第34話『聞きそびれる』

せやさかい・034


『聞きそびれる』 




長和殿というんや……。


 ほら、正月の新年参賀とか天皇誕生日とかに天皇陛下を真ん中に皇族の皆さんがお並びになって手ぇ振ってはるとこ。


 京都の三十三間堂みたいに長細くって、二階のとこがガラス張りになって、参賀に来た人らが日の丸の小旗をワサワサ振ってる。日本人やったら、自然に穏やかで嬉しい気持ちになれる光景。


 天皇陛下の右に皇后陛下が寄り添われ、両陛下の横には何人もの親王、内親王、女王の皇族方。


 その皇族方の中に頼子さんがブロンドに青い瞳で手を振ってる。いや、手を振っておられます。


 頼子さんの母君は○○宮女王殿下で、法律や皇室典範の改正で女性宮家が認められ、その第一号として○○宮の継嗣にならはったんや。


 史上初めてのハーフの皇族、ブロンド美少女のそれも堺市出身の女王殿下の誕生に日本中が湧いた!


 大阪は、万博開催決定以上の喜びに、地元堺では古墳群の世界遺産登録がかすんでしまうほどの歓喜に溢れた!




 パンパカパンパンパーーーーーー!




 そこでファンファーレが鳴ったと思うと、頼子さん一人をおいて、バッキンガム宮殿に変わった。


 プラチナ色のローブにティアラを頭に頂いた姿は『ローマの休日』のアン王女を彷彿とさせる。


 トランプのキングみたいなオッサンが出てきて、巻物を縦にしたようなんを掲げて、シェークスピア劇みたいに読み上げる。


「レィディ~ス アンド ジェントルメ~ン! 女王陛下並びに議会の決定により、スミス・エディンバラ公の第一王女にして、日本国○○宮女王であるヨリコ殿下を我がグレートブリテン及び北アイルランド連合王国のロイヤルファミリーに列することを宣言いたしま~す!」


 パンパカパンパンパーーーーーーン!


 再びファンファーレが鳴り響き、プリンセス頼子はオードリーヘップバーンみたいに満面の笑みで日英両国民に微笑みかけるのであった!




 アハハハハハハハ……




 頼子さんは腹を抱えて笑い、留美ちゃんは――ほんまにアホやなあ――という顔で苦笑い。


「いやあ、せやさかいに、そういう夢を見た言う話なんですぅ!」


「いまの夢で当たってるのは、わたしが美少女というとこだけね。でも、いくら美少女でも父親が外人だったら皇族になんてなれないんだよ」


「いえ、なれます!」留美ちゃんが断言する。


「え、なんで?」


「皇族と結婚した女性は皇族になれるんです。皇后陛下も秋篠宮妃殿下も民間人でした。あ、上皇后陛下も民間人。日清製粉社長の娘さんだったんで『粉屋の娘プリンセスに!』って見出しでアメリカの新聞にも載りました!」


「そうなんだ! 留美ちゃんて物知りだ!」


「すっごい、尊敬する!」


「そ、尊敬なんかいいですから、チャッチャと手を動かしましょう!」


 留美ちゃんの忠告で、再び文芸部の三人はチマチマと手を動かす。


 わたしらは、エディンバラ合宿を控えて千羽鶴を追ってるとこ。


 なんで千羽鶴?


 アホな夢の話をしてたら、肝心の事聞きそびれてるあたしでした。


 ちゃんちゃん。

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