第507話 ケビン『めっちゃ美人だ……』
ここはリンドリー伯爵領にあるとある街。ケビンたちは皇都セレスティアを出発してから、約1週間ほどで目的地の街に辿りついた。
「クソあぢぃぃぃぃ……」
「もう7月ですからね」
「夏」
元々セレスティア皇国民であったセリナとヴィーアは、地元の暑さなど大したこともなくやり過ごし、ケビンが1人で暑がっている状況となる。
『サナえも~ん』
『なんだい、ケビ太くん』
『この暑さを何とかしてくれ~』
『結界を張ればいいと思います。温度調節ができるのですから』
『――ッ! サナ、愛してる!』
『~~ッ!』
ケビンは特に意識せず言った言葉ではあるが、それがサナにクリティカルヒットしてしまい、サナは悶絶してしまう。きっと体があったら顔を隠して右へ左へとゴロゴロしていたに違いない。
そして早速実行に移したケビンは快適な空間を自身の周りに展開する。結界には日差し軽減を付与した上に、結界内の温度をケビン好みの適温へと変化させて、この国の夏の暑さとおさらばした。
「これは凄いですね」
「快適」
「これでもうセレスティア皇国の暑さとはおさらばだ」
こうして一気に機嫌が良くなったケビンは街中にある宿屋を借りると、現地での情報収集に努める。実はこの情報収集、環境が快適にならなければ『適材適所』を名目にして、セリナに任せるつもりでいたケビンであった。
そのセリナとヴィーアを宿屋の部屋にお留守番させて、ケビンは1人で街中を歩き始める。街並みは至って普通であり、特にこれといって目新しい物は発見できそうにない。
そのような中でケビンは適度に現地の食材を買いながら、店主にこの街のことや領主のことについて聞き込みを開始した。
「なんだ、お前さんはよそ者か」
「ああ、金が貯まったから諸国漫遊中だ」
「遊べるほど金が貯まるなんて羨ましい限りだぜ」
それからケビンは店主からこの街のことについて聞いたが、これと言ってめぼしいものは得られずに終わってしまう。
「ここの領主ってどんな人なんだ?」
「どこにでもいる貴族様だ」
「どこにでもいる、ねぇ……」
「それ以上は言えねぇな。こちとらそんなことで死にたくないもんでな」
その後も聞き取りを続けていくケビンだったが、相手によっては街のことを簡単に話せても、領主のことになると途端に口を噤んでしまう状況が後を絶たない。
(住民たちはやっぱり喋らないか。不敬罪で死にたくないだろうしな)
住民からの情報だとこれ以上集まらないと見切りをつけたケビンは、現地確認のために気配を消してリンドリー伯爵家を覗きに行くことにする。
そして辿りついたリンドリー伯爵家は大きな屋敷ではあるものの、皇都のように真っ白な建物ではなく、普通に装飾が施された一般的な建物だった。
そこで不法侵入を果たしたケビンが敷地内を歩いていると、ちょうど洗濯物を干しに来た使用人を見つける。その使用人はブロンドのロングヘアにコバルトブルーの瞳が特徴的で、早い話がそのまま歳を取らせたカトレアみたいな感じの雰囲気を持つ女性であった。
(やべぇ……めっちゃ美人……カトレアも歳を取るとああなるのか?)
