第195話 ダンジョン改造
ダンジョンを制覇したケビンは、翌日に皆を引き連れてマスタールームへと転移すると、ダンジョン改造を早速始めるのであった。
「先ずはここに俺以外の者が、転移魔法陣から来られないようにしてくれ」
〈マスター登録完了後、権限のない方はこの場に転移できないようになっています〉
「それなら、ここの3人を通過できるように登録してくれ」
〈それでは、1人ずつコアへ触れて下さい〉
ケビンに先導される形で、ティナたちはコアに1人ずつ手を触れて登録を済ませた。
「次はダンジョンの改造だな」
ケビンがダンジョン改造に取り組もうとした矢先、ティナが気になっていたことを尋ねた。
「ケビン君、100階層のボスってどうなってるの?」
「あ、そうだった。コア、100階層のボスっているのか?」
〈現在、100階層にボスは配置されてません〉
「……あのボスってコアが配置したものか?」
〈否定。何かしらの力が働き、突如現れたものです。それにより、本来のボスは強制的に排除されました〉
「やっぱりイレギュラーか……」
「あれは予定外の戦闘だったのね。あんなに苦労したのに……」
「2度と戦いたくない……」
「あれは嫌でしたね……」
3人がボス戦を振り返って感想をこぼしていると、ケビンは重い雰囲気を払拭するために話題を変えるのだった。
「それよりも、改造を進めよう」
「そうね、先ずはボス部屋の変更よね」
「コア、ボス部屋の魔物の数を固定にしてくれ。外部からの干渉を受けないために」
〈了解〉
「ボスはどうしようか?」
ケビンは肝心のボスの配置をどうするか、ティナたちにも意見を聞くことにした。
「10階層は、ゴブリン種にするのは間違いないわね」
「問題は数」
「あと種類です」
「いっそのこと、5階層ごとにボス部屋を作ろうか?」
「どうして?」
「ぶっちゃけ10階層ごとにしか、転移魔法陣がないのって面倒くさくない? すぐに帰れないし」
「確かに、ボス戦の前って補給とかしたいのに、10階層前まで戻るのは面倒ね」
「本当なら各階層に転移魔法陣を設けるのがいいんだろうけど、それだとイージーモードになっちゃいそうだしね」
「それなら、ボス部屋の前に作るのは?」
「それこそイージーモードだよ。万全の状態で挑めるから」
「楽すぎる」
「やはり5階層ごとがよろしいと思います」
話し合いの結果、5階層ごとにボス部屋を設置することになり、5のつく階層は、0のつく階層の前哨戦として比較的優しいボス配置にして、0のつく階層は、5のつく階層の上位種を配置することで話は纏まった。
「そうだ! 0のつく階層には確率でレアボスを配置しよう」
「それって意味あるの?」
「レアボスのドロップ品は、通常はレアボスの素材関係にして確率でレアな道具や装備品が出るようにすれば、それを目当てに躍起になって何回も挑もうとする冒険者が出てきたりするだろ?」
「途中で諦めちゃわない?」
「だから最初は噂を広めてもらうために、ある程度確率を上げておくんだよ。それで、挑む冒険者が増えたら確率を下げればいい。ある程度の人数が手に入れたという実績が残れば、法螺話とも思わないだろ?」
「名案」
「さすがは、ケビン様です」
「ということで、コア、変更を頼む」
〈問題があります〉
「何だ?」
〈冒険者がダンジョン内に残っていますので、構造の変更が出来ません〉
「何階層だ?」
〈現在、75階層と浅層にいます〉
「75階層か……意外と頑張ってるな」
「それって、鮮血の傭兵団じゃない?」
「間違いない」
「どこまでいっても邪魔をしてきますね」
「よし! 俺が強制排除するから、その後にダンジョンの再侵入を不可にしてくれ。そしたら変更可能だろ?」
〈肯定〉
「ケビン君、どうやって排除するの?」
「転移させる」
「大丈夫なの?」
「トラップとしか思わないよ」
それからケビンは【マップ】を使って、ダンジョン内に残っている冒険者たちを、外へと転移させた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――75階層
一方でケビンたちを見つけるために、破竹の勢いで攻略を進めている鮮血の傭兵団は、今日もまた、朝から攻略に勤しんでいた。
手強くなった魔物を相手に連携を図りつつも地道に殲滅していく。そんな中、不運にもケビンの魔法陣が発動する。
「な――!」
「トラップだ! 避けろ!」
「無理だ! 避けても追いかけてきやがる!」
「ヤバっ! 無理っしょコレ!」
「――!」
足元に展開された魔法陣は、その場から離れても追従してきており、いくら逃げようとも離れることは出来なかった。
次々に魔法陣が強く輝くと、その場から鮮血の傭兵団たちをダンジョン外へと転移させていくのだった。
「どうなってやがる……」
団長が独り言ちる中、気づけばそこはダンジョンの外であり、入口前の広場であった。次々と転移させられた鮮血の傭兵団たちが、呆気に取られていると、見慣れぬ冒険者たちもその場に転移させられていた。
「おい、お前らも転移のトラップに捕まったのか?」
「――! せ、鮮血の傭兵団……」
傭兵団の幹部が転移させられてきた冒険者に問いただすと、いきなり声をかけられた冒険者は、自分たちの身に起こった混乱も然る事乍ら相手が相手なので二の句を告げられずにいた。
「さっさと、答えろ」
「っ! お、俺たちが11階層を探索していたとき、いきなり魔法陣が現れたから、トラップだと思って必死に逃れようとしたが、魔法陣が全然離れなくてついてきて光ったと思ったらここにいたんだ」
