第137話『隔離十二日目』

せやさかい・137


『隔離十二日目』(頼子)  






 A新聞にひどい記者が居た。



 台湾政府が武漢肺炎のために全ての入国者を二週間の隔離すると決めた日に台湾に渡航したのだ。


 台湾政府は、このA新聞の記者を含め、同じ飛行機で来た者を隔離施設であるホテルに隔離する。


 記者は、その隔離生活を毎日レポートして隔離生活をエンジョイしたのよ。



 ホテルに着くと、二週間の隔離生活についてのレクチャーを受け、二週間分の身の回り品を支給される。


 記者は、それをベッドの上に並べ、品質と値段を推測。


『おおよそ〇万円くらい? 思ったより、品質の良いものが入ってる。シャンプーも好みかな?』


 空き時間は、ホテルの中を探検して叱られてる。隔離の本気度を確かめているんだ。


 三度の食事は、むろん部屋まで持ってきてもらうんだけど、それを全部写真に撮って感想を書いては日本の本社に送って連載記事にしている。


 台湾の人たちは、外国からやってきて不本意な隔離を強いられている人たちに、とても良くしてくれてます!




 まあ、好意的には書いてるんだけど、読者からは総スカンを喰らってる。


 記事を書きたいだけに用もないのに渡航して、台湾の人たちに負担と迷惑をかけて!


 遊び気分で隔離生活を楽しむなんて言語道断!


 隔離されたいなら中国とかに行け! 隔離にかかる費用は自分持ち、そういうとこに行け!


 


 まあ、言われて当然。この記者の記事は二回で終了、三回目は新聞社のお詫び記事になっていた。


 これだからA新聞は購読者が減るんだよ!


 義憤を感じて新聞紙をテーブルに叩きつけるのとドアが開くのが同時だった。


「プリンセスも同じデス」


 語尾の『デス』で分かった人もいると思うんだけど、目の前で目を三角にしているのは、ソフィアなのよ!


 ほら、去年の夏にさくらと留美ちゃん連れてエディンバラとヤマセンブルグに行ったじゃない。あの時、世話係をやってくれたソフィア。


 お祖母ちゃんの女王陛下に「どーしても日本に帰る!」って談判したら「仕方ないわねえ、じゃ、ソフィアを連れて行くことを条件に認めましょう」と言われて、話は決まって二週間、日本で隔離生活に入って十二日、ソフィアは生真面目に任務を果たしている。


「あーいや、わたしには日本とヤマセンブルグの親善という任務があるしい……学校だって始まるしい」


「プリンセスの隔離のために、ヤマセンブルグは一日900ドル使ってますデス」


「嘘よ、500ドルだわ」


「プリンセスに部屋をとられて、総領事はホテル住まいなのデス」


「ウ……で、でも、わたしは感染なんかしてないでしょ?」


「それはですがデス」


「ソフィアにだって、分かってるでしょ!」




 ソフィアは魔法使いの末裔で、人が病気にかかっているかどうかくらいは、その邪気眼……魔気眼でお見通し。ま、そのお見通しがあるから、お祖母ちゃんは帰国を許してくれたんだけどね。


 ちなみに、ソフィアはわたしと一緒に真理愛学院に入学することになっている。むろん武漢肺炎が収まらなきゃどうにもならないんだけど。


 ソフィアは、ずっと日本に留学したがっていた。


 そのために、必死で日本語を勉強して、もう翻訳機を使わなくても日常会話には困らない程度に喋れる。


―― わたしが居なきゃ、ソフィアは留学できなかっでしょ! ――


 でも。これは言っちゃいけない。


「なにか、文句ありますか? デス」


「……ありません」


「制服ができましたデス、プリンセス」


「ほんと? 試着したーい!」


「では、直ぐにお持ちしますデス」




 ウィルス騒ぎで入学が延び延びになったこともあって、準備が何も出来ていなかった。帰国を決めた時に『じゃ、お祝いに制服を作らせてちょうだい。ソフィアの分も合わせてね』とお祖母ちゃんが目を輝かせた。承知すると、真理愛学院と王室お出入りの仕立屋さんとに連絡して、さっそくのオーダーメイド。それが、いま届いたのだ。




「おお、まるで、アニメの世界ですデス!」


 姿見に自分の制服姿を映して、ソフィアは熟れ過ぎの桃みたいになった。


 魔法使いの末裔とは言え、ソフィアも年頃の女の子だ。オフの時は日本のアニメ、特に京アニの大ファンで『たまこまーけっと』のファンで、ジャンパースカートを着るのが夢だったのだ。真理愛学院は、その上にボレロ風の上着。これがまたソフィアのツボにハマって「まるで修道女デス!」と感激しまくり。


「プリンセスも、イケてますデス!」


「あ、ありがとう(^_^;)」




 ほんとはね、日本で採寸したイージーオーダーでいきたかった。


 制服っていうのはね、入学前に、三年間の成長を見込んで、ちょっと大きめに作るものなんだ。上着の袖からは、やっと指先が出るくらいで、スカートの裾は、ちょっと長いくらい。そういうのが、ピカピカの一年生。そういうのがよかったんだけど。


 さすがは王室御用達の仕立屋さん。もうピッタリ過ぎて……でも、ソフィアがわたしの分まで喜んでくれて。ソフィアの喜びに水を差してはいけないので。ソフィアと二人で写真を撮る。


「今度は、一人だけの撮って」


「はい、さくらさんと留美さんに送るんですね? デス」


「そうデス!」




 清楚なのと、サムズアップのをスマホで送る。


 ソフィアがいっしょなのは、入学式まではナイショだよ。




 


 

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