第577話 ボールは友達

 勇者たちの合同訓練が開始してから1ヶ月。暦では11月となり、アリシテア王国軍はイグドラ亜人集合国の国境から離れたところにある、ケビンが移動させた砦とともに軍を布陣していた。


 ちなみにケビンが砦を移動させてしまったために、アリシテア王国軍はイグドラ亜人集合国国境との距離感を測りかねている。それは、今までの生活で染み付いている、『砦からこのくらいの距離で国境』という固定観念が邪魔をしているからだ。


「なぁ、砦のてっぺんから見る国境沿いの森林が、こんなにも離れてるって信じられるか?」


「信じるしかないだろ。俺も違和感が拭えないんだ」


 この2人は今現在見張り役として砦の屋上に配置されており、今まで普通に見えていた国境沿いの森林が遥か彼方に見えており、記憶の中にある過去の風景との食い違いで違和感を拭えないままだった。


「エレフセリア皇帝陛下ってとんでもないよな」


「俺はあの御方こそが『魔王だ』って言われても、すんなりと受け入れると思う」


「実際にやってることは魔王以上だと思うけどな。魔王だって砦を移動させるってなったら、新しく建築するくらいしかできないと思うぜ」


「それが、蓋を開けてみれば額面通りの移動だったからなぁ……」


「ビックリだよな。来るなり『砦のお引っ越しをするぞ』って言われてさ。普通ならこの砦を廃棄して、新しく建てた砦に移動かと思うじゃねぇか。下達された時だってそう思ってたしよ」


「それが砦ごとお引っ越しだからなぁ……」


 2人は示し合わせたわけでもないのに、揃いも揃って大きく溜息をつく。


「いい天気だよなぁ……」


「そうだなぁ……」


 ケビンの為したことに対し、2人は考えることをやめたのか正面の青空を見上げると、現実逃避をしながらお互いに何度目かわからない溜息をついていた。


 だが、そんな2人の視界の隅(空を眺めているので視界の下方)に、黒い染みみたいなものが滲むようにして広がっていく。


「「…………?」」


 2人が僅かな誤差で視線を正面に戻すと、その染みが目の病気にかかったわけではないということを知らせる。


「「――ッ!」」


 2人の行動はほぼ同時だった。


 2人はケビンが今回の見張り用にと寄付した【双眼鏡】を手に取り、その染みが予想しているものと相違ないのかすぐさま確認をとる。


「鳴らせ!」

「行け!」


 阿吽の呼吸で動く2人は1人が警鐘を鳴らし、もう1人が上官へ報告に向かうという行動を、お互いに「どっちがどっちをする?」と言った無駄な話し合いをするでもなく、ごく自然に決められていたかのようにして体を動かしていた。


 そして、鳴り響くけたたましい警鐘の音が砦周辺に木霊すると、巡回している兵士や演練をしている兵士などがすぐさまその行動をやめて、ルーチンワークのごとく決められた戦時規定に従い、バタバタと慌ただしく動き始める。


 その後は報告を受けた上官がすぐさま早馬を走らせ、近場のギルドから王都ギルドへの魔導通信機による通信連絡を行い、その報告を受けた王都ギルドは国王への緊急謁見要請の手続きをとる。


 これらは全て予め決められていた取り決めであり、平時ならのらりくらりと待たされてしまう謁見要請も、ことこの時に限っては最優先で処理され、王都のギルド長であるカーバインは魔導通信機にて受けた内容を、謁見の場にてヴィクトール国王へと報告をしたのだった。


 そして、その内容は当然のことながらケビンの耳にも入る。


 ヴィクトール国王からの通信は、ケビンの執務室に置いてある魔導通信機に届くのだが、ケビンが執務室に不在時(ほぼ不在)の場合、嫁の執務室に置いてある子機にて応答することができるのだ。


 それにより、ヴィクトール国王の通信を受けたのはそこで執務をしていたアリスであり、そのアリスが指輪の効果でケビンに連絡を取ったことにより、それを受けたケビンがヴィクトール国王の魔導通信機に、直接連絡を取るという流れとなる。


 それならケビンの執務室に置いてある魔導通信機の呼び出しを、直接ケビンに届くようにすればいいという話になるのだが、そこは面倒くさがりなケビンが、自分じゃなくてもどうにかなる通信連絡まで応答したくないというワガママが発動し、嫁の執務室にある子機にて応答できるようにしたのだ。


