第496話 マンネリからの脱却(生徒サイド)

※ 今回は5名ほど新たな生徒の名前が出てきます。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 時は遡り、ダンジョン攻略を進めている生徒たちは順調に活動を行っていたが、1ヶ月も過ぎればパーティー間での格差が広がってしまった。


 その理由として、戦闘を積極的に行う者と消極的に行う者とで、進行スピードに差ができてしまったからだ。


 元々初心者用ダンジョンと言うこともあり階層も20階までしかないためか、積極的に活動するグループは既にダンジョンを制覇していて消極的グループが制覇するまで、1度制覇したダンジョンを何度も制覇するという反復作業を繰り返している。


「遅い……遅すぎる。この俺がこのような所で足踏みするなど許されない。どれだけ足を引っ張るつもりだ」


 そう言って退けるのは、既にダンジョンを制覇してしまった幻夢桜ゆめざくらである。元々の知能の高さから魔物の行動パターンや戦闘方法などを早くから確立していき、惜しくも無敵グループには負けたが2番目にダンジョンを制覇していたのだ。


「そう言いましても私たちは一蓮托生ですわよ。この異世界へ召喚された同郷の士なのですから」


 苛立つ幻夢桜ゆめざくらを諌めようとしているのは、同じグループの勅使河原てしがわらであった。彼女は幻夢桜ゆめざくらと違い王道を突き進むような性格ではなく、どちらかと言えば持ち得る情報からベストな選択を模索する慎重派である。


 そのような彼女の考えは、クラスメイトがバラバラに行動して戦力が落ちるよりも、団体としての戦力を強める方針を旨としている。個の戦力も大事だが、団の戦力の方が人海戦術を行う際には優れているからだ。


 だが、それを是としないのが幻夢桜ゆめざくらであり、他の制覇している者たちである。そのような者たちは決まって男子に偏っており、女子会を開く女子たちはある程度の纏まりが築かれているので、確かに同じことの繰り返しで退屈とは思うものの、遅れているグループをどうこうしようという思考は、今のところ持ち合わせていない。


 結局のところ如何に愚痴をこぼそうが生徒たちの行動を決めるのは本人たちではなく、同行者の中で1番序列の高い総団長のガブリエルである。


 ゆえに、幻夢桜ゆめざくらは攻略終了時の全員が揃う時を待ち、その時が来たところでガブリエルへと提案する。


「総団長、制覇組が他のダンジョンへ行くことを許可してくれ」


「何故です? ここでも鍛錬はできるでしょう?」


「逆に問うが、総団長はスライムを相手にして鍛錬ができるか? 今までずっとスライムを相手にして鍛錬を続けていたのか?」


「そのようなことはありません。スライムを相手にするのは赤子を相手にしているようなものです。それにここはスライム以外の魔物も出るでしょう?」


「俺にとってはもう赤子を相手にしているようなものだ。つまらなさ過ぎるし鍛錬にならん」


「他の方々も同様の意見ですか?」


 ガブリエルが幻夢桜ゆめざくらではなく他の制覇組の意見も取り入れようとして問いかけると、制覇している男子たちは口々に同じことを発言していき、女子たちは確かに飽きてはいるものの、仕方のないことだとして諦めていることを発言する。


「困りましたね……」


 制覇組の意見を聞いたガブリエルが逡巡をした後に、制覇組で他のダンジョンへ行くことを希望している生徒たちへ再度口を開いた。


「では、こうしましょう。明日の攻略はいつも通りではなく、他のダンジョンへ行きたい方々はパーティーを組まず1人で制覇してください。1人で制覇できたのなら、他のダンジョンへ行くことを許可しましょう」


