第125話『お雛さん・1』


せやさかい・125


『お雛さん・1』  





 バレンタインの阿弥陀さんチョコは、男だけでなく檀家のお婆ちゃんらにも好評やった。



 好評ついでに頼子さんも聖真理愛女学院に無事合格。合格祝いをしよかと思たら、当の本人はヤマセンブルグに里帰り。お婆さまの女王陛下からは「サクラとルミもいっしょに」とのお言葉やねんけど、一年のあたしらは、学年末テストやらがあって、夏休みの時みたいにはいかへん。


 ほんで、放課後になると、真っ直ぐ下校して部室のコタツに潜り込んでリラックスしてる。


 知らん人のために解説。元来の部室は学校の図書分室やねんけど、畳の上でゴロゴロしてたいうちらは、わたしの家である如来寺の本堂裏の十二畳を部室にしてる。


 部室は本堂とも庫裏とイケイケで、いろいろ都合がいい。お供えのお饅頭とかお菓子は本堂直送(お祖父ちゃんが、お供え期間の終わったもんをくれる)やし、檀家のお婆ちゃんらもいろいろくれるしね。


 逆に、本堂に檀家さんらが来たら、部室に居てる間は文芸部のうちらが庫裏に知らせたり、お茶のお世話をしたり。なんせ、檀家の大半が後期高齢者。うちらが部室で控えてるのはお婆ちゃんらにも坊主であるお祖父ちゃんやおっちゃん、テイ兄ちゃんにもありがたいらしい。


 チリンチリン チリンチリン


 廊下で鈴の音。


 これは、うちらが部室に入ったのに気ぃついたダミアが『あたしも入れてほしいニャ』とやってきたシルシ。襖を開けて入れてやると、たいていは頼子さんが独占してモフモフしてる。


 その頼子さんが里帰りで居てへんから、昨日からは留美ちゃんが独占。まあ、うちは、いつでもモフモフできるさかい。


 フニャ?


 留美ちゃんがモフってたダミアが耳を立てた。


 なんやろと思うと、廊下の向こうの階段からギシギシと物音。


「なんか、運んでんねんわ」


 あたしも、ここへ来て一年近く。お寺の日常音には慣れてきた。これは、庫裏の方から何か運んでくる足音。


『ちょっと、襖開けてくれるかあ』


 テイ兄ちゃんの声、なんかええもんくれるんかいなあと腰を上げると、留美ちゃんが一呼吸早く立ち上がる。留美ちゃんは、この部室が使えるのを有難がって、お寺の役に立ちそうなことは率先してやってくれる。テイ兄ちゃんの好みは断然頼子さんやねんけど、留美ちゃんの律義さも、かなりツボ。


「うわあ、なんですか!?」


 好奇心に満ちた留美ちゃんの瞳に嬉しそうに答えるエロ坊主。


「今年は雛人形出してみよいうことになってなあ」


「せや、女の子が増えたからなあ」


 後ろに続いてたお祖父ちゃんが、テイ兄ちゃんよりも小さな箱を持って現れる。


「嬉しい! お雛さんなんですね。ひょっとして段飾りですか!?」


「ああ、まだ箱あるから手伝うてくれるか?」


「「はい、喜んで!」」


 留美ちゃんといっしょに、庫裏と部室の間を三往復。


 なんと、お雛さんは2セットもある!


「詩(ことは)のんと、歌(あたしの母)のんと二つや。ここと本堂と分けて飾ろと思うんや、どっちにするか、あんたらで決め」


「え、いいんですか!?」


 留美ちゃんが目を輝かせる。




 全部出すわけにはいかへんので、蓋だけ開けて比べてみる。




「両方とも、京都優月の、ええお雛さんやで。詩が中学に行くようになってからは出さんようになってしもてなあ」


 ダミアに「邪魔したらあかんでえ」と注意して、瑠璃ちゃんと楽しく雛選びを始めるのでありました!


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る