第438話 白種の楽園
歓迎会を催されてから数日後、携帯ハウスへNo.2のアブリルがやって来るとクララへパレスの様子を報告する。
「それは本当かの?」
「はい。私もこの目で確認しましたので間違いありません」
そのようなところへクラウスと散歩に出かけていたケビンが帰ってくるとクララから手招きされたので、ケビンはクラウスへうがいと手洗いをするように言伝たらクララの元へ向かうのだった。
「どうかしたのか?」
「実は――」
アブリルがケビンへ報告した内容は、人化できないドラゴンたちの出産ラッシュが始まったとのことだった。
「それはいいことじゃないのか?」
「それがですね、1度に5、6個は産み落としているのです」
「へぇーそれは一気に数が増えるな」
「主殿よ、ドラゴンが1度に産むのは今までも多くて2個だったのだ」
「そうなのか? そういえばこの話が浮上した時に、結局のところドラゴンが何個産めるか聞いていなかったな」
「主殿の精は何かあるのか? 元々メスドラゴンに精を蓄える機能はあるが産ませ過ぎであろ?」
「うーん……ソフィからこれといって何も言われたことはないしなぁ。ちょっと確認してみるか」
それからケビンはソフィーリアへ念話で連絡を取ると、ことの次第を説明して解答を求めるのだった。
『簡単なことよ。まず1つ目、元々人族の身でありながらも強いあなたが、最強種と言われるドラゴンの肉体を得たらどうなるか簡単に想像がつくでしょ? 全てにおいてパワーアップするのよ』
『精も?』
『当たり前じゃない。人の身でドラゴンを倒すのだからドラゴンになった時点で、元々のドラゴンから比べると大人と子供くらいの力の差が出るわよ』
『マジか……』
『あなたがブレスと勘違いして撃ったあの攻撃がいい例だわ。あんなものドラゴンには撃てないもの。古代龍でも無理よ』
『えっ……見てたの?』
『見てたわよ。家族みんなで』
『え? 仕事をしている嫁とかもいるだろ』
『録画しておいたから夜に見たの。ティナたちがドラゴンの集落に興味があったらしくて……それにクララの実家に当たるのだし、みんなの意見が一致したのよ』
『そうなのか……』
『あなたがドラゴンになってはしゃいでいたのも、バッチリ見られているわよ。ティナたちが子供みたいにはしゃぐあなたの姿をカワイイって言ってたわ。それと子供たちにはあのレーザービームが大好評だったわよ。「パパ、カッコイイ!」ってはしゃいでいたわね』
『あれはあれで被害が甚大だと思うからカッコイイとは言えないんだけど……』
『そこは私がカバーしておいたから大陸に被害は出ていないわ。海が大爆発したってことと、そこに棲む魔物が犠牲になったわね』
『そうか、ありがとう』
『次に2つ目ね、それはあなたがドラゴンたちに快感を刻み込んだからよ』
『え……それってマズかったのか……?』
『マズくはないけど作業感覚だったものがあなたの手によってメスの本能を目覚めさせられてしまって、「このドラゴンの子を産みたい」っていう思考に体が対応するため変化したってところね』
『それだけのことで?』
『あなたほど性に貪欲な人はいないじゃない。その人から与えられる快感よ? 枯れたドラゴンでも一気に目覚めるわ。そして堕ちるのよ。翌日から普通に求められたでしょ?』
『ああ、確かに。空を飛んで遊んでたら声をかけられたな』
『まぁ、今回のことは特に体がどうこうなるわけではないから、クララに心配しなくていいと伝えてあげなさい』
『わかった。それじゃあ、もうしばらくしたらそっちに帰るから』
『待ってるわね』
ソフィーリアと念話を終えたケビンは、ソフィーリアから教わったことをクララとアブリルへ伝える。
「主殿はこの世界の最強生物なのではないか?」
「私めもそう思います。ドラゴンを超える人族がドラゴンの肉体を得る……確かにそう言われてしまえば納得のいく話です」
「いや、俺でも勝てない相手とかいるから。そこら辺の魔物なら倒せるけど」
「そんな者が存在しておるとは思えんがの」
「いるぞ。今はいるかどうか知らないが、帝国にいた魔王と戦ってボロクソに負けそうになった。ブチ切れて結果的には勝てたけど」
「魔王か……そういえば久しく見てないの。主殿でも魔王は無理なのか?」
「相性が悪い。俺は勇者じゃないからな、魔王と相性がいいのは勇者だ」
「ああ、あやつらか……」
「過去に会ったことがあるのか?」
「遠目にの。あやつらはドラゴンを倒すのに躍起になって襲いかかってくるからの。相手をするのは面倒なのだ。そういうのは紅とか血の気の多いドラゴンの担当だしの」
クララたちとの話の区切りが一旦つくと、思い出したかのようにアブリルがケビンの行動を再確認するように話題を出してくる。
「それにしても主様は翌日からもドラゴンのお相手をしていたのですね」
「ドラゴン姿で遊んでいる時に誘われたからな」
「私めも抱いて欲しいです」
「アブリルも目覚めさせてしまったようだの。この分だとパレスのメスどもは一様に目覚めておろう。主殿はこれからも大変だぞ」