 ガブリエルの告げた内容に対して余裕の笑みを浮かべる者がいる中で、パーティーとしてなら楽勝だった者たちは、苦虫を噛み潰したような表情となってしまう。


 そのような時に教育実習生がガブリエルへと質問をする。


「ガブリエルさん、仮に1人で制覇した生徒が現れたら、その生徒は1人で次のダンジョンへ向かわせるのですか?」


「いいえ、達成できた者たちで新たなパーティーを組んでもらいます。そうすれば必然と攻略の早い者同士で組むことになり、成長スピードもその分だけ早くなりますから」


「それなら安心です。てっきり1人で向かわせるのかと思ってしまいましたので」


「さすがにそれはしませんよ。ここを制覇できたと言ってもまだまだ弱いですから、1人で情報のないダンジョンへ潜るなど愚の骨頂です」


 ガブリエルは特に意図したことではないが、『まだまだ弱い』という発言を聞いた幻夢桜ゆめざくらは眉をピクリと動かしてしまう。


「では、話も纏まりましたので今日はもう帰りましょう」


 こうして明日からソロでダンジョン制覇を目指すことになった一部の生徒たちは、次なるダンジョンへ向けて期待に胸を躍らせるが、確実にパーティーから抜けていきそうだと感じている現状維持派は、これからのパーティー戦をどうするか不安でしかなかった。


 そしてその夜、案の定女子たちは女子会を開いてこれからのことを相談し始める。


「男子たちって確実に1人で乗り込むよね?」


「でも、それって前衛に限られるんじゃない?」


「後衛の人はへこんでたもんね」


「それよりも男子たちが抜けた穴をどうするかよ」


「私たちだけで編成を考え直してみる? 前衛の男子抜きで」


「次のダンジョンへ行きたそうにしてた後衛の男子たちはどうする?」


 制覇組の女子たちが、確実に抜けるであろう男子たちの代わりをどうするか話し合っていたら、勅使河原てしがわらがそれに対しての提案をする。


「攻略の遅れているパーティーと、制覇組のパーティーを混ぜてみませんこと? そうすれば攻略スピードにバランスが取れるのではなくて?」


「それもそうかぁ……遅れているパーティーも心強いかもしれないし……その辺どうなの?」


「んー……私たちが遅れているのは、元々そこまでして戦いたくないっていうか……ぶっちゃけ強い人たちが頑張ればいいかなって……戦うのが好きそうみたいだし……」


「つまり怠けてるってことじゃねぇか!」


 攻略の遅れている女子の回答に噛み付いたのは、制覇組である無敵グループの百鬼なきりであった。


「別に怠けてるわけじゃ……」


「ふざけんなよ! もし誰かが死んだら、てめぇは責任取れんのかよ!」


「そこまでの話じゃないでしょ!」


「うちらが頑張って戦ってる中で、てめぇはのほほんと眺めてるだけなんだろうが! うちらだって好きで戦ってるわけじゃねぇよ! それしか帰る方法が今のところねぇからだ! てめぇみたいな人任せのやつのために戦ってるわけじゃねぇんだぞ!」


夜行やえ、落ち着きなさい」


 荒れ狂う百鬼なきりに対して同じグループの千手が声をかけると、百鬼なきりは舌打ちをしてその場は矛を収めるのだった。


「貴女の今の発言は許せるものじゃないよ? 楽しんでいる男子は別として、私たちが好きで戦ってると思っていたの? 平和な日本からやってきて好きで生物を殺していると思っていたの?」


「それは……」


「貴女はその考え方を改めた方がいいよ。私も百鬼なきりと同じで他人任せにする人のために命をかけて戦いたくない。しかも勝手に勘違いして戦闘狂だと思われているのならなおさらね」


「反省しろー」


 百鬼なきりに怒鳴られた女子に対して、千手が百鬼なきりと同意見であることを粛々と伝えると、トドメに千喜良が発言したらこの場は暗い雰囲気となる。そして、消極的な意見を出した女子生徒は、図らずも針のむしろとなるのであった。


 そのような中で、暗い雰囲気を変えるべく発言したのは勅使河原てしがわらである。


「御三方もそのくらいにしておいてくれませんこと? 恐らく同じような考えを持つ人は、攻略の遅れているグループの中にまだいるはずですわ。その子だけを悪者にするのはよろしくなくてよ」


