第64話 闘技大会 ~代表戦~ おまけ①

 あれからケビンたちはカフェテリアに向かい、デザートをテラス席にて堪能していた。


「やっぱりスイーツは美味しいね」


「人の金で食えばさぞかし美味しいだろうな」


「心の狭い男の子は嫌われるよ」


「別に構わん。貢ぐ貢がないで価値を見い出す女なんか、こっちから願い下げだ」


「私はそんなことしないよ?」


「そりゃどーも」


 何気ない会話で暇を潰していると、代表選手だった生徒たちがやって来ていた。あいつらも打ち上げか何かか?


「あっ! サイモン君たちだね。やっぱり疲れた時はスイーツなんだよ」


「どうでもいいけどな」


 どうやらテラスには来ず、室内で寛ぐみたいだ。


「そう言えば、来年にはEクラスだね」


「そうだな。筆記の点数が足を引っ張って1人だけでFクラスに残らないようにな」


「ん? ケビン君知らないの?」


「何をだ?」


「闘技大会でクラスが上がった時は1年間固定なんだよ。だから筆記が悪くても問題なく上がれるんだよ」


「何だかお前に都合のいいシステムだな」


「逆に変動のなかったクラスは、その限りじゃないよ」


「つまり今のEクラスは1年間Fクラス固定ってことか。可哀想なこった。他のクラスに至っては試験次第で個人単位でのクラス変動があるわけか」


「そうなるね。固定になったら試験でいい点取っても意味ないからね。気楽に受けれるわけさ」


「成績不良者が胸張って言う言葉かよ」


「来年から本気出す!」


「その決意が無駄にならなきゃいいな」


 適度に会話を楽しみながら時間が過ぎていき、ぼちぼち帰るかとケビンは思ってカトレアへ声をかける。


「もう俺は帰るからな」


「もう帰るの? まだ昼過ぎだよ。もっと一緒にいようよ」


「することないだろ。それにここの支払いは俺なんだ。時間を掛ければ掛けるほど出費が嵩む。働いてない分お小遣いでやりくりしてんだよ」


「それはわかるけど。小さいことを気にしてたらいい男になれないよ」


「なれなくとも問題ない。というわけで、じゃーな」


 そう言ってケビンは席を離れて、帰り際にカウンターに寄って支払いを済ませた。


 翌日からの代表戦はFクラスが勝てるわけもなく負けていった。当然俺も場外負けという簡単な方法で負けた。避けた弾みで場外に落ちるという在り来りな戦法だ。


 結果、総員戦と代表戦をEクラスに勝ち越したため、来年からはFクラスがEクラスとなる。Eクラスはその逆だ。


 昇格できたことをジュディさんは生徒よりも喜んでいたが、担任の内申にもいい影響が出たのだろう。


 こうやって秋の一大イベントが幕を下ろしたのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ところ変わって、学院部では。


「クリス! 今年の闘技大会観た?」


「観たわよ。学院部にもなると闘技大会はないしね。暇な時の余興として授業がない時は観戦したわ。相変わらずSクラスがダントツだったみたいだけどね。毎年同じだと面白くないわね」