 そもそも、ケビンが親類縁者やターナボッタに配布していた、ケビン印の魔導通信機だけならそれでも良かったのだが、国内の領主にも連絡手段用として配布しているために、ケビンの執務室にある魔導通信機は結構な頻度で鳴り響いていたりする。


 それもこれも、すぐさま連絡が取れてしまうという利便性により、今までなら何週間、場所によっては何ヶ月といった手紙のやり取りも、その日のうちに終わってしまうということが起因している。


 ゆえにケビンの執務室にある魔導通信機は、鳴らない電話ではなく鳴り続ける電話みたいになってしまっているのだ。


 それにより、さすがのケビンも円滑な連絡手段のためとはいえ、魔導通信機を各領主に配布したのは失敗だったかもと後悔したほどだ。各領主は各地との連絡が早急に取れることから、大喜びであったのだが。


 ――閑話休題。


『――ということだ』


『わかった。それじゃあ、俺は準備が済み次第、勇者たちを連れて現場に向かうよ』


『すまんな、押し付けるような形になってしまって』


『気にしなくていいよ。ヴィクト義兄さんの国に何かあったら俺は嫌だし、マリーやアリス、それに家族たちも悲しむ。それに、アリシテア王国は俺の故郷だしね』


『そう言ってもらえると助かる』


 それからヴィクトール国王との通信を終えたケビンは、ブートキャンプ中である目の前の勇者たちの訓練を中断させる。


「集合だ、ウジ虫ども!」


「「「「「サー、イエッ、サー!」」」」」


 相変わらずケビンは鬼軍曹を続けているようで、勇者たちは一部を除き既に洗脳を受けているかのように、何の疑問も抱くことなくケビンの言葉に従順している。


 そして、整列し直立不動となった勇者たちの前で、鬼軍曹ケビンが口を開く。


「喜べ、ウジ虫ども! 貴様らは今日この場でウジ虫から人に進化する! 今までよくぞ厳しい訓練についてきた。訓練は今をもって終了とし、貴様ら……いや、お前たちは誰一人欠けることなく卒業だ!」


「「「「「サー、イエッ、サー!」」」」」


「予定していた午後からの訓練は中止。明日1日は休息日として、しっかりと体を休めるように。自己鍛錬をするなとは言わないが、調整程度に留めておけ」


「「「「「サー、イエッ、サー!」」」」」


 元気よく勇者たちが返事をしているところで、特殊な洗脳を免れている勅使河原てしがわらがケビンに問いかける。


「ケビンさん、もしかしてその時が来たのかしら?」


 勅使河原てしがわらがケビンに問いかけたことによって、一部の勇者たちは戦々恐々とした。それは、別に戦争が始まる云々の話ということではなく、鬼軍曹ケビンに発言の許可を求めるでもなく、勝手な発言をしてしまっていたからだ。


 だが、ケビンが先程言っていたように、既に訓練は終了し勇者たちは卒業していて、もう人として扱えてもらえるのだ。それゆえに当然のことながら、ケビンが勅使河原てしがわらを怒ることはない。


「明後日、最前線へ移動する。準備は今日と明日を使って済ませておくように。それと、清掃員君。お前も今日と明日はゆっくり休め。清掃活動はなしだ」


「え……」


 ケビンの見せた温情が信じられないのか、幻夢桜ゆめざくらは目を見開いていた。


「なんだ? 清掃活動をしたいのか? それならそれで構わないけどな」


「い、いえ! 陛下の御心のままに!」


 幻夢桜ゆめざくらも清掃活動に関してはさすがに慣れたとはいえ、言葉以上に重労働であるケビン式清掃活動は、休めるものなら休みたいという考えを持っていたので、すぐさま反応を返して休養日を確保するのであった。


 その後、ケビンは戦いに向けて装備がイマイチな一部の勇者たちに、合同訓練の卒業プレゼントとして装備品を送ることにした。


「小鳥遊、前へ」


「サー、イエッ、サー!」


 整列している勇者たちの中から小鳥遊が1歩前へと進み出して、直立不動の姿勢に戻る。


「お前はサッカーが好きなんだろ? 特別に武器としてこれをやろう」


 ケビンが小鳥遊に見せたのは、見た目からして完全なサッカーボールだった。


「その名も【ボールは友達】だ。どこへ蹴り飛ばそうとも、この武器は必ずお前のところに戻ってくる。このボールは使用者や許可を与えた者が蹴ればただのボールだが、それ以外の者。つまり、敵が利用しようとして蹴ろうとしたら、蹴った瞬間に多分足の骨が砕ける」


