第128話 孔明の罠!? からの……

 その後も他愛ない話を続けていたら、交代の時間がやってきて、ガルフさんたちを起こした。


 ガルフさんに何も問題がないことと、今のところ近くに魔物は探知出来ないことを伝えると、見張りを交代してテントに入った。


 テントの中はやはり広くて快適に過ごせそうだと思ったが、ニーナさんがいるのでどうしても落ち着かなくなる。


「やっぱり4人用だと広いわね」


「狭苦しくなくていい」


「そこはこれを選んだニーナに感謝ね」


「ケンと一緒に寝たかった」


「やっぱりね。宿屋だと私と一緒の部屋だったしね」


「ティナはずるい」


「次、宿屋に泊まる時は、3人部屋にすればいいじゃない」


 その会話を聞いて、今後はずっと3人で寝ることになるのかと思うと、ケンは先行き不安になるのであった。


 2人が会話を楽しんでいる間に、防具を外しラフな格好になった。今日は剣も使ってないし、手入れは不要だろう。


「ケン君、こっち来て」


「何ですか?」


「防具外すの手伝って」


 そんなハニートラップには、引っかかるまいとケンは言葉を返した。


「いつも1人でやってるでしょ。騙されませんよ」


「けちー」


「私も手伝って」


「いやいや、ニーナさんは脱ぐだけでしょ。そもそも防具を付けてないんだから」


 ティナさんに釣られてか、ニーナさんが暴走し始めていた。そんな事を思っていたら、少し移動したティナさんが、いつも通り目の前で着替え出した。


 慌てて後ろを振り向くが、振り向いた先にはニーナさんが着替えていた。絶体絶命のピンチだ。


 ティナさんはわかっててやっているので問題ないが、ニーナさんには素直に怒られようと覚悟を決めたら、思いもよらぬ出来事が起きた。


 ニーナさんがこともあろうか、服を脱いだままの裸の状態で抱きついてきたのだ。


「ちょ――!」


「気持ちいい?」


 何が起こっているのか、頭が混乱し過ぎてパニック状態だ。そんな状態の俺に追い討ちをかけるように、後ろから更に抱きつかれた。


「ケン君、気持ちいい? 今日は初日を頑張ったご褒美だよ」


「ん。ご褒美」


 いったいいつの間に話を示し合わせたのか謎だが、もしやティナさんが少し移動して着替えだしたのは、振り返った先にニーナさんが来るように誘導した……? これが孔明の罠か!


 巧妙な罠にハマってしまった俺は、この2人に対して、抵抗など無意味なのだと思い知らされた。


「いつ話し合ったんですか?」


 その質問には、後ろから抱きついているティナさんが答えた。


「薪を拾いに行った時よ。ちょうど2人っきりだったしね」


 すると目の前のニーナさんも答える。


「恥ずかしかったけど勇気出した」


 顔を覗きこむと、頬が赤らんでるようであった。


「実はね、ケン君がおっぱい大好きなのは、ニーナも知ってるのよ」


「ティナさんがバラしたんですか?」


「違う。最初から知っていた」


「最初から?」


「視線がティナの胸を追っていた」


(Nooooh!)


 何故だ! 再び黒歴史を作ることになってしまったのか! ティナさんに言われた時もショックだったが、まだ明るく陽気に振る舞ってくる分、救いがあった……


 しかし、いつも大人しいニーナさんに言われると、堪えるものがある上に、心にグサッとくる。


 抑揚のない声で言葉数が少ない分、余計にダメージが入るのだ。一部界隈では「ご褒美です!」とか言われそうだ。


「お恥ずかしいかぎりです」


 とりあえず否定せずに肯定しておこう。もう、これしか思いつかない……


「別にいい。ケンのこと好きだから、問題ない」


「そうよ。ケン君だから抱きついたり、見せつけたりするのよ」


「何故なんでしょう?」


「私たちはケン君のことが好きだからよ。それに、慌てる姿が可愛いからね。ケン君はすぐ顔に出るから」


 何っ!? ポーカーフェイスが出来ていないのか!? 自分では冷静に対処出来ていると思ったのに……


 これが世間一般で言う、手のひらで転がされる感覚か!


