第112話『今日から三学期』 

せやさかい・112


『今日から三学期』 





 今日から三学期。



 昨日からの雨が残ったらいややなあと思た。


 思たからと言って、てるてる坊主をぶら下げるほど学校に情熱は無い。


―― 始業式が始まるころには晴れ間も見えてくることでしょう ――


 テレビのアナウンサーが、なんでかあたしの心情を知ってるみたいにコメントする。


 そうか、うちの安泰中学だけとちごて、今日は日本中の学校で始業式。


 そない思たら、新学期鬱もちょっとは晴れてくる。我ながら気分転換の名人……かも知れへん。



 詩(コトハ)ちゃんの制服姿も二週間ぶりに見る朝食のテーブル。



 わが従姉ながら、昔からベッピンさんやと思てたけど、いっそう磨きがかかってる。


 食卓に着く瞬間。さらりとお尻に手をやってスカートのヒダをさばく。反動で、胸と首がこころなし突き出される。で、たまに「ン……」と声を漏らす。かっこ良うて、ちょっとだけ色っぽうて、あたしの好きな詩ちゃんの一瞬。


「あら、さくらちゃんも制服板に付いてきたわね」


 詩ちゃんのお返し。


「あら、ほんとだ。四月は、ちょっと大きいかと思ったけど、なんだかピッタリ。成長してんのねえ」


 おばちゃんまでも……ちょっと照れる。


「さくらも、四カ月足らずで十四歳やねんなあ」


 テイ兄ちゃんまでノッテくると、もうかないません。


「さくらは成長が早いのんかもしれへんなあ、制服小さなったら言いや。なんぼでも新調したるさかいなあ」


 伯父さんは自分の娘同様に喜んでくれて、もう、なんや鼻の奥がツンとしてくる。


「ミス女子中学生コンテストあったら、申し込んどいてくれてええよ(^▽^)/」


 一発かまして笑いをとっとく。せやないと、顔が真っ赤になってしまうさかい。


 詩ちゃんと同じ制服、頼子さんが着てるとこを早よ見たいなあとも思った。



 学校に着くと、クラスのみんなとアケオメ。



 お祖父ちゃんなんかは「アケオメ」を嫌がる。


 新年の挨拶は「明けましておめでとうございますや」と言う、約(つづ)めた「アケオメ」はぞんざいに聞こえるんや。


 けども「あけましておめでとうございます」は、立ち止まらんと言えへん。大人は、さらに「旧年中はお世話になりまして、今年もなにとぞよろしくお願いいたします」てな具合に長くなる。そんな挨拶を付き合いの薄いクラスメートとはしてられへん。通りすがりとか追い越しざまとかに短く「アケオメ!」とかまし合うのが今の中学生。


 田中がいらんことを言いよる。


「アケオメ言う女子はアケオメコ!」


 同じことをアケオメ挨拶する女子に言いまくりよる。


 これを留美ちゃんにかました時、瀬田が田中の頭を張り倒しよった。


「え? え? なんで?」


 留美ちゃんは意味が分からん様子。


 ええねんええねん、留美ちゃんは大阪の俗語なんか知らんでよろしい。



 始業式でびっくりした。



 校長先生が、うちら一年一組の担任代行として学年主任の春日先生を紹介した。


 みんなの反応は薄かった。中には小さく喜んでる子ぉもおる。


 菅ちゃんは気ぃのまわらん先生やったさかいに。


 校長先生はボカシてたけど、お母さんの介護でニッチモサッチモいかへんようになったんや。


 阿倍野で偶然妹さんとモメテたん見てしもてたからね。

 不器用な先生やったけど、お母さんの介護がんばってください。

 できたら、妹さんとも仲良うにね。



 それぞれの新学期が始まった。

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