第47話『エディンバラ・3』

せやさかい・047


『エディンバラ・3』 





 英語ではない言葉。



 むろん日本語でもない言葉でサッチャーさんが挨拶する。


 頼子さんも同じ言葉で挨拶を返す。


 え、どないなってんの?


 不思議に思うと、次からは日本語になった。


 たぶん、わたしらにも分かるようにという気遣い。それにしても、サッチャーさんも日本語がお上手。


 感心してたら、わたしらの前に来た。背筋が伸びてキリっとしてて、いよいよロッテンマイヤーさん。


「お待ちしておりました。どうぞ我が家だと思って素敵なバカンスをお過ごしください、さくらさん、留美さん」


 にこやかに握手してくれはる。


 女の人やのに、大きな手で包み込むように優しい感じがする。


「よ、よろしくお願いします」


 それから、サッチャーさんは順番にお屋敷の人らを紹介してくれはる。執事のアーネストさんは分かったけど、他の人は上の空で聞いたそばから忘れてしまう。


「では、お二人のお部屋にご案内します。お荷物が整理で来ましたらスィティングルームにおこしください、ご休憩いただきながら、いろいろとご説明させていただきます」


 サッチャーさんが指を立てると、メイドさんがわたしたちの荷物を持ち上げた。


「それから。わたくしは、お嬢様の世話係で、イザベラと申します。サッチャーでもロッテンマイヤーでもありませんので、よろしくお願い足します。では、お荷物を」


 サッチャ……イザベラさんの目配せでメイドさんたちがお返事「イエス マーム」、これは中学生でも分かる。


 


 このお屋敷で、一番の権力者はサッチャーと陰では呼ばれてるイザベラさんやった(^_^;)




「サッチャーが来てるとは思わなかった」


 スィティングルームに行く前に、頼子さんに招集を掛けられた。


「イザベラさんじゃ……」


「鉄の女だからサッチャー。ま、あなたたちがどう呼ぼうと構わないけどね」


 いつになく、頼子さんはホッペを膨らましてる。ま、事情がありそうで、あんまり突っ込まんようにする。


「日本語が喋れるのは、サッチャーさんとジョン・スミス。あとは喋れないと思っといて。喋る必要のある時は、この屋敷の者は翻訳機持ってるから大丈夫だけど、大事な話とか込み入ったことは、とりあえず、わたしに言ってもらえると嬉しいわ。エディンバラの観光は明日から、なにかリクエストとかあったら、前日までに言っといてね、予約とか必要な所もあるしね。あ、合宿ってことだから、博物館的なところはいくつか入るから覚悟ね。食事が口に合わないとかだったら言って、無理して食べてると体壊しちゃうから、それと、あ、あなたたちからは、ない?」


「えと……個室でありがたいんですけど、できたら三人一緒の方が……」


 日ごろは、いっしょに着替えるのも嫌がる留美ちゃんが意外な提案。


「あ、いいわよ。うん、こういうのがいいのよ。旅先で気が変わって、いつもとは違うことをしたくなる。うんうん、やろやろ。うん、パジャマパーティーだ!」


 頼子さんはえらい! 留美ちゃんが、心細さから言ってるのは、わたしにも分かってる。それを留美ちゃんの積極性ととらえて、逆提案にした。


 それから、パソコンでエディンバラの街を検索、明日から周る観光スポットを、あーでもないこーでもないと話し合う。




 トントン




 ドアがノックされてメイドさんが入ってきた。英語で……イザベラさんがお待ちです的なことを言っている。言ってから翻訳機のスイッチを押した。


『イザベラさんがお待ちですので、リビングルームへお越しください』


 おお、わたしが思った通りや! 


 それから、スィティングルームというのがリビングルームやいうことも分かった。


 それと、メイドさんの胸には、お出迎えの時には付いてなかった名札が付いていた。これは、サッチャーさんの気配りか?


 名札には、カタカナで『ソフィア』と書いてあった。 


 

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