第373話『モデル! モデル!! モデル!!!』

せやさかい


373『モデル! モデル!! モデル!!!』さくら    





 登校風景は普通に撮った。



 普通と言うてもスケールアップ。


 なんせ、高校生声優で前生徒会長の百武真鈴! ヤマセンブルグ王女の頼子先輩!


 後輩やら取り巻きやらファンやら、その場に居てた者が三十人ほど、最初は観てるだけやったんやけど「登校風景だから、いっぱいいた方がいいよ!」と真鈴先輩の呼びかけで、五分後には百人ぐらいに増えた。


「う~ん、百人じゃ途切れてしまうなあ」


 頼子さんが言うと真鈴先輩が手を叩く。


「昇降口まで行ったら、通用門から出て正門に戻って、OK出るまで通ってくれる? カメラ目線にだけはならないようにね!」


 ということで、リアルの登校風景みたいな迫力になってきた。


 みんな、撮影とあって、日ごろ以上に丁寧で、急きょ職員室から出てきた先生らも登校指導いう感じで正門の両脇に居並ぶ。


「カットカット!」


 真鈴先輩がNGを叫ぶ。


「ダメですよ、そんなに先生が並んじゃったら、めちゃくちゃ指導のキツイ学校に見えますから! 長瀬先生と校長先生だけにしてください。他の先生方は……」


 生徒と一緒に出勤する先生、授業の準備風に遠くを歩く先生、職員室の窓を開ける先生、開けた窓の中で一瞬だけ見える先生……と、完全にモブ配置。


 いつもやったら、十人に一人ぐらいは服装やらマリア様への礼の仕方で注意されるんやけど、注意されたんはうち一人。


「さくら! 芝居のやり過ぎ!」


 マリア様のありがたさに立ち眩む 涙ぐむ 投げキッス 最敬礼……全部NG


 


 昇降口では真鈴先輩の演出が滑った(^_^;)


 下足ロッカー開けたら……ゴキブリが出てきた! 手紙が入ってた! 人の上履きが入ってたと思たら隣のロッカー開けてた! ノブを曳いたら蓋ごと取れた! 


「ぜんぶ、実際にあったことなんですけど(^0^;)」


 みんな喜んだんやけど、長瀬先生の「NG!」には逆らえません。




「餌場に行くサルみたい!」


 学食へ行くシーンでは、またうち一人怒られる(;'∀')




 保健室のシーンでは、ソニーが軍隊式に負傷者を運んできて(負傷者の襟首掴んで匍匐前進で引っ張って来る)NG


 それではと、体育の授業風景……創作ダンスをやったら、真鈴先輩は決まり過ぎてNG


「じゃ、さくら組が真似してやってみなさい」


 うちらが真似してやったら、一発でOK。うちらの普通っぽいとこがええのやそうです。




 百メートル走をヒギンズ姉妹(ソフィーとソニー)でやったら日本新記録でNG


「では、世界新で走ります」


「いや、そういう話じゃないから(-_-;)」




 チャペルのシーンでは頼子さんの祈りを捧げるシーンが真に迫って、ついつい見とれる。


 やっぱり本物はちゃいます。




 休み時間のシーンでは、あえて脚だけ撮りました。


「全身の演技は難しいけど、脚だけだったら、わりと普通に撮れるし、いい表情出るかも」


 これも真鈴さん。


 で、やってみたら、なるほど足は口ほどにものを言いです。


「京アニが、足とか手とかだけの描写がいいですよね」


 留美ちゃんの指摘。


「アハハ、京アニのパクリ、やっぱバレたぁ?」


 と頭を掻く真鈴先輩。




 と、いろいろ撮った最後に校長先生の談話をチャペルで撮ります。




「ご覧になったように、我が校の生徒も先生方も、ほんとうに多士済々。みんな、自然な環境と云うか校風の中で教え教えられ、楽しくやっています。みなさんも、どうぞ、この聖真理愛学院の輪の中に加わってみてください。マリア様と共にお待ち申し上げております」


 めちゃくちゃ自然な微笑みになって、見ていたうちらも―― 校長先生に全部持っていかれてしもた ――と思いました。


 せやけどね、校長先生は、こうおっしゃるんです。


「いえいえ、みなさんが楽しそうにやっているところを見せてもらって、本当に嬉しくって、楽しくって、幸せな気分になって、自然に喋っただけです。わたしこそ、ほんとうにありがとう」


 そう言って、にっこり微笑まはって、期せずして、みんなで拍手してしまいました。




☆・・主な登場人物・・☆


酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生

酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。

酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居

酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父

酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる

酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生

酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 

榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 

夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生

ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉

ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長

月島さやか      さくらの担任の先生

古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長

女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  


  

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