ケビンが思わぬ遭遇を果たしたカトレアの母親に目を奪われていると、そこへ如何にも貴族ですと言わんばかりの格好をした、3人の女性たちが現れる。
「エラ、相変わらず精が出るわね。大変だろうし私も手伝うわ」
「いえ、レメイン奥様のお手を煩わせるようなことでは――」
レメイン奥様と呼ばれた女性が洗濯カゴを抱えようとすると、わざとらしくひっくり返してしまうのだった。
「あらあら、私のような華奢な腕では持ち上がらないわ。エラは怪力なのね」
「さすが下賎の生まれの者は違いますわね」
「リゼラ、そのようなことを言っては可哀想よ」
「そうですわ、リゼラ様。レメイン様の言う通りです」
「オホホ、わたくしとしたことが、はしたない言葉を使ってしまいましたわ。エラ、先程のは本心じゃないのよ。許してくれるわよね?」
「そんな滅相もないです。私のような身分の者がリゼラ奥様を許すなどと……」
「リゼラ、スタシア。散らばった洗濯物を拾って差し上げましょう」
「ええ、レメイン様」
「わかりました、レメイン様」
それから3人はレメインが散らかした洗濯物を拾おうとして動き出すが、明らかに拾おうとしてはいない。
「あら、うっかり踏んでしまいましたわ」
「レメイン様、そこを踏まれては拾えませんわ」
「リゼラ様もそこを踏まれては私が拾えません」
「そういうスタシアこそ、そこを踏んでいては私が拾えなくてよ」
しばらくの間は、3人が3人とも洗濯物を踏んではそれを拾おうとして引っ張り、足を退けようとしては別の場所を踏むということを繰り返していた。
「わ、私が拾いますので!」
エラがこれ以上汚されないためか手を出して拾おうとすると、その手をレメインが踏みつける。
「いたっ……」
「あら、ごめんあそばせ。エラがうっかり手を出すものですから、地面と間違えて踏んでしまいましたわ」
そして、レメインが足を退けてエラが手の痛みを堪えながらも、別の洗濯物を拾おうとしては、同じようにリゼラにも手を踏みつけられてしまう。
「このままでは拾えませんわね。仕方がないですからエラの邪魔をしないためにも、私たちは家の中へと戻りましょう」
「そうしましょう、レメイン様」
「お部屋でお茶でもどうですか?」
「あら、それはいいわね。3人だけでゆっくりとお茶会でも楽しみましょう」
その後、やるだけやって気が済んだのか、もしくは飽きたのかレメインが戻る意思を見せると、スタシアの提案したお茶会をするために、エラを放ってさっさと家の中へと入っていくのであった。
(胸糞悪い奴らだな。3人とも伯爵の嫁か……? カトレアの言ってた情報だとてっきり1人しかいないと思っていたんだが、さすがに3人から当たられていたんじゃ辛いよな)
そのような感想を抱いたケビンは、洗濯物を回収しているエラの手を治療したら、その後は洗濯物を宙に浮かせて魔法で綺麗にしたあと、洗濯カゴの中へと下ろしていく。
「え……え……??」
目の前で起きていることが信じられずにエラが困惑している中で、ケビンはお仕置きタイムへ移行するために、そのまま家の中へと忍び込むのだった。
「女神……様……?」
残されているエラは理解が追いつかないのか、よくわからないことは神の御業として処理することにしたようである。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ところ変わってレメインの私室では、3人がお茶を楽しみ先程のことを笑い話にしてお菓子をつまんでいた。
「それにしても反応がつまらなかったわ」
「そうですわね、泣くなり何なりすれば虐めがいがありますのに」
「それよりもお菓子を食べて気を晴らしましょう」
その様子を見ていたケビンは逃走防止のために結界を張って、更に消音と人払いの効果を付与すると、お仕置きタイムへ突入する。
「お菓子は美味しいか、御三方?」
「「「――ッ!」」」
いきなり聞こえてきた男の声にビクッと反応した3人が、声のした方へ視線を向けると、見たこともない男が立っていたのでレメインが誰何したら、ケビンは名乗りをあげる。
「お仕置人と言っておこう」
「誰か、誰か来て! 侵入者よ!」
「無駄だ。結界を張って外に音が漏れないようにしている」
その時にスタシアがケビンの脇を通り抜けてドアの方へ駆け寄ると、助けを呼ぶために外へと出ようとするが、ドアの手前で見えない壁に阻まれる。
「逃走防止付きだ。この部屋からは出られないぞ」
