第50話 半年後②

 のんびり過ごしているとちょっとした休憩が終わり、ジュディさんが教室に戻ってきた。


「それでは総員戦の説明を行います。フィールドは王都外にある野戦場を使うというのは先程言いましたね。野戦場は2種類あってその内森になっている方を使います。もう1つは平原だけど闘技大会では戦いにならないから使われてません」


 平原だと魔法打ち放題だしな。搦手ができない以上魔力量の多い方が勝つし、その分森ステージなら格下でも格上相手に奮闘できるというところか。


「それと野戦場には特殊な結界が張られていて、魔物が近寄れないようになっています。この結界には生徒たちの保護機能も備わっています。戦いになっても擦り傷程度でそれ以上の怪我などは一切しません。専用の武器を使い攻撃すると対象は大怪我をするのではなく体力を奪われます。ちなみに体力が尽きると動けなくなる仕組みです。魔法も一緒で当たると体力を奪われます。ですので思う存分戦えるようになっています」


 すごい結界だな、怪我判定を体力で支払うのか。だから実技はいつも走りこみから始まるのか。体力を使いながら戦い、怪我をすれば体力を奪われる。健康第一ならぬ体力第一だな。


「勝利判定は全員戦闘不能か敵陣の旗を壊すことです。全員戦闘不能は現実的ではないので、旗を如何に壊すかがポイントになってきます。倒したら勝ちではないのは、昔、遠距離からの爆風で倒れてしまって、さほど戦わずに勝敗がついてしまったからです。以降“倒したら勝ち”は“壊したら勝ち”という風に変わりました」


 昔は棒倒しみたいなものだったのか。まぁ、魔法があれば棒倒しなんか楽勝だしな。爆風を利用するという案を考え出したやつは策士だな。


「どういう風に戦うかは生徒みんなで案を出してくださいね。意見は代表戦に選ばれた人が纏めるのが適任でしょう。ではサイモン君お願いしますね」


 ジュディさんから指名されたサイモンは教壇前に立つと、頭を掻きながら喋り出す。


「俺は体を使う方が得意で頭を使うのはからっきしだ。作戦なんて思いつかないからみんなの意見を聞きたい。どうしたらいいと思う?」


 そこで代表戦に選ばれていたマイクが喋り出す。


「幾つかのグループに分けて、それぞれに役割を決めたらどうかな?」


「グループに分けるとして、何グループに分けてどういう役割にするんだ?」


「斥候と攻撃と遊撃と守備の4グループでいいんじゃないかな?」


「じゃあそうするか。反対のやつはいるか?」


 特に反対意見は出ないようだ。基本的なグループ分けだし、役割も問題ないと生徒たちも感じたんだろう。


「じゃあ、あとは作戦をどうするかだな。何かいい案はないか?」


 そこで喋り出したのはこれまた代表戦に選ばれたマルシアだった。


「初めての野戦なんだし斥候を少し多めで、その分遊撃を少なめにしたらどうかしら? 森林フィールドで遊撃が上手く動き回れるとは思えないわ。少数精鋭でいいと思うのだけれど、どうかしら?」


「確かに森林フィールドでは上手く連携をできそうにないしな。それでいくか」


「あと、斥候を潰されたら情報が得られなくなってしまうから、動き回れる体力がある人の方がいいわね」


「攻撃と守備は簡単だな。攻撃の得意なやつと守備の得意なやつに分かれたらいいだけだ」


 さっきから発言しているのが3人に固定されているな。もうこいつらだけで話し合えばいいんじゃないか?