「さ、今日はゆっくり3人で寝ましょ。もちろんケン君は真ん中ね」


「あの……拒否権は……?」


「ケン君は、私たちと寝るのが嫌なの?」


「いえ、そういうわけでは……」


「なら問題ないわね。今日はニーナの方を向いて寝てね」


 それからティナさんは、テキパキと毛布を出しては、寝床の準備をせっせとしている。


 その間、俺はニーナさんに抱きつかれたままだ。向き合っている分、かなり恥ずかしいのだが。


「できたわ」


 俺は、ニーナさんに手を引かれて寝床に入った。ニーナさんの方を向くのは恥ずかし過ぎるので、天井を眺めることにする。


 野営用といっても、そこまで毛布の質は悪くないようだ。適度にフワフワしてて気持ちいい。


「あの……2人ともいい加減、服を着ないんですか?」


「さっきも言ったでしょ? ご褒美よ。ケン君も柔らかい肌触りの方がいいでしょ?」


 その柔らかい感触を腕に感じて、落ち着かないから言ったのですが……


「いや、明日の朝、起こされる時に見られますよ?」


「それなら大丈夫よ。男性冒険者は絶対に、女性冒険者のテントには立ち入らないから。暗黙のルールね。決まりを破った冒険者は、社会的に抹殺されるわ。それにテントの外から声をかけられるから平気よ」


 社会的に抹殺!? 何それ、怖い……


「耐えれそうにないのですが……」


「触りたくなったら触っていいわよ? 生ではまだ触ったことないでしょ?」


「我慢しているのに、誘惑しないで下さい」


「我慢しなくてもいいのに」


 この流れはよくない。絶対にティナさんが仕掛けてくるパターンだ。ニーナさんは静かだけど、もう寝たんだろうか? 俺もニーナさんに倣って寝るとしよう。


「それでは、おやすみなさい」


「おやすみ、ケン君」


「おやすみ、ケン」


 あ、ニーナさん起きてたんだ。静かだからてっきり寝てると思ってた。恥ずかしいって言ってたし、照れて喋れなくなったんだろう。


 ……うん、予想通りティナさんが、イタズラを仕掛けてきたな……



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 それからしばらく乳くりあって会話を楽しんだあとは、明日に備えて寝ることになった。


「ケン君、おやすみのキスして?」


 キスをねだるティナさんに、右手をニーナさんから抜き、体勢を変えてティナさんに覆い被さると、顔を近づけて優しく口づけする。


「……」


 唇を離すと、はにかんだ顔のティナさんに言葉をかける。


「おやすみなさい、ティナさん」


 ティナさんにして、ニーナさんにしないわけにもいかず、今度は左手をティナさんから抜き、ニーナさんに覆い被さる。


 ニーナさんは、どこか期待した目をしていたので、ちょっとからかいたくなった。


「ニーナさん、おやすみなさい」


 そのまま、何事もなかったかのように戻ろうとすると、ニーナさんの瞳が潤みだした。


「どうしたんですか?」


「ケンがいじわるする」


「俺は何もしていませんよ?」


「何もしないのがいじわる」


「何かして欲しいんですか?」


 うるうるした瞳でこちらを見つめながら、ニーナさんが答えた。


「……キス……」


「やっぱり可愛いですね、ニーナさんは」


 そのまま顔を近づけて、優しく唇を重ねる。


「……」


 唇を離して様子を窺うと、ニーナさんの瞳から雫がこぼれた。それを指で拭い、優しく問いかけた。


「どうしたんですか?」


「……嬉しい」


「ニーナさんとは初めてのキスですしね。俺も嬉しいです。いじわるしたお詫びにもう1度しますね」


 再び顔を近づけると、少し長めに口づけした。少し目を開けてみると、ニーナさんの瞳からは、ポロポロと涙がこぼれていた。


「……」


 顔を離したあとは、涙で濡れた目元を拭って、ニーナさんの顔を見つめながら声をかけた。


「泣かないでください。可愛い顔が台無しですよ?」


「……ケン、大好き!」


 不意にガバッと抱きつかれて、むにゅっとした感触を感じてしまい、ドキドキしてしまったことは内緒である。


「ケンくーん、ニーナだけずるい。私にも、もう1回して欲しい」


「わかりましたよ」


 それから、ティナさんにもう1度キスをしてから、2人は眠りについた。2人は腕枕より腕抱き枕を選んだみたいで、腕に感じる柔らかな感触が心地よく、中々寝付けなくて苦労した。


 こんなことなら袖なしではなく、袖ありの部屋着にすればよかった。


 悶々とした中、俺はようやく眠りについたのだった……

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