第49話 覗き? 鼻血? 昇天!?
「ダンジョンシティーも随分と賑やかになったな」
「魔物のみなさんの表情も生き生きとしていますね。これも全てユーリの力ですね」
俺は現在、ダンジョン25階層に築き上げられた地底都市、ダンジョンシティーへとやって来ている。
何の目的があってやって来たのかって?
特に目的なんてないさ。
ただ、俺はあの時心に誓った。
ゆかりたちを助け出し、女郎蛇のマムシに打ち勝ったら魔物のみんなに名前をつけて、これまでろくに話したことのなかった奴とも話しをしようと。
これは俺なりの、彼らへの感謝を込めた交流みたいなもんなんだ。
もう魔物たちには名前をつけてやったし、あとはみんなのことを知るために言葉を交わすだけだな。
街には様々な店が軒を連ね、魔物たちが楽しそうに商売を始めている。
ゴブリンたちはその数の多さをフル活用した宿……というよりホテルを経営し、コボルトたちは武具屋を経営し始めた。
幸い、武具を作る素材はダンジョンに沢山ある。
さすがに今のコボルト職人の技術では一流の武具……とはいかないものの、それでも自分たちで武器を作れる環境になったことは大きいと言えるのではないだろうか。
それに、ダンジョンで採取した素材なんかを売ってお金にするということも覚えた……覚えたというよりそうした方がいいのではないかとフィーネアに勧められた。
魔物たちがこのダンジョンシティーで快適に暮らせるように給料も払うことにしたんだ。
ま、彼らは給料なんていらないと言っていたが、俺は少しでも彼らにまともな暮らしをさせてやりたかった。
なんせ彼らは囚人塔という場所で生まれ育ち、外の世界を知らないのだ。
もしも叶うのであれば、彼らを魔界に連れて行き自由を与えてやりたいな~なんて考えたりもする。
俺もいつかは元の世界に還ってしまう、その時に彼らが独り立ち出来るように職業訓練所のようなことをしておいて損はないと思うんだ。
俺に出会ったことで『不幸』になるのではなく、『幸せ』になってもらいたいと思っちまうんだよ。
「ゆうく~ん!」
「ん?」
馴染みの声がどこからともなく聞こえてきて、その方角に顔を向けるとゆかりがいた。
ゆかりは楽しげな様子で大きく手を振って、俺を呼んでいる。
「たまにはあたしたちのお店にも顔を出してよ! みんな会いたがってるんだから」
ゆかりの声が店内まで聞こえたのか、続々と店から出てくる看板娘たち。
「遊理君!?」
「うそ!? どこどこ?」
「やだー来てくれたの!? 嬉しい!」
「さぁ早く来てちょうだいよ」
「腕を振るった料理をご馳走するわ!」
俺はフィーネアの様子を窺うようにチラッと顔を覗くと、フィーネアは微笑み「せっかくなので行ってみましょう、ユーリ」と言ってくれたので笑顔で頷いた。
「うん!」
店の中はこじんまりとしたスナックって感じの内装で、カウンターテーブルに椅子が数脚、テーブル席にはソファが設置されている。
俺とフィーネアはゆかりたちにテーブル席に案内されて、お酒ではなくブドウジュースを出してもらい、次々とゆかりたちの手料理がテーブルに並べられていく。
パエリアにラザニア、豚の角煮などなどバラエティにぶっ飛んでいるな。
フィーネアが一番興味深そうに見ていたのはプリン。
「このプルプルした物は何ですか?」
「それはプリンって言ってね、あたしたちの世界のスウィーツよ」
「プリン……? プリンちゃん!?」
フィーネアは不思議そうに小首を傾げて、妖精王となったプリンちゃんの名を口にした。
俺は思わず笑ってしまった。
「確かに、真夜ちゃんが名づけたプリンちゃんの名前はこのプリンが元だろうな。凄く甘くて美味しいから食べてみたらどうだ?」
「ユーリもお好きなのですか?」
と、フィーネアが聞くと、なぜか胸を張って自慢げなゆかりが口を開いた。
「そうよ! ゆう君はプリンが大好物なのよ。特にゆう君が好きなのがこのカスタードプリンよ!」
『えっへん』と言うゆかりにフィーネアは一瞬ジロッと敵視し、目前のプリンを小さな口へと運んだ。
するとフィーネアの瞳がキラキラとお星様のように輝き、途端に表情がふにゃふにゃとトロけていく。
余程美味しかったのか、フィーネアはぺろっとプリンを完食し、こっそりとゆかりにレシピを聞いていた。
フィーネアの固有スキル『メイドの極意』を以てすればプリンを出すことなんて朝飯前なのに……作ってくれようとしているのだろうか。
俺とフィーネアはゆかりたちが出してくれた料理を堪能し、腹一杯になったのでマスタールームへと戻りソファで寛いでいた。
「フィーネアはちょっとお風呂に行ってきますね。ユーリも一緒に行きますか?」
「えっ!? いや……俺は後で……入るよ」
「そうですか。ではお先にいただきますね」
マスタールームから25階層に転移したフィーネアなのだが……フィーネアは一体どういう意味で一緒にと言ったのだろう……。
気になるな。
俺は誰も居ないマスタールームをキョロキョロと見渡して、「ごっくん」と生唾を飲み込んだ。
そしてそのままあさっての方角を見ながらテーブルに置かれたリモコンへと手を伸ばす。
「こっ、ここ、これは警備の一環だ! そう、ここはダンジョン! いつ冒険者という敵が襲ってくるかわからない……なので警備しなければ……」
俺は母さんに隠れてエッチな動画を見る懐かしき記憶を思い出しながら、「ポチッとな」と神殿銭湯を半透明な巨大モニターに映し出した。
「うっ、ううう、うつすのは……女子の脱衣所……だな……えへへ」
女性専用脱衣所を画面いっぱいに映し出すと――そこにはフィーネアだけではなくゆかりたちまでいるじゃないか!?
