第106話『女王陛下の来日 二日目』 

せやさかい・106


『女王陛下の来日 二日目』 





 あくる日、皇居に向かう馬車の中に頼子さんは居た。



 むろん一人じゃなくて、ヤマセンブルグ公国女王であるお婆様といっしょ。


 大使館から皇居に至る沿道には、昨日の中継を見てファンになった大勢の人達がヤマセンブルグの国旗を打ち振ってる。急きょ警備の警察官が増員されたけど、こないだの御即位で、警察も沿道の人たちも慣れているので、穏やかに進んだ。


 相変わらず、頼子さんは制服姿で、お婆さまとは向かい合って座ってる。


 似てる!


 カメラがアップになって二人の向かい合う顔を大写しにした時に感じた。


 横顔の輪郭がソックリなだけとちごて、気品のある笑顔が、めっちゃ似てる!


 八割は女性やと思われる沿道の人らも同じやねんやろなあ、リポーターのマイクが――かわいい! そっくり! 素敵!――という称賛の声を拾ってる。


 皇居の車寄せに着くと、両陛下がお迎えになり、女王と握手される。頼子さんはお婆様に続いてご挨拶。ほら、陛下の手を取って片方の膝を引いて腰を落とす優雅なご挨拶。制服のプリーツスカートが扇を逆さに開いたみたいに広がって、めっちゃ美しい。


 そして、カメラが僅かに引かれて、次にご挨拶される方がフレームに入って来る。


 なんと、学習院の制服をお召しになった愛子さま!


 セーラー服同士の握手! いや、もうセント・セーラー服やんか!


 取材のカメラマンの人らも同じと見えて、しきりにフラッシュ!


 


 学校でも評判になったんは当たり前で、日ごろは崩し気味に着てるチョイ悪女子も。きちんと制服を着てた。


 百の説教よりも、頼子さんの制服姿は効き目があるみたい。




 その夜の晩餐会の頼子さん。


 淡いピンクのドレスに真珠のネックレス。ティアラこそ付けてないけど、雰囲気はあっぱれヤマセンブルグの王女様!


 この二日、セーラー服で人気をさらった頼子さんやけど、このゴージャスなドレスにも圧倒されますう!


 テイ兄ちゃんの視線が微妙にズレてる。リビングのテレビは80インチあるんで、ちょっと視線が違うと分かってしまうんよね。


 テイ兄ちゃんは、あきらかに頼子さんの胸を見てる!


 確かに、ドレスは胸を強調する。制服やったら気ぃつかへんけど、やっぱ、頼子さんはすごいわ!


 コホン。


 兄貴の視線に気いついた詩(ことは)ちゃんが咳払い。アタフタと視線を外して……わたしの胸見るんやない!


 宮中晩さん会が終わったころ、メールが入ってきた。


――明日、おばあちゃんが大阪に来る!――


 頼子さんからで、むろん、おばあちゃんいうのんは女王陛下。


 追伸で、こう書いたった。



――学校を訪問して、帰りに部活に寄るって言い出した!――



 一大事やあああああああああああああ!!

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