第454話 出動! 神殿騎士団
月日は流れ10月となり聖戦の準備が整うと、神聖セレスティア皇国は
「神聖セレスティア皇国、万歳!」
「女神フィリア様の加護あれ!」
「魔王なんか討ち滅ぼせ!」
「「「「「セレスティアっ! セレスティアっ!」」」」」
声高々に見送る民たちを両脇に見ながら、
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ところ変わってケビンはヴィクトールからの連絡を受けていた。
『今日知らせに来た使者の話によると、セレスティアが出兵したみたいだ』
「えっ、今の時期に!?」
『恐らくうちの国境を越える頃は、11月から12月といったところだろう』
「マジで馬鹿だったの?」
ケビンは今の時期に出兵したら早くても両軍がぶつかるのは冬真っ盛りの1月以降とみて、寒い中で戦うのを想定すると辟易としていた。
『私もまさか冬の決戦を狙っているとは、さすがに予想ができなかった。狙ったのかどうかは定かではないのだが……』
「うわぁ……冬に戦うなんて愚策もいいところだろ……うちは北国だからそれなりに寒さには強いけど、セレスティアって南国でしょ? 絶対に作戦を考えたやつは馬鹿だよ」
『うちは中間だからどっちつかずだな』
「あまりにも動きが遅いから、春あたりの開戦を予想してたんだけどなぁ」
『私もそうだ。これで兵たちには、新たに冬装備を準備しなければならなくなったから迷惑千万だ』
「あぁ、燃料とか大量にいるだろうね。戦う前に寒さで凍え死んだら元も子もないし、そういう意味では冬の決戦はある意味訓練にはなるかも」
『まぁ、寒さゆえ兵たちもいつもの動きができない上、基本的に出費が増える冬は戦争において敬遠されるからな。確かにそういう意味では滅多にないことだから訓練には向いている』
お互いに予想が外れたセレスティア皇国の動きに対して、セレスティア皇国の考え方やこれからのことを考えるとなると、通信機越しにお互いの大きな溜息がこぼれる。
「お馬さんが可哀想だ」
『寒い中で人を乗せて駆けるわけだからな。同情するよ』
「ところでヴィクト義兄さんはいつ合流させるの?」
『道先案内人の使者として、3名の若い兵士を国境沿いの砦に送り込むつもりだ。本隊は王都の東を通り抜ける頃だな。無駄に動かして余計な出費にならないようにしたい』
「アリシテア軍の総指揮官は誰?」
『今回はウカドホツィ辺境伯の領地を借りるわけだから、ウカドホツィ辺境伯に任命した。ケビンの言った“勝手知ったる”というやつだな』
「へぇーお手並みを拝見できるわけか。ある意味お互いに色々な思い入れのある対戦相手だしね」
『帝国軍と言っても当時の帝国軍はケビンが粛清しただろ。ウカドホツィ辺境伯も「胸を借りるつもりで臨む」って言っていたぞ。そちらの総指揮官はケビンがするんだろう?』
「いや、俺は総大将でどんと構えておく役目で指揮は侯爵家の者がするよ。うちの3大侯爵がそれぞれ中央、左右にわかれる。ちなみに本陣はなし。俺1人しかいないし、天幕とかいらないから」
『本陣のない対戦相手など現場に立つ者は嫌になるだろ。本陣を奇襲して終わりってできないからな』
「俺は遊撃みたいな感じだしね。どんって構えつつチョロチョロと遊びに行く感じで動くよ」
『ケビンと会った陣営は地獄だろうな』
「大丈夫、地獄を見るのはセレスティアだけだから」
こうして定期報告を終えた2人はセレスティア皇国のことを考えると、「なんだかなぁ……」と呟きつつ溜息をつくのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
更に月日は流れて冬に入る12月、奇しくもヴィクトールの読み通りとなりセレスティア軍が国境入りを果たし砦に到着した。
「お初にお目にかかります。この度の道先案内として遣わされましたアリシテア王国軍が1人、ナンイチ・アミサキと申します」
ヴィクトール国王が派遣した道先案内人の騎士が、いかにもな感じである
「ご丁寧にどうもありがとうございます。私は神聖セレスティア皇国フィリア教団所属、
「こちらこそよろしくお願い致します」
「それでは、こちらの各団長を続けてご紹介させていただきます」
総団長であるガブリエルがそう告げると、控えていた各色の団長がそれぞれ挨拶を始めていく。
「あたしは
「私は
「私は
「あぁぁ、俺は
「私は
「最後は私ですね。
各団長の挨拶が終わるとガブリエルが締めの言葉を口にする。
「以上で団長たちの紹介は終わりです。そして各騎士団全て合わせて