「そのくらい顔を見りゃわかるってーの! 後ろめたいヤツらは全員下を向いてるんだからな」


「そうだ、そうだー」


「千代、追い詰めないの」


 千喜良を諌める千手の言葉で会話が途切れると、後ろめたいことがない女子から百鬼なきりたちに対しての質問が挙がる。


「パーティーの再編成を考える前に、百鬼なきりさんたちはどうするの? 無敵君と一緒に行くために明日は1人で攻略するの?」


「そんなわけないっしょ。あたしや千代ならまだしも奏音かのんなんかネクロマンサーだし、攻撃手段が限られてるのに1人だけ置いていけるわけねーし、うちらの友情を舐めんなっつーの」


「そうだ、そうだー」


「それに無敵たちは3人でも何とかなるっしょ。月出里すだちが一応暗黒だけど神官だし?」


「猪ぃぃぃぃ!」


「あっ、そうか。あいつバカだから猪やってんだ。てか、そうなると前衛3人じゃん!」


「そこら辺は無敵が上手いように制御するんじゃない?」


「あやつり人形!」


 百鬼なきりたちが居残る姿勢を見せるとその後は教育実習生先導の元、仮に男子たちが抜けた場合のパーティー編成を考えて、仮パーティーを組むことになるが、食み出し者である百鬼なきりたちは、自分たちだけでパーティーを組んでしまうのであった。


 翌日になって生徒たちがダンジョンに到着すると、案の定男子たちは1人でダンジョン制覇をするために、今まで組んでいたパーティーから抜けていく。


百鬼なきりたちはやっぱり行かねぇのか?」


「あたしと千代が行ったら奏音かのんが1人になるっしょ」


「仕方ねぇな。お前たちが追いつく頃にはバリバリ強くなってんぜ?」


 攻略を前に無敵グループの月出里と百鬼なきりが会話をしていると、別のところでは幻夢桜ゆめざくら勅使河原てしがわらも同じように会話をしている。


勅使河原てしがわらは居残り派か」


「私が行っては香華が1人になりますわ。香華が戦える職業でないのは知っているでしょうに」


「最初から弥勒院みろくいんには天運がなかっただけのことだ。まぁ、この俺が力をつけた暁には面倒を見てやろう」


 そのような会話が繰り広げられている中で、特に可もなく不可もない生徒はブツブツと呟いていた。


「フフ……僕が1番なんだ。この力は僕のためにある」


 こうした中で各々のパーティーから前衛の男子たちが抜けていくと、女子たちは予め決めていたパーティーへと編成を組み直していく。


 そしてパーティーを抜けたソロ攻略者は、何度も制覇したダンジョンなので今更気負うこともなくダンジョン内へと消えていき、そのあとをガブリエルと騎士が追随していくのだった。


 その後は、残された順番待ちのソロ攻略者たちは順番が回ってくるまで暇なのか、適度にスキルや魔法の鍛錬に励んでいると、付き添いなしでも入って構わないとされているパーティーはダンジョン攻略へと乗り出して、ソロ攻略者と同様にダンジョンの中へと消えていくのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 付き添いなしで攻略許可が下りているグループの1つであるこの者たち4人は、世間話をしつつ適度に攻略を進めながらダンジョン内を歩いていた。


