうも、野球というのは性に合わん!


 どうも、うちは日本人としてはかなり珍しい部類に入るんやと思う。


 


 たとえばさ、古典の授業で万葉集とかあるでしょ。


 うちは、言葉の意味が分からんでも、なんとなく耳に心地い言葉を聞いてるだけで面白い。


―― あかねさす紫野(むらさきの)行き標野(しめの)行き野守(のもり)は見ずや君が袖振る ――


 最初聞いた時はチンプンカンプンやねんけど、なんか、リズムのええ和歌やなあと思た。


 ポップスの歌い出しとかサビのとことかに使ったら印象的かも。


『これはね、額田王(ぬかたのおおきみ)っちゅう天智天皇の奥さんが紫の花が咲き乱れる御料地の野原を歩いていると、野原の向こうを歩いている大海人皇子という旦那の弟が親し気に手を振って来る。そんなことしたら、御料地の管理人が――あの二人はおかしい(^_^;)――と思うでしょ! っていう、人妻額田王の気持ちを明るくおかしく歌ったものなんです』


 先生の説明を聞いて、うちは、めっちゃ面白かった(#^▽^#)。


 際どい内容やねんけど、言葉の響きが明るくてテンポも良くて、面白かった。留美ちゃんも顔を赤くしながらもウフフて笑ってたしね。


 せやけど、クラスの半分以上は―― あ……そう…… ――いう感じで板書をノートに写すだけ。




 万葉集と野球はいっしょになれへん!




 ほな、これは?


 中学の時、社会の授業でペコちゃんが蹴鞠のビデオを見せてくれた。


 蹴鞠っちゅうのは、貴族のオッサンらが、神主みたいな装束で輪になって鞠を蹴り合うという遊び。


 うちは――ああ、これやったらできるかも――と思って、面白かった。


 なんせ、ボールを落とさんように蹴るだけで、サッカーみたいにややこしいルールはない。


 けど、みんなの食いつきは微妙で、ペコちゃんは5分ある動画を2分で止めてしもた。


「う~~ん、かなり珍しい部類に入るだろうねえ(^_^;)」


 留美ちゃんは、ええ子やから、あからさまには言わへんけど、へんなやつて思てるやろねえ。


「大谷翔平って、すごいけど、なんか爽やかだよねえ……」


 インタビューを受けてる大谷翔平に溜息つく留美ちゃん。


「大谷て門主さんと同じ苗字やけど関係あんねんやろか……」


「……え、そうなの?」


「いや、こんなニイチャンが住職やったら檀家増えるやろと思て」


「……特に関係はないみたい」


 真面目な留美ちゃんはスマホでググってくれた。なんか申し訳ない。




 ガラ




 襖が開いて、うちのクソ坊主が顔を覗かせる。


「明日、親鸞聖人八百五十回忌のお勤めやるさかい、そこのトイレ掃除しといてや」


「ええ!」


「あ、はい」


 うちの不満を押しのけるようにして留美ちゃんがええ返事をする。クソ坊主は留美ちゃんには笑顔を、うちにはアカンベェをして行ってしまう。


 うちは、お寺なんで三つもトイレがある。


 家族用の家のトイレ  境内のトイレ  本堂裏のトイレ


 クソ坊主が言うてきたのは、本堂裏のトイレ。


 報恩講とかの行事やら、本堂でやるお葬式やら行事の時のトイレ。まあ、普段はうちらも使うさかいええねんけど。


 

「ねえ、本堂裏のトイレ、WBCって呼び方にしよか!?」


「え?」


 いっしゅん息を呑んで、アハハと笑う留美ちゃん。


 うちもアハハと笑って、WBCの掃除に行った。





☆・・主な登場人物・・☆


酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生

酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。

酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居

酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父

酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる

酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生

酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 

榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 

夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生

ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉

ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長

月島さやか       さくらの担任の先生

古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン

百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長

女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首

江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  

さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)

  

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