「まぁ、母体に影響のない程度までだな」
「帰るまでは相手をしてやってくれ。卵が孵化しだしたら、それどころではなくなるしの」
「そんなに大変になるのか?」
「当たり前であろう? 今のところ生まれた卵は100個をゆうに超えておるぞ。1年に数個だったものが主殿が来ただけで軽く100年近く短縮したのだ。子ドラゴンの食料調達に追われる日々になろう」
「パレスの拡大化も視野に入れなければなりません」
「ひっそりと暮らしておったのに嬉しい悲鳴だの」
「そもそも何で産む数がそんなに少ないんだ?」
「ここのオスは主殿のように性の権化ではないからの。エルフどもと一緒だ。長命種ゆえ、そこまで躍起になって数を増やそうとはせぬのだ。他の種に比べて好戦的でないゆえかメスよりも強くなる者も少のうてな。こればっかりは目立たぬような暮らしを強要した私の責任でもある」
「いえ、長のせいではありません。長は数の減った我らを守るために尽力しています」
「うーん……ドラゴン界も色々だな。とりあえずパレスは俺が拡大しておく。物理的に拡大したら秘境の場所がバレるだろうし」
「場所を選ばず広くするのは主殿の専売特許であったの」
「あとは飯の確保か……」
「食料はどうとでもなるの。北は海が広がっておるし、人里近くでなければ陸の生物も狙える」
その後も色々と話し合いを続けたケビンたちはまとめに入ると、昼時となっていたのでそのまま昼食を摂ることになる。
そして昼食後はケビンがパレスの各所に魔導具を打ち込んでいくと秘境が外部の者に認識されないよう結界を張り、最後にパレスの中心地へ魔導具を打ち込んだらその日の作業を終了する。
「主殿よ、その魔導具はどういう効果なのだ?」
「これはパレス内に棲息しているドラゴンの生体反応を感知して、自動的に空間を広げてくれる魔導具だ。数や大きさによって広がったり縮まったりして最適な広さを保つ」
「無茶苦茶な性能だの……」
「魔法でその都度広げてもいいけど、俺がいつまでもいるとは限らないしな。ここを覆う結界も魔導具で施しておいた」
「……あまり主殿がいなくなる話はせんでくれ……悲しくなる……」
クララが悲しそうにケビンへ視線を向けると、ケビンはクララの肩を抱いて携帯ハウスへと帰るのだった。
それから夜になるとクラウスが寝てからクララやアブリルたち、人化のできるドラゴンたち総動員でケビンへ襲いかかり、ケビンは絶え間なく戦い続けていき、朝になるとあられもない姿をした女性たちが彼方此方でダウンしているのである。
そのような日々を送っていたらドラゴンの卵が孵化したようで、ケビンはその現場へクララとともに見に行くと、小さなドラゴンが生まれていて母親ドラゴンから肉を食べさせられていた。
それを皮切りに次々とドラゴンの卵が孵化していき、パレス内は一気に賑やかになるのだった。
「こうして見ると感慨深いものがあるな」
「生命の誕生はどの生物においても神秘であるからの。だが、さすがにゴブリンやオークの誕生には立ち会いたくないが」
「それは俺も御免こうむるが……ゴブゾウの時は立ち会ってもいいかな。あいつを人の世界へ連れ出したのは俺だし」
「際限なく生まれるぞ?」
「そこはスキルや魔法で何とかする。というか、そうしないと主のライアットさんやカーバインさんに怒られてしまう」
「主殿の数少ない頭が上がらない相手よの。して、魔導具は上手く作動したかの?」
「ああ、まだ子ドラゴンだからそこまでではないけど、それなりには領域が広がっているようだから成功してる」
「ここは白種の楽園になりそうだの。ドラゴンを害せる者など滅多におらぬがそれでも外敵は侵入できず、なおかつ元々の集落の広さから外見上は変わっておらずに中身だけが広くなるしの」
「大したことじゃない」
「……ケビン……ありがとう……そなたに会えたことが私にとって何よりもの宝物だ」
「礼なんていいさ。クララが喜んでくれるならそれでいい。妻の悩みを解決するのは夫の務めだしな」
それからケビンは最後の仕上げに森林の中心地である拓けた部分に転移ポータルを設置したら、アブリルへ使用方法の説明をする。
「わかりました。我ら一同でこの魔導具を含め、主様が設置された数々の魔導具を全力でお守りします」
「ああ、その辺は大丈夫だ。たとえクララのブレスを受けても壊れないから。壊せるとしたら俺かソフィくらいだろ」
「そう言ってやるでない。アブリルたちのせめてもの感謝だ。心持ちというものよ」
「それなら頼む。アブリルたちも気兼ねなく帝城へ遊びに来てくれ」
そう告げたケビンはクララとクラウスを連れて帝城へと帰るが、残されたアブリルは他の者たちを集めてケビンがパレスへ施した数々の内容を説明したら、クララの【長】とは違う形で自分たちの主として認める話がまとまり、ケビンやクララの預かり知らぬところで【白種の王】と勝手に決めてしまい崇めるのであった。
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