第335話『ハードシューズ』

せやさかい


335『ハードシューズ』さくら         






 その昔、おばちゃんが子どもの頃に『キャンディキャンディ』というアニメが大人気やった。



『ポニーの家』という孤児院にキャンディーという、ブロンドでツィンテールの女の子がおった。


 活発で元気なキャンディーは、孤児院の近くにある丘が大好き。遊びに疲れた時や、悲しいことがあった時は、この丘に上がって風に吹かれている。


 ある日、丘に上がっていると、どこからともなくバグパイプの音色が聞こえてきて、キョロキョロ探していると、木の陰から現れたのが『丘の上の王子さま』やねんて。


 その時、少しだけ話せたことが、キャンディーの支えになって、いつか再開することが夢になっていく。


 苦しいとき、悲しいときは、この『丘の上の王子さま』を思い出して、苦労しながらも明るく元気に波乱万丈の人生を生き抜いていくキャンディー。


 そんなキャンディーは、当時の女の子のハートを鷲づかみにした、少女アニメの金字塔……なんやそうです。


 

 昨日の朝食の時、執事のアーネストさんがソフィー姉妹といっしょに、朝食のBGMと練習を兼ねてバグパイプを演奏してくれてた。それが、たまたま繋いだスカイプで聞こえたもんやから、テイ兄ちゃんを押しのけておばちゃんが聴きいったという次第。


「え、わたしが丘の上の王子さまなのですか!?」


 その話を頼子さんから聞いたアーネストさんは目を丸くして驚いた!


「『丘の上の王子さま』というのはね……」


 さらなる説明をしようとしたら、アーネストさんは、頬を染めて、こう続けた。


「わたくしは、とてもとてもアルバートおじさんなどでは……(n*´ω`*n)」


「「「え、アルバートおじさん?」」」


 え、うちらは『丘の上の王子さま』の話をしてるんで、アルバートなんちゅうもんは……


 ところが、話が進むと分かったんです。


 アーネストさんも、子どもの頃に妹たちといっしょに英語吹替版の『キャンディキャンディ』を見てはったんですわ!


『キャンディキャンディ』は『ベルばら』と並んで世界的なアニメやったんですねえ。


 波乱万丈の最終回に、丘の上の王子さまはアルバートさんやいうことが分かるんやけど、あたしは『キャンディキャンディ』知らんし、ネタバレになってもあかんので書きません。


 せやけど、地球の裏側同士で、同じ時代に同じアニメ観てて、ウン十年後に感動を共有できるのはスゴイと思いません!?


「おかげで、練習がきつくなったんだけど」


 ゴルゴ13に娘がおったら、こんなんやろいうくらいの仏頂面でソフィーにグチられた(^o^;)。


「如来寺のおばさんが独身だったら、ドラマが始まったかもね……」


 むりやりパソコンの前に座らせられたアーネストさんは、もう真っ赤っか!


 アーネストさんは、若いころから執事の仕事一本の人で、チャンスが無かったのか、いまだに独身。


「おばちゃんが独身やったら……」


 アーネストさんが二分そこそこで出て行ったあと、画面のおばちゃんを冷やかしてみる。


「オバサンをからかうもんじゃありません」


「せやかて、おばちゃんきれいやんか!」


 これは本心。


 子どもの頃から心の中でお母さんと比較してたんやけど、二割り増しくらいでおばちゃんの方がきれい。


「アハハ、じゃ、これからお洗濯だから」


 明るくスカイプを切るおばちゃん。



 ジィィィィィ



「なによ、さくら」


 思わず、詩(ことは)ちゃんの顔を見てしまう。


「おばちゃんて、詩ちゃん似やねんね」


「それって、逆だよ(^_^;)」


 留美ちゃんが注釈。


 けど、うちの頭の中では、整合性がとれてるんです。どっちも同じDNA、モテることに違いは無い。


「あ、でもね、うちの兄貴もお母さんのお腹から生まれたんだよ」


「あ、せやった!!」


 テイ兄ちゃんと同じ遺伝子もおばちゃんは持ってるわけで、あのおばちゃんにも変態の資質が!?


「もう、バカなこと言ってないで、レッスンの車出ちゃうわよ!」


 

 スコティッシュダンスの練習も三日目です。



 ダンスの先生はアンソニーいう若いニイチャンやねんけど、教えるのがメチャ上手い。


 頼子さんは、小さいころに習ったことがあるらしく。アンソニー先生から指導されることは無くって、先生の助手みたいな立場に立って、主に、うちと留美ちゃんを教えてくれる。


 つまり、二人の先生で四人の生徒を教えるから、効率がよくって、昨日の終り頃にはサマになってきた。


 そのアンソニー先生が、頼子さんに一足の靴を渡した。


 それも、跪いて王女様に渡すみたいに……って、もともと王女様(正式やないけど)やねんけど。


「今日からは、これで練習してください、殿下」


 語尾にも殿下を付けた!


 むろん英語やねんけど、うちらも聴き慣れた「Your Highness」が付いてたからね。


「ゲゲゲ!」


 頼子さんは、ここへきて三度目のゲゲゲのヨリコ!


 それは、うちらが履いてる「ソフト」言われるダンスシューズと違って、カッチリした革靴になってる。


 グイっとかえした靴底には、つま先の方に硬くて分厚い皮底が付いてる。その名もハードシューズ!


「やっぱり、いよいよなのね……」


「はい、いよいよです、Your Highness!」


 アンソニー先生の目は、舞踏会にシンデレラを誘う王子さまみたいやった!




☆・・主な登場人物・・☆


酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生

酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。

酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居

酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父

酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる

酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生

酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 

榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 

夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生

ソフィー      頼子のガード

ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド

月島さやか     さくらの担任の先生

古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

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