 ケビンの説明を聞いた勇者たちはその内容にゾッとしてしまうが、鬼軍曹の教育が行き届き過ぎたのかざわつく気配すらない。


「発言の許可を!」


「言ってみろ」


「教官を侮辱するわけではありませんが、ボールだと敵に当たってもビックリするだけで終わりそうな気がします!」


「ふむ、確かにこれは見た目からしてただのボールだからな。一応特殊な武器だから実演をしてやろう」


 そう言ったケビンがサッカーゴールとゴーレムを創り出し、なんちゃってサッカーの実演が始まる。


「くらえ、これが俺の必殺! ケビンシュートだ!」


 ケビンは浮かせたサッカーボールの端を踏みつけ、ステータスにものを言わせた高速回転を加えると、今度は逆の足でそれを蹴り放つ。


「エレフセリア代表ケビン選手の必殺シュートが放たれたであります!」

「あらかじめボールに回転を加えることによって、銃で撃ち放たれた弾丸のような回転を生じさせているでごわす!」

「あれは正しく殺人シュートですぞ!」

「普通に考えたら殺岩石人シュートでござるな」


 ケビンの放つシュートに【オクタ】の男子メンバーが反応を見せると、さすがと言うべきかサッカー好きである小鳥遊も同じように反応してしまう。


「まさか、ゴーレムキーパーの手を負傷させるつもりなのか!?」


 そして、ゴーレムはキーパーとして動くように命令を受けていたのか、ケビンが狙ったコースを読み取り行動に移すが、読み違えたようでゴーレムが動いた方向とは逆にボールが進路をとる。


「あぁーっ! ゴーレムが読み違えたであります!」

「ケビン選手のシュートが決まるでごわす!」


 誰しもがケビンのシュートが決まり得点になると確信していた時に、ゴーレムがゴーレムとは思えない臨機応変な行動に出る。


「なっ!? あのゴーレム、ゴールポストを蹴って逆側へ飛んだですぞ!」

「まさか三角飛びの再現でござるか!?」


 そして、ゴーレムは腕を精一杯伸ばしてセービング技術を見せようとするが、ケビンの蹴り放ったボールに触れた瞬間、その威力を殺しきれずに衝撃を受けた手は弾かれてしまい、ボールはゴールネットに突き刺さった。


「ゴールゴールゴールゴール、ゴォォォォォォォォォォ――……ゴホッゴホッ……ル! でありますな」


 気合を入れすぎてむせてしまったあずまのゴール宣言により、勇者たちは思わず拍手をしてしまっていたが、大半の者たちはいったい何を見せられているのだろうかと疑問に思っている。