「そ……そんな……」
そして、あらゆる手を打たれてしまっていたことを理解したレメインは落ち着きを取り戻し、ケビンが何の目的でこの場にいるのかを再度問いかけて、何とかこの窮地を脱しようと試みるのだった。
「目的は誘拐ですか? 雇われているのならその倍額を支払いましょう。下手人をここへ連れてきて下さらないかしら?」
「誘拐なんて面倒なことするわけないだろ。金には困ってないし、雇われてもいない。俺は単独犯だ」
「このようなことをしてタダで済むと思っていらっしゃるのかしら。ここはリンドリー伯爵家の本宅であり、私たちは伯爵夫人ですのよ?」
「お前たちの行いがタダで済ませられないから、料金前払いで支払いを徴収に来たんだろ」
「私たちが何をしたと言うのです!」
「さっきたまたま見てたんだが、使用人を虐めてたよな? しかも働いているところを邪魔してまで。手を踏みつけていたのも見ていたぞ」
「雇っている使用人を私たちがどうしようと、私たちの勝手ではありませんのこと? それともあの使用人は貴方が雇い主なのかしら?」
「確かに雇い主は俺じゃないが、あの使用人は奴隷じゃないよな? つまり人権がちゃんとあり、法で守られているということだ。お前たちのやっていた行いは人権を尊重したものなのか? 屁理屈をこねるならもっとマシな屁理屈にしろ」
雇い主という逃げ道をあっさり論破されてしまったレメインは、キッとケビンを睨みつけると何か打開策はないか思考を巡らせる。しかしながら、それを待つほどケビンもお人好しではない。
「さて、お仕置きタイムだ」
ケビンが動き出したことにより3人ともビクッと反応をしてしまうが、誘拐でないならいったい何をされるのかと想像してしまい、最悪この場で殺されるのではないかと恐怖に包み込まれていく。目の前の男は誰にも見つかることなくこの部屋への侵入を果たしており、それだけでも相当な手練であることが容易に想像できてしまうのだった。
「ち、近寄らないで!」
レメインが騒いでいると、ケビンは騒ぐのは別に構わないが暴れられても面倒だと思い、しれっと3人の体の自由を奪っておく。それにより最初に脱出を図ろうとしてドア付近で立ったままだったスタシアが、その場にペタンと座り込んでしまい、そのスタシア自身は混乱に包まれる。
「え……え……??」
「どうなされましたの、スタシア!」
「か、体が動きませんの……」
「「――ッ!」」
スタシアの言葉に反応した2人は、今更ながら自分たちの体も動かなくなっていることに気づいてしまう。
「ま、麻痺毒?!」
「いつの間に!?」
そのような解答を導き出していたレメインに対して、ケビンは笑いながら答えていく。
「麻痺毒だったら3人とも床に倒れているだろ。麻痺毒を食らったことがないのか? あれは体が麻痺するんだから、綺麗にイスに座って姿勢を維持できるわけないだろ。しかも、スタシアは立った状態から倒れるんだから、あんな風に綺麗に床に座れるわけがない」
「ど、どうして私の名前を?!」
「いや、散々レメインやリゼラが呼んでただろ。なに? スタシアって天然さんなの?」
「ち、違います!」
ケビンから不名誉なことを言われてしまったスタシアは、すぐさま否定して真っ当であることを主張するのである。真っ当であるかどうかは別として。
そのようなひとコマがあったが、ケビンは今回のお仕置き内容について3人へ説明していく。
「今回のお仕置きは結構考えることとなった。殴ったり蹴ったりして恐怖を植え付けるのもいいが、恐怖はそのうち薄れてしまう。それを薄れさせないためには定期的に恐怖を植え付けるしかない」
ケビンの口から『殴る、蹴る』という単語が出てきたことによって、3人とも顔を青ざめさせてしまうが、既に3人の頭はエラに対してしていた自分たちの行いなど考える暇もなく、今はただ自分たちの処遇の方が気になり気が気ではなかった。
「でも、定期的に恐怖を植え付けるために、わざわざここへ来るのも面倒くさい。よって、精神的苦痛でもより効果のあるものを考える必要があった。肉体的苦痛はそのうち消えてしまうしな」
中々結論に達しないケビンの語りに、3人とも生唾を飲み込んで死刑宣告される前のような気持ちに陥ってしまうが、ケビンは意図してこのようにのんびりと語っているわけではないので、思わぬところで恐怖効果が現れていることに気づいていない。
