第171話『小鳥が来る街』


せやさかい・171


『小鳥が来る街』    





 あれは『小鳥が来る街』だった。



 ほら、ソフィアが感動したパッカー車(ゴミ収集車)のメロディー。


 1964年というから、もう半世紀以上も昔、大阪市の環境緑化運動の曲として作られ、島倉千代子さんという女性歌手の人が歌っている。


 かわいい小鳥ガ来る街は~ 緑を映した空あ~がある~(^^♪


 きれいで可愛い歌詞なんだ。


 世界中にいろんなゴミ収集車があるんだろうけど、こんな可愛いメロディーを奏でながら仕事をしているのは日本だけだろう。


「懐かしいわねえ……」


 ブログの記事にするために原稿を見せに行くと、院長先生は遠い昔の事のように微笑まれた。


「あの、今でもゴミ収集車が流してるんですけど」


「いえね、この歌が出来た時に大阪中の小学校に録音テープが送られてね、運動会じゃ、それにフリを付けて子どもたちに踊らせたのよ」


「え、そのころから先生やってらっしゃったんですか!?」


 わたしは素直に驚き、計算の早いソフィアは院長先生を化け物を見るような目で見ている。そうだろう、院長先生が新任の先生であったとしても66年も昔、86歳以上にはなっている。先生はどう見ても60歳は超えていないはず。


 伸ばした皴をウィンプルの中に隠しているとか? ますます化け物!


「アハハ、違うわよ。わたしが踊らされたの。小学三年生だった」


「あは、そうだったんですか(^_^;)」


「男の子と手を繋いで踊るのよ、男子が外側、女子が内側の輪になって逆に回るの。二回続けてやると、クラスの男子総当たりになって、とっても嫌だった。神父の息子ってのが居てね、他の女子には人気が合ったんだけど、わたしは、その子こと嫌いで。女の子って嫌いになると、その子に関わるもの全部が嫌いになって、キリスト教も嫌いになった」


「え?」


「でも?」


「アハハ、それが修道女になって、今ではミッションスクールの学院長。人生って面白いわねえ」


 先生は面白い人生を歩んでこられたようで、含みのある笑顔に、うちのお祖母ちゃんと同質の深さを感じる。これは日を改めて聞いてみたいものだわ。


「そうだ、ゴミ収集車のメロディーって街によって違うから、興味が合ったら調べてみるといいかもしれないわ」


「そうなんですか?」


 ソフィアが身を乗り出す。


「ええ、他にも自治体や街によって独特のメロディー使ってたりするから、そういうのも面白いかもしれないわね」


「はい、調べてみるデス!」


 どうやら、わたし以上にソフィアは散策することに、散策して発見することに燃えてきたようだ。


 軽い気持ちで始めた散策部だけど、ソフィアとコンビなら、まだまだ面白い部活になりそうだ。

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