「いきなりですが、猿飛氏」


「なんでござるか? 四殿」


「猿飛氏と百武氏だけでもソロで行けたのではなかろうか?」


「フッ……何を言い出すかと思えば……我ら4人、生まれし日、時は違えどもオタクの契りを結びしからは、心を同じくして助け合い、萌えへの道を進まん」


 四の問いかけに対して不敵な笑みを浮かべた猿飛が誓いの言葉を口にすると、他の1人がそれに続いていく。


「上はプロに報い、下は同人を安んずることを誓う。同月、同日に生まれることを得ずとも、同年、同月、同日に萌えることを願わん」


 そして最後の締めを残る1人が口にするのだった。


「皇天后土よ、実にこの心を鑑みよ。萌えに背き創作者を忘るれば、天人共に戮すべし」


「猿飛氏……百武氏……一氏……小生は……小生は……」


 四が仲間の気持ちに痛く感動している時に、魔物の気配を察知した猿飛がその四へ声をかけて注意喚起した。


「四殿、感動している場合ではござらん。どうやら敵が来たようでござる」


「拙僧が前衛にて出ますぞ」


「某は役立たずでごわす」


「小生だって役に立っていない件」


 一と四が力になれないことを口にするが、猿飛はそのようなことを気にせず戦闘態勢に移行すると、百武へと声をかける。


「では百武殿、2人でサクッと倒すでござる」


「了解ですぞ、猿飛殿」


 面白おかしく?もオタクグループは我が道を進みつつ、平常運転で攻略を続けているようだ。


 そのようなオタクグループが魔物を無事に倒し終えて道を進むと、他のグループとばったり遭遇してしまう。


「あっ!?」


「おやおや、いちじく氏。このような所でばったり出会うとは、小生は運命を感じずにはいられないな!」


「相変わらずウザイわね」


「ツンデレ乙。いちじく氏もこちら側だと内なる小宇宙が囁いている件」


「ムカつく~!」


 奇しくもダンジョン内で出会ってしまったのは、オタクグループと隠れオタクグループのパーティーであった。


「四殿、まだいちじく殿はデレてないですぞ。どちらかと言えばツンドラですな」


「確かにそうでござるな」


「萌えとは奥が深いでごわす」


 そのようなことを言っているオタク3人に、隠れオタクのいちじくたちは早く立ち去りたい気持ちでいっぱいだが、1度仲間と認識されたオタクたちからは逃げられない。


「そういえば翡翠殿、そのグループにいるということは、やはりオタクを続けていたようでござるな」


「ちょっ、宗助!」


 今まで隠れオタクがバレていなかった服部は、猿飛による暴露によってその事実が白日のもとに晒されてしまう。


「えっ、そうなの!?」

「ふふっ、同志よ」

「服部さんも仲間だったんだ」


 猿飛の暴露話を聞いてしまったいちじくつなし大艸おおくさが感想をこぼしていると、同じく聞いていた四たちはいちじくたちとは違う点を聞き逃さず、そのことを猿飛へと指摘する。