「貴族の女性にとっての精神的苦痛……貴族に限らず女性にとってはかなりの精神的苦痛を強いる方法を思いついた時は、これしかないと思ってしまった」
「いったい何が言いたいんですか!」
とうとう我慢ができずにレメインが口を挟むと、ケビンは結論を言う前に実行に移した。
「こういうことだ」
そう告げたケビンは気分が乗っているのか指をパチンと鳴らすと、レメインの体は転移されてベッドの上へと移動させられてしまい、座らさせられているのだった。
その光景に3人とも唖然としてしまうが、レメインではなく残りの2人が異常事態に気づいてしまい、声を挙げてレメインにそのことを伝える。
「レメイン様、お召し物が!」
「早く隠してください!」
2人が必死になって伝えたことにより、レメイン自身も自分の姿が裸になっていることに気づいて悲鳴をあげてしまう。
「女性は好きでもない相手に肌を晒すことを忌避している。貴族女性ともなると尚更その傾向が強くなる。貴族ってのはことさら穢れを嫌うからな」
ケビンが語っている中でレメインが体をよじり身を隠そうとしても、全く体の自由が効かず、ケビンに肌を晒し続けることになる。
「ちなみに自殺を図れないようにしてあるから、舌を噛み切って死にたいと思っていても死ねないぞ」
「見ないでください! 私の肌を見ていいのは夫のみです!」
「それは無理な相談だ。これはお仕置きなんだからな」
そしてケビンは同じようにリゼラやスタシアもベッドの上に移動させたら、移動させられた2人はレメインのように裸になっていたので、思わず悲鳴をあげてしまう。
「さて、お仕置き開始だ」
ケビンがベッドへ近づくと3人とも短く悲鳴をあげて、このあとに起こることが容易に想像できてしまい泣いて許しを乞うが、ケビンはバッサリと切り捨ててそれを拒否するのだった。
そしてケビンはじわじわと苦痛を与えていくために、3人の体を鑑賞していく。
まず1人目のレメインは45歳で、濃いブラウンのロングヘアでブラウンの瞳が特徴的な女性。胸はドレスを着ていた時に比べて小さくなっており、上げ底をしていたのだろうとケビンは結論づける。鑑定の結果も手のひらサイズのCカップだった。
そして2人目のリゼラは32歳で、明るいブラウンのロングヘアでブラウンの瞳が特徴的な女性。レメインと同じような細工をしていたのか胸が小さくなっており、鑑定の結果は心もとないサイズのBカップだ。
最後となる3人目のスタシアは20歳で、ブロンドのセミロングヘアで青色の瞳が特徴的な女性。こちらは逆にドレスの時は目立たぬように細工をしていたのか、脱いだ途端にレメインよりも大きいDカップの胸が姿を現していた。
「ここの当主は嫁が増えるごとに若返らせているのか? 見事に40、30、20代と揃ってるな。次の嫁は10代の子になりそうだ」
「そのようなことよりも早く解放しなさい! 今ならまだ当主には黙っていて差し上げます!」
その後、一通りお仕置きを終わらせたケビンが賢者タイムに突入すると、ふと妙案を思いついたのでそれを実行に移す。その妙案とは3人に催眠をかけて、ケビンのことを最愛の人だと誤認識させることである。
そして、お仕置き終了時にその催眠を解除して、見ず知らずの男相手によがりまくっていた自分たちを認識させて、絶望感を与えるというものだ。
「《ヒプノシス》」
ケビンが魔法を使ったことにより悲愴感で茫然自失と化していた3人は、トロンとした瞳に切り替わってしまう。
「今から俺のことは最愛の人だと認識するんだ。その認識は俺の姿を見た時に有効となり、俺が別れを告げた1分後に無効となる。そして、お仕置きの最中は俺のことをケビンと呼んで構わない。ただし、お仕置き以外の時は俺の名前を忘れる。このお仕置きに関して誰にも口外できない。あと、エラを今後虐めることは禁止する」
思いつく限りのことを伝えていくケビンは、最後に3人とも性に対して貪欲になるように告げたら、拘束魔法と一緒に催眠魔法を解除した。
その後のケビンは繰り返しお仕置きを続いていき、3人がバテてしまったところで催眠魔法を使っては最後の仕上げをする。
「今回のことは俺が出て行ったあとも旦那にされたと思い込んで、何事もなかったかのように生活を続けろ」
それからケビンは魔法を解除すると、あられもない姿の3人に別れを告げて宿屋へと帰るのであった。
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