「……とまぁ、こんな感じだな」


 そして、なんてことのないように実演で使用方法を見せたケビンだったが、ただのシュートだったために小鳥遊は思わずツッコミを入れてしまう。


「いや、わかんねぇよ!」


 ところが、ジャンピングセーブで倒れ込んでいたゴーレムが起き上がると、それを見ていたあずまが声を上げて、ゴーレムのとある部分にみんなの視線が突き刺さる。


 その注目を集めたゴーレムは五体満足ではなく、セービングの際に使った片腕の半分から先がなくなっていたのだ。


「え……何でサッカーボールでゴーレムの腕が弾け飛んでるんだ?」

「仮にケビン軍曹の脚力がハンパないとしても、それならそれでサッカーボールが弾けるよな?」


 誰とはなしに呟いた疑問は他の勇者たちにも伝播していき、口を開けてはポカンとしている。そのような信じられない光景を見せられた勇者たちに、ケビンが答えを教える。


「それはだな、蹴る時はただのサッカーボールだが、蹴る際に必殺技を言うことによって硬化するからだ」


 それからケビンは面倒くさいからと小鳥遊に詳しい説明をせず、取扱説明書とサッカーボールを渡して列に戻らせた。


銘釼めいけん、辺志切、前へ」


「「サー、イエッ、サー!」」


 ケビンから呼ばれた2人は、先程の小鳥遊と同じように1歩前へ進み出したら不動の姿勢をとる。


銘釼めいけんには、これだ」


 ケビンが渡したのは1本の刀だった。それを銘釼めいけんはうやうやしく受け取る。


「それは名刀【姫鶴ひめつる一文字】……」


 ケビンの伝えた内容に対し銘釼めいけんは、自分の名前の由来ともなるその名称を聞いたことによりハッとして息を飲む。


「……のような何かだ」


 そして、続く言葉でズッコケそうになっていた。


「そもそも本物がここにあるわけないだろ。その刀は早い話が模造刀だな。だが、本物よりかは性能がいいから安心しろ。本物と打ち合えば、当然のことながらその模造刀が勝つくらいにはな」


「ありがたく使わせていただきます」


「あっ、ちなみに、『斬らないで』って女性が夢に出てくることはないからな。そういう機能が欲しければ追加でつけるけど?」


「ご遠慮します」


「そうか……それならその刀の名称は【姫鶴ひめか一文字】にしよう。お前専用の刀だしな」


「ありがとうございます!」


 ケビンから銘釼めいけんに刀の下賜が終わると、今度は辺志切の前で同じように刀を差し出す。


「今の流れでわかるだろうが、これは名刀【へし切長谷部】のような何かだ。模造刀2号となる。この刀の名称は【辺志切長谷部】とする。お前の名に恥じぬよう上手く使いこなしてみせろ」


「サー、イエッ、サー!」


「間違っても茶坊主を圧し切ったりするなよ?」


 そして、2人を列に戻した後にケビンが解散宣言すると、たちまちにブーイングが三姉妹から起こる。その内容は自分たちにも何か欲しいという、ただのオネダリだ。


「そうは言ってもなぁ……ぶっちゃけネタになるような名前じゃないし、部活をしていたわけでもないだろ?」


「それでも欲しいの!」

「おにぃちょーだい!」

「にぃのプレゼント!」


 ケビンとしては、三姉妹は嫁である以前に可愛い姪っ子なのだ。その三姉妹にオネダリされてしまえば、断れないのも致し方がないとも言える。


「うーん……」


 ケビンが何にしようかと悩み続けること十数分。その様子を三姉妹どころか、『おこぼれがあるかも?』なんて思っている強かな勇者たちも、固唾を飲んで見守っている。


「よし! 決めた」


 そう言うケビンがその場で座り込み材料を【無限収納】から取り出すと、それを見たあずまが反応を示す。


「それはいつしか見た“宝樹ミスティルテイン”と見せかけて、ただの棒切れだったものでありますか!?」


 あずまがそのようなことを言ってしまったので、それを聞いた結愛ゆあたちがまたもやブーイングをすると、ケビンはやれやれといった感じで取り出した物の名称を教える。


「これはお遊びで使ういつもの棒切れじゃない。ゲームをしたことがあるなら知っているやつは結構いるんじゃないか? これは世界樹の枝だ」


「キタコレ!」

「テンプレ素材でごわす!」

「何故ケビン殿が世界樹の枝を!?」

「もしやエルフからの頂き物でござるか!?」


 ケビンが「世界樹の枝」と言ったせいか、あずまたちを筆頭にしてそれを知る者たちがざわめき始めた。


「エルフからもらうわけないだろ。世界樹をちょいちょいと切って手に入れたんだ」


「神聖なる世界樹を切るなんて、ケビン氏は泥棒をしたでありますか!?」


「人聞きの悪いことを言うな。俺のものを俺がどうしようと俺の勝手だろ」


「「「「「…………は?」」」」」


「エルフの長老衆がアホで、この世界の世界樹はいっぺん枯れた。ちなみに世界樹の成れの果てにはドラゴンゾンビが巣くっていたし、周辺は毒沼まである始末だ」


 ケビンによるぶっちゃけ話によって、あずまはキョトンとしてしまう。だが、それはあずまだけに限らず、この場にいる者たち全員がそうであった。


「え……エルフがアホ? ドラゴンゾンビ? 毒沼?」


「エルフがアホなんじゃなくて、エルフの長老衆がアホなんだ。今ある世界樹は俺が女神様にお祈りを捧げて新たに植えられたものだ。それを俺が保護をしていて、俺が許可した者以外は近づくことさえできない。ゆえに俺のものだな」