「猿飛氏、小生の耳が確かなら、服部氏のことを下の名で呼んでいた気がするのですが? これ如何に?」

「某も聞き及び申したでごわす」

「そこのところkwsk」


「翡翠殿とは幼馴染みでござるよ」


「同志が幼馴染みを持っていた件!」

「オタクがリア充なのをリアルで見るのは初めてでごわす!」

「幼馴染みフラグキター!」


「そう言われてみれば、服部さんって猿飛君のことを下の名前で呼んでいたわね」

「くっ……リア充……付き合ってるのか?」

「幼馴染みがお互いにオタクって……」


「ち、違うわよ! このバカオタクと付き合ってるわけないでしょ!」


 つなしからの問いかけに対して反応した服部が必死に否定していると、更なる爆弾が猿飛から投下される。


「酷い言われ方でござるな。昔は拙者と結婚すると言って、引っ付いて離れなかったでござるのに」


「「「キャー!」」」

「「「爆発しろ!」」」


「宗助っ! ちょっとあんたは黙ってなさい!」


「ちょっとこれは詳しく問いたださないと」

「結婚を誓うほど好きだと言うのか!?」

「でも、猿飛君たちって奴隷に手を出したから、もう嫌いになってるかも」


 女子グループで広まっている男子の卒業話を大艸おおくさがこぼすと、それを聞いた猿飛はあっさりとそのことに対して否定した。


「ん……? 拙者、まだ童貞でござるが……」


「「「「えっ!?」」」」


 女子たちが驚いている中で、猿飛は頼んでもいないのに仲間の擁護もしてしまう。


「拙者だけでなく同志たちも童貞でござる。オタクが女子相手に手を出せるわけないでござる」


「猿飛氏にあっさりと暴露された件」

「堂々と言う猿飛氏はカッコイイでごわす」

「そこにシビれる、憧れるですぞ!」


「ちょ、宗助……あなた、奴隷の女の子に手を出していないの!?」


「当たり前でござろう。拙者、初めては翡翠殿がいいでござる。結婚の約束をしたのに、他の女の子に手を出すわけにはいかないでござるからな」


「え……そんな……いきなりすぎよ……わ、私だって……初めては宗助と……」


 いきなりの猿飛による告白に服部も満更ではなく、語尾に行くにつれてごにょごにょとしてしまうが、周りの者たちはそのことを聞き逃さなかった。


「小生たちが空気な件」

「相思相愛でごわす」

「羨ましいですぞ」


「胸焼けしそう……」

「これが格差社会……」

「ラブラブだね……」


 取り残されている6人が思い思いのことを口にしていくと、猿飛は服部へこの際だからと伝えておきたいことを伝えようとしてしまう。


「翡翠殿、このような世界にいる以上、いつ死ぬかわからぬでござるから今のうちに伝えておくでござる」


「「「「「「あ……」」」」」」


 2人の状況を見守っている6人が6人とも、オタクゆえか『死亡フラグ』と瞬時に同じ答えへ辿りつくのだが、猿飛には6人の心配など届かずに止まることはなかった。


「拙者と結婚を前提に付き合って欲しいでござる」


「……名前……」


「名前……でござるか?」


「殿なんか付けないで。昔みたいな喋り方で呼んでから言い直して」


「……翡翠ちゃんのことが好きです。僕と付き合ってください。それで大人になったら僕と結婚しよ?」


「うん! 私、宗くんのお嫁さんになる!」


 服部が嬉しさのあまり猿飛へ抱きつくと、猿飛はそれを受け止めて抱き返すのであった。


「小生、これを同人誌にしようと思うのですが、如何ですかな?」

「【異世界召喚されたら幼馴染みと付き合うことになった件】」

「幼馴染み……拙僧も欲しかったですぞ……」

「それ、完成したら買うわ」

「私はイラスト担当になるわ。ピクアマに投稿してるし、それなりに描けるつもり」

「私もお手伝いする」


 ダンジョン内だと言うのに、場違いなほどラブラブな雰囲気を出している2人を他所に、その2人を題材にした同人誌化の話は進んでいき、いちじくは四へとサークル名のことを問いかける。


「四、サークル名はどうするの?」

「小生たち8人のオタクという意味を込めて、【オクタ】とかどうですかな?」

「8を意味する【オクタ】を並べ替えると【オタク】……素晴らしいでごわす!」

「夢が膨らんできますぞ!」

「あぁぁ、無性にイラストを描きたくなってきた」

「楽しみだね」


 こうして猿飛と服部の預かり知らぬところでサークル名も決まってしまったが、2人はまだ抱き合ったままで過ごしており、今まで離れていた分のスキンシップを取り戻すかのように、服部は猿飛を離そうとはしなかった。


 そして、あまりにも服部が猿飛を離そうとしなかったので、いちじくが冷やかすことで服部は現実世界へと戻されてしまい、顔を真っ赤にして慌てて離れると言い訳を口にする。


 その言い訳も見られるものを見られてしまったあとでは効果がなく、結局のところ更なる冷やかしを受けてしまうのであった。


「では、拙者たちはオタクパーティーとして協力し合うのでござるか?」


「猿飛氏、オタクパーティーではなく、我らのパーティー名は【オクタ】です」


「【オクタ】でござるか?」


 先程決まったサークル名をパーティー名として取り入れた四の意見に、サークルメンバーの者たちが否を言うはずもなく、猿飛と服部は事後承諾という形でサークルメンバーの一員になったことを知らされる。


