第331話『美しき青きドナウ』

せやさかい


331『美しき青きドナウ』さくら   





 探偵ごっことかで疲れて寝てしもた。


 

 目が覚めると……ウィーン!


 ウィーン言うたら『美しき青きドナウ』やったっけ?


『美しき青きドナウ』ちゅうとウィンナソーセージが浮かんでくる。


 なんでやろ?


 せや、ウィンナワルツの代表作やいうて、音楽の時間に習ったんや。


 ウィンナ言うたら、お弁当のおかずの定番ですやんか。


 起き抜けの車窓には旅行案内のプロモ動画みたいにきれいなウィーンの街。


 トルコはエキゾチックで、タイはパゴダと緑のコントラストがすてきやった……ウィーンは、なんか、異世界系アニメが始まりそうな、赤と青の鬼娘のメイドがお買い物してそうな。タイとは違うねんけど、建物と緑の調和が美しい。


 あ、ええ匂い!?


 それこそ、ウィンナソーセージが焼ける匂いがしてきた。


「おはよう、みんな起きてるわよ!」


「早く顔洗って、食堂車いくよ!」


 留美ちゃんと詩ちゃんが、一言ずつ言って消えていく。


 コンパートメントのドアが開きッパになってて、その後も、頼子さんとメグリンが「いつまで寝とんねん」的なことを言って通り過ぎていく。


「ちょ、待って!」


 立つと、出すもん出したくなって、お手洗いに直行して、手櫛で髪を整えただけで食堂車に向かう。



「なにこれ!?」



 テーブルに載ってるのは、ちゃんとした朝食。


 スクランブルエッグにウィンナソーセージまで付いてるやおまへんか!


「食器は使ってもいいんで、戦闘糧食を温めて、それらしく盛り付けてみただけよ」


「ソフィー、すごいよ!」


「わたしも手伝ったんだからね」


 頼子さんがドヤ顔。


「一時間ちょっとで駅に着いて、そこから車で空港。もう飛行機は着いてるから、そのままエディンバラに飛ぶわよ。慌てなくてもいいけど、ゆっくりガールズトークしてるほどの時間も無いからね」


「イエス、マム!」


「私服でいる間は、そう言うのかんべんしてくれる」


 せや、飛行機に乗ったら、ソフィーは新米少尉に戻って任務やねんわ。


「でも、ウィーン素通りというのも寂しいわね」


「ウィーンの空気は吸えます。空気を知っていれば、いくらでも世界は広がりますよ」


 詩ちゃんを励ますメグリン、この前向きなとこは、お父さんに付いて引っ越しばっかりしてきた強さやろね。


 メグリンに感心したとこで、ソーセージにかぶりつく。


 パキ


 小気味のええ音がして、口の中にジューシーなソーセージのお汁が広がる。


 戦闘糧食グッジョブ!


「ねえ、やっぱり美味しいもんは、後にとっといたん?」


「ううん、昨日といっしょだよ」


「せやけど、ぜんぜんちやうし!」


「う~ん、湯せんじゃなくて、フライパンで火を入れたことと、やっぱり器が違うからよ」


「うん、そうかもしれへんけど、それを思いついて実行したソフィーは、やっぱり偉いと思うよ」


「そ、そんな、褒めたってなにも出ないわよ(#'▽'#)」


「ウフフ(*´艸`*)」


 ソフィーが照れてる。ソフィーにとっても、このオリエント急行は、ええ息抜きやってんやろね。


 ジョン・スミスの企みかなあ、あのオッサンもダテに大佐の階級章を付けてるわけやないみたい。


「あ」


 頼子さんが小さく声を上げる。


「今日は、8月8日だよ」


「え?」


「「「あ」」」


「え?」はあたし「「「あ」」」は他の三人。


「原爆忌だったんだ」


 頼子さんが、静かに目をつぶって手を組む。うちらも、それに倣って三十秒の黙とう。


 去年は、詩ちゃん留美ちゃんと散歩してて、たまたま通りすがりの家から原爆忌のライブが流れてきて、思わず手を合わせた。


 頼子さんも、留美ちゃんも、こういうことが自然にできる人やねんわ。


 いや、メグリンもソフィーも。


 明日は、長崎の原爆忌。忘れんようにしよ。



 黙とうの後は、お茶飲みながら、みんなでワチャワチャとお喋り。


 気ぃついたら、みんなのスマホにメグさんからの一斉送信の――そろそろですよ――のメール。


 ちょっと慌ててるソフィーが可愛かったぁ!




☆・・主な登場人物・・☆


酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生

酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。

酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居

酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父

酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる

酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生

酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 

榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 

夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生

ソフィー      頼子のガード

月島さやか     さくらの担任の先生

古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン


 


 

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