「それが、今年は違うのよ!」


「何が違うのよ? Sクラスが勝ってたじゃない」


「Sクラスの話じゃないわ。Fクラスの話よ!」


 興奮しながら話している友人に、クリスは若干引きつつあった。


「Fなんて万年ビリなんだからどうでもいいわよ。気にも止めてないわ」


「それで、みんなが後悔してるのよ! 見ていれば良かったって!」


「善戦でもしたわけ? どっちみち勝ったのはEクラスでしょ?」


「それが今年は総員戦も代表戦も勝ったのはFクラスなのよ! 前代未聞よ、大ニュースなのよ!」


 クリスはその言葉に耳を疑った。万年ビリのFクラスがEクラスに2種戦とも勝ったというのだ。


「落ち着きなさいよ。デマ情報じゃないの?」


「デマなんかじゃないわよ! 記録したのがあるから、観れば私が嘘を言ってないことくらいわかるわ」


 そう言って友人が魔導具を取り出す。記録用魔導具なんて高価な物を買うくらい、友人は闘技大会の熱烈なファンだった。


 記録映像を観ながらカッコイイ人を捜すのが趣味なんだそうだ。自分には理解できない趣味だった。


 しかし、映像を見終わったクリスが、友人の趣味のおかげで貴重な情報を得られるとは今はまだ知らない。


「とりあえず総員戦から観るわよ」


「お好きにどーぞ」


 魔導具のモニターではFクラス対Eクラスの試合の様子が流れ出す。


「やっぱりFクラスはボコボコにやられてるじゃない。いつも通りね」


「見て欲しいのはそこじゃないわ。これからよ、ありえないできことが起こるのは!」


 それから攻撃に回っていたFクラスの1部の生徒がやられていつも通りの展開に辟易してると、とうとうEクラスの攻撃隊が相手陣地の所までやってきた。そこで変化が起こったのだった。


 Eクラス相手にFクラスが魔法の撃ち合いで奮闘していたのだ。しかも精度においてはEクラスよりも上であった。


「たまたま魔法が得意な生徒たちを守備に回してたんでしょ? 目新しいことでもないわ」


「まぁ、黙って見てなって」


 そう言う友人を一瞥して再びモニターに目を移すと、Eクラスが特攻を仕掛けていた。次に映ったのはここぞとばかりに魔法を撃ちまくっているFクラスだった。


 精度がいいためにEクラスの生徒は避けるのに必死だった。そして数を減らしていく一方で、Fクラスが近接戦に移るのだった。


 それからはFクラスの一方的な展開で、Eクラスの1部隊は負けてしまったのだった。


「何これ……何でFクラスがEクラスに勝ってるのよ? 1部隊と言えども相手はEクラスなのよ?」


「ね、言った通りでしょ? しかもこれで終わりじゃないのよ」


 次に映ったのは敵を森まで運び出すFクラスの姿だった。一体なんのためにやってるのかこの時は皆目見当もつかないのだったのだが、それも直ぐに理解することとなった。


 次に現れたEクラスの生徒は前の生徒たちと同様に侮っているようだった。突撃をして来るEクラス相手にFクラスは魔法を撃ちまくっている。


 当然精度の高い魔法が飛んでくるのだ、数が減るのは当たり前だった。数人が残ったところで1人の少女が戦場に乱入した。


 瞬く間に2人を倒してしまい焦ったEクラスが散開した。それにより各個撃破されてしまったのだ。


「あの少女が番狂わせの原因ってわけ?」


「それもあるわね」


?」


「まぁ、まだ見所はあるから続きを見ましょ」


 友人がまだ見所はあるとのことでモニターに視線を移すが、Fクラスの次の行動は生徒が倒した敵にトドメを刺しているところだった。


 容赦ないことをするものだとこの時は思ったが、そのあと生徒たちがトドメを刺した相手のそばに寝そべり始めたのだ。


「パッと見だと倒された生徒にしか思えないよね。この作戦を考えた子は凄いわ」


 確かに知らない者からすれば倒された生徒にしか見えない。トドメを刺していたことにも意味があったのだ。


 誰も元気が残ってるかもしれない敵の傍らに、無防備に寝そべりたくはないだろう。


 それからEクラスの守備に回っていた残りのメンバー総掛かりでFクラスを討ちに行ったが、結果から言えば見事に負けていた。


「ね、凄いでしょ? 何が凄いって守ってるだけで全滅戦をしてのけたところよ。しかも格上相手に。これで私が言ってたことが嘘じゃないってわかったでしょ?」


 友人の言う通りで前代未聞であった。格上相手に全滅戦をしてのけたのだ。あの万年ビリのFクラスが。


「さて、代表戦も記録してるんだけど見る?」


 ニヤニヤとこちらの様子を窺いながら尋ねてくる姿には、多少イラッとするものがあったが好奇心には勝てなかった。


「《》の理由が分かるのでしょ? 見せてもらうわ」


「正直にって言いなさいよ。強がっちゃって」


「いいから見せなさいよ」


「はいはい、わかったわよ」

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