第110話『除夜の鐘』 

せやさかい・110


『除夜の鐘』 





 ズゴ~~~~~~~~~~~~~~~~~ン



 内臓がプルプルと揺さぶられるような振動~~~~~~~~


 みんなで交代しながら鐘を撞く。


 うちのお寺は鐘を撞くことは無かったから、ほんまに鳴ってる鐘を体験するのは初めて。


 

 小学校五年生のころ、クラスに山本君いう太っちょがおった。


 普段は大人しいて、先生に当てられても蚊の鳴くような声しか出さへん子ぉで、小さいけどもソプラノみたいに高いので女の子が喋ってるみたい。じっさい、アニメキャラの物まねが得意で、女子にせがまれては『俺妹』の黒猫やら『働く細胞』の赤血球の物まねをしてた。ソックリやねんけど、声が小さいのんで、みんなから惜しいなあと残念がられてた。


 その山本君が、音楽の歌のテストで木曽節を唄った。


 木曽のなあ~~~~なかのりさ~ん 木曽の御嶽山がぁなんじゃらほい~


 ビックリした!


 めっちゃ大きな声で、ビブラートいうねんやろか、声の響きがすごくって、「最後まで唄ってみ」と先生に言われ、普通一番だけで終わるのを三番まできっちり唄った、あの時の感動が蘇ってきた!


「スッゴイ、体がジンジンするよ!」


 念願叶った頼子さんも、最初の一発を撞いたところで大感動!


「深淵ですう……!」


 これは留美ちゃんの感想。


「ブ、ブラバンの演奏に使いたい~! 吹奏楽には本物の大砲使うのもあるんだよ!」


 というのは詩(コトハ)ちゃん。


「大砲を楽器に?」


「うん、序曲『1812年』というのが、大砲使うんだよ~!」


 初めての鐘撞体験で、みんないろんなイメージを喚起されてる。


 わたしは、うちのお寺の鐘も撞いてみたいなあと思うと同時に、あのプルプル感が便秘解消にええかと感じたんやけど、ちょっと変?



「楽しいのは、最初のうちいやでえ」



 テイ兄ちゃんが憎たらしいことを言う。


 せやけど当たってた。


 大晦日の深夜なんで厚着してたんやけど、各自十発撞いたころからホコホコしてきて、十五発くらいからは暑なってきて、マフラー取りいの、ジャンパー脱ぎいのになってきて、二十発を超えるころには手がしびれてきた。


 

 鐘撞体験をさせてくれはったんは、東近江市にある真宗のお寺。


 昔は、お寺は十人も家族がいてたし、村の若い者もいっぱいおって、一人当たり二三発撞いたら楽にこなせたらしい。


 それが、お寺は六十五歳のごえんさん一人だけになってしもて、うちらが手伝うて、ほんまに助かったと言うてはりました。


 撞き終って庫裏に戻ると、甘酒と豚汁が用意されてて、身も心もホコホコになって。


 その後は、お寺の大きいお風呂にみんなで入る。


「毎日湧かしてたら、ガス代も水道代も大変だろうね」


 頼子さんが心配するけど、燃料は裏山からとってきた薪やし、水は裏の川から汲んできたもんやと分かって感動。


「なんか天然温泉みたい!」


 留美ちゃんが喜ぶ。


 

 そして、元旦の帰りの車中、初詣をどうしようかと相談する堺の美少女たちであったのです……。


 


 

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