なんてラッキー……!! じゃなくって……警備対象が増えてしまって大変だな……えへへ。
俺は食い入るようにモニターを観る。
ストリップショーのようにゆっくりと身にまとった衣服を脱いでいくフィーネアたち。
その度に色とりどりのチューリップが脱衣所に咲き誇る。
フィーネアは清楚を絵に描いたような純白!?
ゆかりは意外にも大胆な黒のレース!?
白、黒、赤、黄色に水色とヒョウ柄にノーパン!?
『ちょっとあんたなんでパンツ履いてないのよ』
『寝惚けてて履くの忘れちゃったのよ! たまにあるじゃない?』
『『『ないわっ!!』』』
あっ、あかんっ!?
出血死してしまう……。
俺は両手で鼻を押さえながら足を伸ばしてテーブルに置いてあるテッシュを手前に持ってくる。
透かさずそれを取り、鼻を押さえつけてグイグイとねじ込む。
うん、完璧。
しかし、なんとエロテックな光景なんだ!
麗しの天女たちに隠れて覗き見るこの感覚……たっ、たまりません!
しかし……湯気が邪魔だな。
浴室へと入ったフィーネアたちの女体を隠すように、白い湯気がモザイクみたいに俺からそれを隠しやがる。
「あああああああああああああああああああああああああっ!!! じれったいっ!」
俺は一人興奮して大声を上げて、身を乗り出しながらモニターに向かって息を吹きかける。
「ふっ、ふっ、ふぅぅううううううううううううっ!」
クソッ! いくら息を吹きかけても煙が消えんじゃないかっ!?
俺は悔しくて悔しくて何度もソファを殴りつけた。
「なんで大事なとこでモザイクが入んだよっ!? ふざけんじゃねぇーよっ!」
「ムキュッ?」
不意にメアちゃんとバッチリ目が合ってしまった。
「いっ、いたのね……」
メアちゃんはお前は何をやっているんだと言わんばかりに、不思議そうにつぶらな瞳を向けてくる。
「オスかメスか知らんが……いつかメアちゃんにもわかる日がくるさ。だから今日だけは見過ごしておくれ」
意味不明にメアちゃんに言い訳をしていると、モニターから耳を疑う声が聞こえてくる。
『ちょっとっ!? あんた何してるのよ!』
『おしっこしてるに決まってるじゃない。 お風呂に入るとおしっこしたくなるわよねー』
『トイレに行きなさいよねっ!?』
『何でこんな所ですんのよ! 信じらんない!?』
『ええー。だって昔からママがおしっこしたくなったら排水溝に向かってしなさいって言ってたんだもん。みんなもするでしょ?』
『『『『『しないわっ!!』』』』』
あっ、あああ、あかんっ!
チェリーな俺には……刺激が強すぎる。
「しっ、視界が……霞む……」
フィーネアの裸をもう一度見たいと思ったのが……悪かったのか。
俺はまさかの聖水プレイを目の当たりにして……大量出血で昇天した。
◆
「ユーリ……ユーリっ! しっかりしてくださいユーリ!?」
気が付いた時、濡れそぼる髪のフィーネアが心配したように俺の顔を覗き込んでいた。
「フィー……ネア?」
俺はソファで気を失っていたのか……。
「大丈夫ですか……? ユーリ」
「あ、ああ。問題ない。ちょっと貧血でね」
「貧血……ですか……」
フィーネアは俺の顔をまじまじと見て、サッと背を向けてでかでかと浴室が映ったモニターを……プチッと切った。
「「………………」」
俺に背を向けたままの無言のフィーネア。
もちろん俺も無言だ。
「さて……俺も風呂に入ってこようかな」
俺はゆっくりと立ち上がり、マスタールームを出ようと歩き出す。
すると――
「ユーリ、やっぱり今度は一緒に入りましょう。フィーネアがお背中流しますから」
フィーネアの甘酸っぱい声音が俺の耳を優しくくすぐり、俺はビクッとした後みるみる顔が熱くなり、振り返ることなく小刻みに何度も頷き、マスタールームを後にした。
一言だけ言っておこう。
覗きは犯罪です!
あとに残るのは穴を掘ってそこに入りたいと思ってしまうほどの……恥じだけだ。
「ああー。そのための……穴の書……か」
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