「……」
「どうやら俺たちと同じようだな」
「こんなことは、今まで1度もなかった」
「やばいっしょ、アレ……」
傭兵団の幹部たちは、自分たちだけがトラップに引っ掛かったのなら、まだ無理やりにでも納得はできたが、他の場所である浅層でも同じ現象が起きており、未知の体験に驚いていると傭兵団の下っ端が驚くべきことを報告してきた。
「ほ、報告します! ダンジョン内への立ち入りが出来ません!」
「――!」
「どういうことだ?」
幹部たちが更なる情報に驚いていると、団長がその者に理由を問いただした。
「1階層出入口に見えない壁があり、転移魔法陣も作動しません!」
「間違いないのか?」
「はい! 数名で試したところ、全員が同じようになりました」
「……」
団長が下っ端の報告内容を聞いて考え込んでいると、今度は幹部の方から報告が上がる。
「団長、あのガキが見当たらないようですが……」
その言葉に団長は辺りを見回すが、報告にあったような子供の冒険者の姿はなく、一様に大人の冒険者の姿しかなかった。
「俺っちの予想では、今日は潜ってないんじゃね?」
「その可能性はあるか」
「どっちみちダンジョンが使えないんじゃ、あのガキも潜りようがねぇけど」
「団長、1度ギルドへ報告すべきでは?」
「……後のことは任せる」
「わかりました」
この日、鮮血の傭兵団によってダンジョン内の転移トラップと侵入不可になった現状が、ギルドへと報告された。
報告を受けたギルドは、利益の大半を担っているダンジョン産の素材が手に入らないとなれば非常に困るので、可及的速やかに調査団を結成して、ダンジョンへと向かわせるのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――マスタールーム
「よし、これで邪魔者はいなくなった。コア、始めてくれ」
〈了解。魔力の供給をお願いします〉
「わかった。どのくらい渡せばいい?」
〈必要量を満たしたら、お知らせします〉
ケビンはコアにありったけの魔力を流すと、マナポーションを飲み干して、また魔力を流すといった作業を5回ほど繰り返すと、ようやくコアから充分だと知らされた。
「……ップ! 苦しい……腹がタプタプだ……」
コアがダンジョンの構造変更を行っている間、ケビンは地べたで大の字になって寝転がり、ポーションまみれの胃と格闘していた。
「ケビン君、大丈夫なの?」
「5本飲み……」
「ケビン様、私の体をお使いください」
これ幸いとすかさず動いたルルは、ケビンの頭側へ移動してアヒル座りをすると、自身の腿の上へとケビンの頭を誘導した。
「……コレいいかも……」
「お気に召して頂けたなら幸いです」
それを見たティナたちは出遅れたことを悔やみながらも、ルルの行動の素早さに戦慄を覚えるのであった。
「ルルって意外とやるわね」
「侮り難し……」
しばらくケビンが横になってくつろいでいると、コアからの報告が上がった。
〈マスター、完了しました〉
「わかった。宝箱の中身はコアが作るのか?」
〈作ることは可能ですが、価値によって消費する魔力が変わります〉
「そこら辺は【創造】と一緒か」
それからケビンは、ティナたちと話し合いながら、あれこれとダンジョンの細部を決めていった。
最終的に妥協しつつ決まった内容は、以下の通りである。
~ ウシュウキュ都市内ダンジョンのしおり ~
・10階層ごとで1エリアとする
・転移魔法陣は、5階層ごとに設置
・1フロアの宝箱、罠は毎日ランダム配置
・各階層にセーフティゾーンを1つ設置
・5階層のボスは、エリア最終ボスの前哨戦
・エリア最終ボスは、前哨戦の上位種
・上位種が存在しない場合は、亜種(改造)を用意
・エリア最終ボスは、確率でレアボスが出現
・レアボスは、確率でレア品をドロップする
「こんなもんかな?」
「何か思いついたら、その都度変更すればいいよ」
「それもそうだね」
「ケビン様、冒険者たちが攻略済みだった、今までの転移階層の記録はどうされるのですか? このままだと、いきなり深層からスタートされます」
「あ、忘れてた。コア、冒険者が今まで攻略した階層に転移出来ないように転移魔法陣を書き換えれる? 全員が1階層からスタートするように」
〈可能なので実行します〉
「何だかもったいないね」
「別にいいよ。もう1回攻略する楽しみが出来たと思えば」
「それもそうね」
「それに、都市外にもダンジョンがあるんだし、あっちでも2回楽しめるよ?」
「2度おいしい……」
「もう1つもケビン様の物にしましょう」
その日、人知れずダンジョンの改造を終えたケビンたちは、夢見亭の部屋へと戻ってのんびりと過ごすのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――ギルド・ウシュウキュ支部
「ダンジョンの使用が可能になりました!」
ギルド内にいきなり現れてそう叫んだのは調査団の1人であった。その報告を聞き、ギルド職員はおろか冒険者たちも喜びで声を上げた。
「よっしゃぁぁぁぁっ!」
だが、しばらくすると驚きの情報を持って、冒険者たちが帰ってくる。今まで使えていた転移魔法陣が、攻略の済んだ階層まで転移しないというものだった。
その時の報告で、攻略経験のある冒険者たち全員が誰も転移できないことが判明して、より一層、ギルドや冒険者たちは混乱の渦に巻き込まれていくことになるのだった。
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