第337話『本番』

せやさかい


337『本番』さくら    





 いよいよ本番。



 エディンバラに来てからは、スコティッシュダンスの練習がメインで、まだろくに観光とかはできてない。


 レッスンの休憩時間に三十分ほどメインストリートであるロイヤルマイル(エディンバラ城に続くメインストリート)をぶらつく程度。


 それでも、ミリタリータトゥーの本番が終わったら、あっちに行こう、こっちを見ようと計画。それだけでも、けっこうおもしろい。よう言うやんか「旅行は計画を立てている時がいちばん楽しい!」て。


 その旅行案内が、パンフでもなく、VRでもなく、リアルに目の前にあって、毎日「あーでもない、こーでもない」とお喋りできるのは贅沢なことやと思います。


 昨日は、特別にアンソニーさんがお昼をご馳走してくれはった。


 実はね、一昨日の昼休みに知ったんやけど、ハリーポッターが書かれたエレファントハウスいうカフェが、去年の暮れに火事で焼けたのを知ったんです。


 ええ、うっそぉぉぉぉ!!


 女の子が驚くと、たいていこの叫び声になります。


 みんなでムンクの『叫び』みたいな顔になってしまう。


 アンソニーさんが連れて行ってくれたのは、昔の貴族さんのお屋敷を改造したレストランやねんけど、それ書いてたら肝心の事が書かれへんので、今は置いておきます。



 そう、今日の主題はミリタリータトゥーなんですわ!



 今年は、観客として観てるんやなくて、自分自身が出場者やおまへんか!


 出番はラストの一つ前。


 地元のスコティッシュダンスの一団に混じってお城の大手門から出て大手前広場に並ぶ。


 みなさんと一緒にワンコーラス分踊るんですわ。まあ、盆踊りのノリですね。


 一曲終わって全員で決めポーズになって、アナウンスが入る。


『ご来場のみなさん。本日は、日本の高校生グループがいっしょに参加してくれています! 日本は大阪の聖真理愛学院高校のみなさんです!』


 もう、これだけで「「「ウワア!」」の歓声ですわ(^_^;)。


 すると、地元のみなさんが、わたしらを残して輪にならはります。


 自動的に、真ん中に残ったうちら六人(さくら、コトハ、留美、メグリン、ソフィー)は、晒し者みたいにスポットライトをあてられて、もっかいワンコーラス。


 ほんまやったら、河内音頭の一発もかましてみたい気になるんですが、グッと堪えて真面目にやります。


 実は、言われてたんは、ここまでで、あとの展開は分かりません。


 このままやったら24時間耐久スコティッシュダンス! まさかね(;'∀')!?


 すると、わたしらの後ろで、ハードシューズのステップの音!


『みなさん、我がスコットランドの友邦であるヤマセンブルグ女王陛下のソロステップであります』


 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


 なんや、ものすごいことになってきました!


 踊りながら目の端でチラ見する……え、これが、あの女王陛下!?


 伝統のタータンチェックのキルトで軽やかに踊らはる姿は、いつもよりニ十歳は若く見えます!


 陛下の脇には、同じキルトの衣装でバグパイプを吹いてるジョン・スミスとメグさん。


 うちらは、所定の位置で、言われた通りステップを踏んで踊りまくる。


 すぐに、陛下が、うちらの前に出てきはって、うちらは自動的にバックダンサー。


 正直、バックダンサーの方が気ぃ楽(^_^;)


 それにしても、メッチャハツラツの女王陛下。スピンして、うちらの方を向くときは、一瞬のウィンク。


 いやはや――やったったー!――いう感じのドヤ顔クィーンですわ!


 

 で……これだけやないんです。



 大手門から、陛下と同じコスのネエチャンが現れて、小走りで陛下の横に立ってステップを踏み始めた。


『みなさん、ヤマセンブルグのプリンセス、ヨリコ・スミス・メアリー・アントナーペ・エディンバラ・エリーネ・ビクトリア・ストラストフォードエイボン・マンチェスター・ヤマセン殿下の登場です!』


 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


 もう、何回目か分からん歓声が起こる!


 それで、ワンコーラス終わると、女王陛下は優雅に退場されて、頼子さんのソロになる。


 いつの間にか、ソフィーが抜けて、ソニーといっしょに頼子さんの横でバグパイプを吹いてる。


 うちらは、ひたすら三十秒でワンクールのステップを踏むだけやけど、頼子さんのそれは、千変万化!


 上げる足は90度どころか、もう頭の高さまで上がってるし、後ろに跳ねた足は、自分のお尻を蹴るんちゃうかいうぐらいやし、クルクル回る時は、お正月のコマみたいやし!


 そして、バグパイプは再びジョンスミスとメグさんに引き継がれ、ソフィー姉妹は頼子さんの横で、負けへんくらいのステップを踏んでる。なんや、新しい主従のお披露目みたい。



 え……これって、あきらかに、ヤマセンブルグ王室の代替わりを暗示してる。


 すると、それまで周りで輪になってた地元の皆さんが入ってきて、ドガチャガの群舞になってしもた。


 いよいよ、エディンバラもクライマックスの予感。


 


☆・・主な登場人物・・☆


酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生

酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。

酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居

酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父

酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる

酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生

酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 

榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 

夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生

ソフィー      頼子のガード

ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド

月島さやか     さくらの担任の先生

古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

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