第5話『御釈迦さんといっしょ』
せやさかい・005
『御釈迦さんといっしょ』
昨日は二三年生との対面式やった。
二三年生はあたしらよりも先に体育館に整列してた。
始業式をやってたらしい。
生徒会長のナントカさんが歓迎の挨拶。新入生代表のカントカさんが書いたものを見ながら入学の挨拶。
二人とも女子。
たまたまなんか、伝統的に女子のできがええのんかは未知数。しかし、従姉のコトハちゃんも、ここの卒業生やさかいに、やっぱり女子のグレードが高いのんかもしれへん。
会長のナントカさんは、メモとかは持たんと挨拶してた。アクセントは大阪弁やけど、きちんとした標準語。マイクの高さが合わへんのでマイクの高さを調整してから喋るとこなんか余裕やなあ。前髪と眼鏡でよう分からへんけど民放の女子アナみたいに存在感があった。
ナントカさん、カントカさん言うてるのんは一発では覚えられへんから(^_^;)。
司会の先生の発音が悪いこともあるねんけど、ちょっと他の事に気ぃとられてるせいでもある。
あたしは、横で俯いてしもてる榊原さんに神経を遣て余裕がない。
榊原さんは、クラスで一人だけ遅刻してきた。入学早々いうこともあるんやろけど、菅井先生がめっちゃ怒った。
入学早々やから、他の生徒の手前もあってカマしとかならあかんと思てんやろね。
「なんで、入学早々遅刻したんや!?」
「あ、あ、えと……桜が満開になってて見惚れてしまいました」
「は、桜が満開? アホか!!」
この一喝で、榊原さんは蒼白になった。
真っ青通り越して、真っ白……
ほんで、席に戻ってからはずっと、机に突っ伏してる。すぐ前の席なんで、榊原さんが嗚咽を噛み殺してるのがよう分かる。
「気にせんとき、榊原さん……」
それから、対面式のいまに至るまで、榊原さんに付きっ切り。
あたしは思う。
菅井先生は、あんなふうに怒鳴ることが似合わん先生や。入学式の事やら家庭訪問のときの先生見てたら、ほんまは人に強うなんか当たられへん人やと分かってる。人間似合わんことはせんほうがええと思う。
半日で学校は終わり。
帰り道は公園とかは通らへんねんけど、あちこちの家の庭とかで桜が満開。そやけど、うっかり見惚れて遅刻するほどの桜ではない……榊原さんは、どこの桜に見惚れてたんやろ?
家の前まで来てハッとした!
山門脇の築地塀から伸びてる植物が満開の桜や!!
越してきてから十日にもなろうというのに、ぜんぜん気ぃつけへんかった。
たしかに子どものころから大きな木ぃがあるのんは知ってたけど、桜やとは思えへんかった。
新学年の始まりいうのもあって、これまで四月にお祖父ちゃんとこ来ることはなかった。まして四月八日はね……山門の脇には『灌仏会 お花まつり』の張り紙。
そうや、今日はお釈迦さんの誕生日で、日本中のお寺で、なにかしらお祭りをやってる。
山門を潜るとオバチャンらのご陽気なさんざめきに溢れる。
檀家の婦人会のみなさんが集まってバザーをやったり、お釈迦さんに甘茶をかけたりお喋りしたり。
「やあ、さくらちゃん、お帰りぃ!」
米屋のお婆ちゃんが若やいだ声で挨拶をしてくれる。詩ちゃんに紹介された町内の人たちも。
「こ、こんにちは(;'∀')!」
声が上ずってしまう。なさけない。
「おかえり、さくらちゃん。このあと、さくらちゃんのお誕生会もするからね、早く着替えて出てらっしゃい」
伯母さんがにこやかに宣告する。
そうなんです!
四月八日はうちの誕生日でもあるんです!
ごく小さいころは別として、誕生日は家でお祝いしてもろてた。七年前まではお父さんもおったし、お父さんがおらんようになってからはお母さんが、忙しいなかでも必ず時間をやりくりしてお祝いしてくれてた。
その後、米屋のお婆ちゃんの発案で、本堂でお釈迦さんと並んでのお誕生会になってしもた。何十人もの檀家さんやら町内の人やらが一斉に「さくらちゃん、お誕生日おめでとう!」言うて乾杯。
「あ、ありがとう!」
きちんとお礼の言葉は言うねんけど、自分でも分かるくらい顔が赤い。正直、こんな顔は見られたない。
嬉しいねんけど、まさか、毎年はやれへんやろねえ?
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 安泰中学一年
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主
酒井 詩 さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原留美 さくらの同級生
菅井先生 さくらの担任
春日先生 学年主任
米屋のお婆ちゃん
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