第315話『さくら的民の竈』

せやさかい


315『さくら的民の竈』さくら   





 この組み合わせは無いと思う。



 体育の後の数学とか英語。


 前も言うたけど、中間テストで、英語と数学が欠点やった(;'∀')。


 一学期の成績は、中間テストと期末テストの点を足して二で割る……だれでも知ってるよね。


 せやさかい、うちは、期末テストでは、数学と英語に関しては40点ではあかへんのです!


 最低でも42点くらいは取らんと、一学期の成績が欠点で確定してしまう!


 せやさかい、数学と英語は目ぇしっかり開けて見て、耳をかっぽじって聞いとかならあかんのです!




 それが……Z Z Z Z Z Z




 つい寝てしまうんです。


 今月の二週目から、体育はプール。


 終わった後は、めっちゃ眠たなってしまうんです……Z Z Z Z Z Z




 あ、あかん!




 いつもやったら、後ろの留美ちゃんがシャーペンの消しゴムのとこでツンツンしてくれんねんけど、今日は、それも無い。


 留美ちゃんは、プールの授業頑張り過ぎて、ちょっと保健室で寝てる。


 せやから、起こしてくれるもんも居らへんし……Z Z Z Z Z Z


 


 スーーーーースーーーーースーーーーー




 なんや、風が吹いてくる。


 教室にはエアコン入ってるけど、エアコンの風とはちがう……なんや、もっと優しい風や……




 がんばって目を開けると、教室のみんなも先生もおらんくて、どこかで見たことのある人が立ってる。


 歴史で習った厩戸皇子(うまやどのみこ)みたいな着物着て、腕組みして高欄の向こうの景色を見てる。


「厩戸皇子ではない、聖徳太子だよ」


「え、聖徳太子さんですか?」


「ごりょうさんだよ」


「え、ごりょうさん……仁徳天皇!?」


「そうだよ、いつだったか、お寺にお邪魔して以来かな?」


「え? あ、あ、その節は……」


 とりあえず、手を合わせて頭を下げる。


「ハハハ、わたしは阿弥陀さんじゃないから、手を合わせることはないさ」


「は、はひ、仁徳天皇さま!」


「さまは付けなくていいよ。天皇とつけるだけで、もう尊称だからね。堺のみんなが呼ぶ『ごりょうさん』でいいかな」


「は、はい、ごりょうさん!」


「さくらはいい子だ」


「あ、ありがとうございます!」


「それより、ここに来て景色を見てごらん」


「はい」


 高欄に手を添えて、下の景色を見る。


 生駒山の裾から、田んぼの間にいくつも家々が見える。みんな、将来は堺や平野や八尾やら、大阪の街に発展していく家々、村々や。


 あれ?


 見てると、あちこちの家々から、ささやかな煙が上がる。


 あ、これは、民の竈は潤いにけりや!


 前に見た時は、民の竈から上がる煙がまばらやったんで、ごりょうさんは「むこう三年、民の税を免除せよ」とかおっしゃって、宮殿の雨漏りも直さんとほっとかはった。


 三年たって、もっかい景色を見たら、民の竈は潤いにけりやったさかい、やっと税を復活しはったいう、ごりょうさん、ここ一番のエピソード。


 え?


 ところが、あちこち立ち上ってる煙は、ちょっと赤い。


 ちょっと前に、お祖父ちゃんが見てた黒澤明の『天国と地獄』いう白黒の映画を思い出した。


 誘拐犯に渡した身代金を入れたカバンに細工がしてあって、燃やしたら赤い煙が出るようにしてたんや!


 黒澤明監督は、スタッフに命じて、フィルムの一コマ一コマの煙を赤く塗って効果をだしたんや。


 めっちゃアイデアやし、めっちゃ労力かけてるし、スゴイと思た!


「よく見るんだよ、あれはね、あの竈の煙がたっているところには、中間テストで赤点をとった子たちがいるんだよ」


 え!?


「わたしの祈りが足りなかったんだねぇ、これも、大君たるわたしの徳が足りないからだ。わたしは、あの赤い煙が無くなるまで……なにも食べないことにするよ」


「そんな、畏れ多いことを」


 見ると、ごりょうさんは、ハラハラとご落涙されてはります。


 グ~~~~


 早くも、ごりょうさんのお腹の虫が鳴き始めます。


「そんな、そんな、うち、頑張りますよって、ごはんは食べてください! お願いです、ごりょうさん!」


 グ~~~~


「せ、せめて、その空腹の満分の一でもお引き受けしますよって!」


「そうかい、さくらは優しい子だ……それなら少しだけ……」


 グ~~~~


 今度は、うちのお腹が鳴った。


 え? え? めっちゃお腹が減ってきて……あかん、飢え死にしそうになってきた!




「もう、バカな夢見てないで、勉強しなさいよね!」




 保健室から帰ってきた留美ちゃんに怒られる。窓際では、メグリンが下敷きで仰いでくれながら笑ってるし!


「アハハハ、下敷きで煽ってあげたのは逆効果だったわね」


 さくらが、アホな夢見たいう話でした。ちゃんちゃん。




☆・・主な登場人物・・☆


酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生

酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。

酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居

酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父

酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる

酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生

酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 

榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 

夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生

ソフィー      頼子のガード

古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

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