「それはなんとも夢の広がる話でござるな」


「わ、私たちがベースなの?!」


「翡翠殿は嫌でござるか?」


「……宗くん、呼び方……違う……」


 そう呟く服部は猿飛の制服の裾をキュッと摘むのだった。


「やれやれ、昔みたいに甘えん坊へと逆戻りでござるな」


「宗くん……」


「わかったでござる。翡翠ちゃんはモデルになるのは嫌でござるか? 翡翠ちゃんが嫌なら変えてもらうでござるよ」


「宗くんは嫌じゃないの?」


「拙者は宝物にするでござる。翡翠ちゃんとの物語が本になるでござるからな」


「……宗くんが宝物にするなら、私も宝物にする」


 こうして物語のベースとなる2人からの許可が下りたことによって、同人サークル【オクタ】の処女作は、頓挫することなく進められそうになるのだった。


 それからはお互いに手に入れている職業と、これからの戦い方についての話し合いが行われていく。


「拙者は【忍者】でござる。まさに天職でござるな」

「小生が【中級鍛冶師】な件」

「某は【中級錬金術師】でごわす」

「拙僧は【魔導槍豪】ですぞ」


 猿飛から始まり、四、一、百武の順で告げていくと、続いて女子たちも告げ始める。


「私は【女騎し――」


「くっ殺キタコレ!」

「しょ、小生、是非とも聞いてみたいのですが!」

「しょ、触手でごわすか!?」


 いちじくの告げた内容にすぐさま百武が反応したら、四や一が間髪おかずに願望を口にさらけ出してしまうと、それを言われたいちじくが怒りだしてしまい話が進まなくなったので、他の女子たちがそれを宥めてから話し合いは再開されるのだった。


「私は【魔導師】よ」


 至って普通の職業を告げたつなしに対しては男子たちも特に反応を示さず、次なる大艸おおくさが口を開くとまたしても百武率いる3人が騒ぎ始める。


「私は【武神か――」


「バーサクなのですな!? きっとバーサクですぞ!」

「小生は撲殺推しですが、何か?」

「踏まれてみたいでごわす」


 大艸おおくさの【武神官】という発言に対して、再び騒ぎ出した3人を今度は猿飛が落ち着くように宥めると、最後の1人である服部が口を開いた。


「私は宗くんとお揃いで【くノ一】だよ。きっと運命だよね? 宗くん♡」


 そう告げた服部が猿飛の腕に絡みつくと、残る6人はそれぞれの思いを口にしていく。


「爆発して欲しいのですが、何か?」

「某は爆発よりも幼馴染みが欲しいでごわす」

「幼馴染みフラグは最強ですぞ」


「服部さんって実際はあんなキャラだったのね」

「恋に恋してる……彼氏が欲しい……」

「幸せそう……」


 それから8人のパーティーとして攻略を再開させた【オクタ】は、戦闘方法にバリエーションができたことにより、以前の4人パーティーよりも攻略スピードが上がっていく。


 その道中はチラチラと猿飛を見てくる服部を見かねたのか、猿飛が戦闘以外の移動時には恋人繋ぎで服部と手を繋ぐことで満足させて、服部はダンジョン内だと言うのに終始ご機嫌で、いつもより積極的に敵を倒しては攻略していくのであった。


「猿飛氏が羨まし過ぎる件」

「某も……」

「拙僧もですぞ」


「私も趣味を理解してくれる彼氏が欲しいなぁ……」

「……灯台もと暗し……」

「……私も勇気出そうかな……」


「「「「「「はぁぁ……」」」」」」


 猿飛と服部のラブラブ具合いを見せつけられている面々は、それぞれの思いを胸に抱きつつ溜息をつくと、視線の先の猿飛たちを羨望の眼差しで見つめている。


 そうなってくると残るオタクメンバーが恋人関係になる日は、そう遠くない未来の話なのかもしれない……多分……



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



珍名ちんみょう高校 生徒名簿


四 (あずま)


猿飛 宗助 (さるとび そうすけ)


一 (にのまえ)


服部 翡翠 (はっとり ひすい)


百武 (ひゃくたけ)


 今回は漢数字系苗字がまたもや登場しました。みなさん、読めましたでしょうか?


 『四』の由来はどうやら『東屋』が古代中国の『四阿(しあ)』と同義だったため、『四=あずま』と読むようになったそうです。今は『四阿』ではなく『亭(ちん)』等に変わってるみたいです。当て字みたいなものなのでしょうか?


 『一』は至ってシンプルな由来です。『十前ここのつ』と一緒の考え方ですね。『一』が『二の前』の数字だから『にのまえ』とそのまま読むみたいです。そう考えると『九前【やっつ】』や『二【さんのまえ】』とか数字の分だけ増えてしまいそうです。


 『百武』を見た時は『〇式』と勘違いをしてしまいました。パッと見『武』と『式』が似ていたもので……『百武』は『ひゃくたけ』の他に『ももたけ』とも読むみたいですが、『〇式』が頭を掠めてしまったので『ひゃくたけ』にしてしまいました。

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