「1つ付け加えたいんだけど、遊撃隊をさらに分けてその中に斥候を混ぜるのはどうかな? そしたら斥候が潰されにくいと思うんだけど」


「確かにそうだな。とりあえず斥候と遊撃が散らばり、攻撃は情報を得つつ進軍って感じでいいか? 守備は旗の防衛だな」


「問題ないと思うよ」


「私もそれでいいわ」


「よし、みんなもそれでいいか? 何か意見があったら遠慮なく言ってくれよ」


 サイモンは教室を見渡しながら伝えるが、特に意見は出なかった。


「じゃあ、次はどの部隊に配属するかだが……みんなはそれぞれ得意なやつで分かれてくれ。分かれ終わったら人数調整をするから」


 その号令とともにそれぞれのグループへと分かれていく。もちろん俺は守備を選ぶ。旗を守っていれば動かなくていいし……


 俺が守備を選ぶと、何故かカトレアもついて来た。


「お前の能力なら攻撃か遊撃だろ。何故こっちに来る?」


「だって話せる相手がケビン君だけだし」


「他の生徒とも話していることがあっただろ」


「あれは話してないよ。答えただけ」


「どんだけ拗らせてんだよ」


「いやぁ、私って人見知りだし? 初対面の人とは上手く話せないし?」


「半年も経ってんだから初対面じゃないだろ。むしろ俺には初対面の時に話しかけてきたよな?」


「あれは隣の席だから……それくらいはしておこうと思っただけだよ。そしたら思いの外面白い人だったから平気だったんだよ」


「あれの何処に面白要素があった? 挨拶しただけだろ」


人に初めて会ったよ」


「何だよそれ?」


「『なっ!?』って驚いて、聞き返すと“な”で始まる言葉で返してくる人だよ」


「なっ!?」


 そんなことしたか俺? 全然覚えがないぞ。


「な?」


「な、何でもない」


「ほらね? ななな人でしょ?」


 くっ……なんかこいつにいいようにされると腹が立つ。ここは我慢だ。ここで言い返せばまた何か言ってくるに違いない。


「よーし、みんな分かれたようだな。あらかたいい感じの人数には分かれたようだからこれでグループ分けは終わりだ。あとはグループごとにどう連携を取るか考えてくれ」


 そう言うとサイモンは教壇の前から攻撃隊の方へと向かった。あとは各隊ごとの連携というわけか。


 守備隊の方は誰が指揮を取ってくれるのだろうか? いささか黙り過ぎではないか? 誰でもいいから話を進めて欲しいものだな。


 そんな様子を見ていたのかジュディさんがこちらへやってくる。


「守備隊はリーダーが決まらないの? ほかのグループは話を進めているわよ」


 何たる団結力。守備隊にはない光景だ。早く誰かなってくれ、さっさとダラダラしたいんだよ。


「ここまで何も反応がないと先行き不安ね。じゃあ……ケビン君、あなたが守備隊のリーダーね。代表戦にも選ばれてるし、皆を纏めあげてね」


 おい、待て。何サラリと厄介事を押しつけてるんだ。職権乱用だろ。


「それは、納得致しかねます」


 ちょっとイラッとしたので軽く威圧を込めて返答する。


「うっ……でも、そうしないと話は先に進まないし、ケビン君の好きなダラダラができないわよ?」


 そうきたか……確かにダラダラはしたいが、面倒なリーダーなんてやってられない。


「ねぇねぇ、話を進めるだけ進めたあとでリーダーを別に決めれば?」


「それで決まらなかったら結局俺がリーダーをする羽目になるだろ。というかカトレア、お前がやれ。代表戦に選ばれてるだろ」


「嫌だよ。人と話せないし。でもこのままだと先生の言ったようにダラダラする時間がなくなるよ。決まらなかったら居残りになるかもしれないし」


「居残りは断固拒否する! 仕方がないから守備隊の方針を決めるぞ。《敵を見つけたら迎え撃て!》以上だ。解散」


「説明はないの?」


「今のに説明が必要か? 敵を見つけたら倒すだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。簡単だろ? とにかく話は終わりだ。嫌ならお前らでリーダーを決めて話し合え」


「もう、ケビン君雑だよ。先生もなんとか言って下さいよ。詳しいことが決まってないですよ」


「先生には無理かなぁ、妙に的を射た指示で否定しようがないし、まだ彼氏もできたことない上に結婚したいから生きていたいし、ははは……」


「意味わかんないよ」


 守備隊はリーダーを決めるのが1番遅く、方針を決めるのは1番早かった。それから守備隊はそそくさと分かれては、皆思い思いに残り時間を過ごすのだった。

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