ガブリエルがそう締めくくるとナンイチはある程度の予想を立てているが、とりあえず確認のためにもと疑問を口にする。
「総団長殿の鎧を見て思ったのですが、もしや
「いえ、この鎧の色は歴代総団長が着込む総団長の証であるだけです」
「やはりそうでしたか。いかにも責任者という感じが見受けられましたので、不躾ながら質問させていただいた次第です」
「いえ、責任者などと……そのような……私はただ誰よりも強かっただけで選ばれた未熟者です」
「いえいえ、強さだけで騎士団のトップにはなれません。きっと総合的な能力も素晴らしいからこそ、
「いえいえいえ、私はまだ修行中の身でして、そのように素晴らしいなどと言われましても……」
「いえいえいえいえ、素晴らしいからこそ部下たちもついてくるというもので――」
各団長が呆れながらも静かに眺める中でよいしょと謙遜が乱舞し、不毛な言い合い合戦がしばらく続くと、ガブリエルが先に折れてしまい謙遜をやめて感謝を述べたところでナンイチは満足して、行軍の疲れを癒してもらうため夕餉の準備をするのだった。
「ささやかなる歓迎の宴を用意致しますので、本日は行軍の疲れを癒すためにもゆるりと休まれてください。外で休まれている兵士たちにも、ささやかながらお酒を用意致しますので」
「何から何までありがとうございます」
こうして砦の1室で行われた顔合わせはナンイチのよいしょが勝って、ひとまずアリシテア王国に軍杯が上がるのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
セレスティア軍を迎えた歓迎の宴も終わり、臨時で使わせてもらっている部屋に引きこもったナンイチは、部屋で待っていた仲間相手に愚痴っていた。
「ったく、何でセレスティア軍なんかを相手にしないといけないんだよ」
「まぁまぁ、今回はそれが仕事だからね」
「せっかくの仕事が接待じゃあ兵士になった意味がねぇな」
ナンイチの不満を宥める仲間がいれば逆に賛同する仲間もいて、部屋の中はいつの間にかナンイチの愚痴を宥めつつも、騒ぎ立てないように賛同するという空気ができあがっていた。
「それにしても、あの鎧はないよな?」
「目立つよね」
「アレって役割ごとに色が違うんだろ? 弱点を晒しているようなもんじゃねぇか」
「そうだな。茶色が補給係って言ってたから、茶色を倒したら補給がガタガタになるだろ」
「緑は魔法部隊なんだよね?」
「つまりそいつらも倒せば回復役がいなくなるってことじゃねぇか」
「セレスティアって馬鹿なのか?」
「何とも言えない」
「馬鹿だから冬に攻めるなんてことを、何故だか思いつくんじゃねぇのか?」
「全く意味がわからん」
「まぁ、意味がわからなくてもちゃんと仕事はしないとね」
セレスティア皇国の在り方を不思議に思う3人は常識破りなその方針に頭を傾げるが、話題はセレスティア皇国よりもエレフセリア帝国へと移り変わっていく。
「そもそも帝国とことを構えていいのか? 不可侵条約を結んでるじゃねぇか」
「それについては聞いてある。何やら両陛下同士で話し合いをした結果、今回はうちの国がセレスティアに大きく出られないから、仕方がないとのことだ」
「教会を排斥するわけにはいかないからね」
「そりゃ帝国だって同じことだろ」
「お前は勉強不足がすぎるぞ。今の帝国にほとんど教会はない。セレスティアに頼らずとも領主様たちが独自の医療機関を作っている。しかも教会に比べて格安で治療を施しているらしいぞ」
「へぇーうちもそうすりゃあセレスティアにデカい顔をされなくて済むのにな」
「国力の規模が違うんだよ。彼の国では平民だろうと教育を受けられるからね」
「うちだって受けられるだろ」
「平民は平民でも街中に住んでいるような平民じゃなくて、村人でもってことだよ」
「本当かっ!? 村人がよく金を払えるな」
「国の補助金があるみたいだよ。将来的には返さないといけないけど利息はないみたい」
「かぁー、資金力が根本的に違うってことか」
「少しくらいは社会情勢を勉強しておけ」
帝国の国力の規模に驚く兵士はナンイチから指摘されると、肩を竦めて笑ってみせるのだった。それを見たナンイチともう1人の兵士は『こりゃ、勉強しないな』と、同様の答えにいきついたのを口にせずとも思ってしまったのである。
それからも3人はお酒を片手に歓談をして、時間も頃合になったところで眠りにつくのであった。
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