 ケビンのトンデモ理論が発動すると、それを聞かされている者たちは開いた口が塞がらない。そもそも、世界を守る世界樹をケビンが保護していると言う時点で、みんなの理解が追いつかないのだ。


 そして、女神様云々のくだりで嫁たちはソフィーリアのことだと理解したのだが、世界樹云々の話など聞いたことがなかったので、やはりみんなと同じようにポカンとしてしまう。


「ケビン氏、何者……?」

「“世界を守る世界樹”を守るケビン氏……」

「痺れたり憧れたりする前に意味不明ですぞ……」

「拙者はそれよりも何が出来上がるのか気になるでござる」


 そのような感想を口にしているあずまたちを他所に、ケビンはどんどんと素材を出していき三姉妹の武器を創り出していく。


 それから少しして武器が完成すると、ケビンは三姉妹にそれぞれ渡していき説明を始める。


結愛ゆあのは世界樹の杖だ。それがあれば今まで以上に精霊と交信しやすくなる」


「ありがとう、健兄」


陽炎ひなえ朔月さつきのはボウガンだな。前衛で戦闘をしている使役したやつや、喚び出したやつを援護する形だ。矢は通常のものも使えるし、魔力を流せば魔力矢が自動装填される」


「「ありがとう!」」


 ケビンが三姉妹の用事を終わらせたら、弥勒院みろくいんがトコトコと近づいてきてオネダリを始める。


「ケビンくん、私のは?」


香華きょうかもか?」


「うん」


香華きょうかか……香華きょうかは【聖女】だったよな? ということは、光属性がメインになるのか……」


 弥勒院みろくいんのオネダリによってケビンがまた考え始めていたところに、九十九が目をキラキラとさせながら近づいてきた。


「旦那様! ちなみに私のなんだが「ももには魔法のステッキをあげただろ。更に改造して魔法少女に変身できるようにしたし、あれ以上の物はない」……あう……」


 九十九が要望を言う前にケビンが釘をさし、それを言われた九十九はあえなく撃沈した。


 そして、チラチラと視線を向けてきては、何か言いたげそうな勇者たちの行動が目についたケビンは、溜息をつきつつ欲しい人が他にもいないか確認を取り始める。


 すると、ほとんどの勇者たちが遠慮がちに手を上げていたのだが、その目は遠慮ではなく期待に満ちていた。


 それゆえか、結局のところケビンは希望者全員に武器をあげるため、それぞれの個性を活かした武器を創り始めていくのだった。


「うさぎは水晶玉でいいだろ?」


「何で!?」


 てっきり武器をもらえると思っていた月見里が目を見開いて反応すると、ケビンは独断と偏見を披露した。


「【星詠師】なら占い師だろ? 占い師と言えば“水晶玉”じゃないか。それが嫌なら手相を見るために虫眼鏡だな」


「星要素なくなった?!」


 そして、月見里が唖然とする中でケビンが創り出した水晶玉をヒョイっと投げると、月見里は地面に落ちて割れてしまわないように、青い顔をしながら慌ててキャッチする。


「し……心臓に悪い……」


 上手くキャッチできた月見里が安堵の息をこぼしていると、ケビンは笑いながら教えるのだった。


「それは破壊不可が付与してあるから落としても割れないぞ。敵に投げつければ立派な武器だな。小鳥遊のと同じで自動で所有者のところに戻ってくるから、気に食わないやつに向けて投げ放題だ」


「商売道具を投げる占い師がどこにいるのよ!」


「うさぎが第1号になればいい。あと、ボーリングの球としても使えそうだな」


「指を入れる穴なんて開けてないでしょ! ってゆーか、そもそもこれって絶対にネタ武器でしょ!」


「いらないなら虫眼鏡にするか?」


 その言葉を聞いた月見里は瞬時に見事な手のひら返しでお礼を伝える。


「ありがとう、ケビンさん!」


 それからもケビンは武器を創っては勇者たちに渡していくのだが、その中にはまともな武器もあればネタ武器も含まれていて、ネタ武器を手にした者は性能の良さよりもネタ部分の方が気になるようで、素直に喜べずに苦笑いをするしかなかったのであった。

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