第10話 忘れ去られたテンプレ
ケビンが子供っぽくオネダリしてみたら、サラに対してそれは効果覿面だったようだ。
「しょうがないなぁ、ケビンには特別に見せてあげよう。みんなには秘密だぞ」
案の定ノリノリだな。母さんってたまに口調が砕けて子供っぽいノリになるけど、こっちが素なのか?
「ステータス オープン!」
母さんの目の前に半透明のウインドウが現れる。
「!!」
そうだ、忘れてた! ラノベだと定番のテンプレワードじゃないか!
やってしまった……この3年間、無意に過ごしたかもしれない……自分のステータス確認とか初期にやることだった。
「驚いた? 驚いたよねー? お母さん凄いでしょ?」
母さんごめん。確かに……確かに驚きはしたけど、それは自分の馬鹿さ加減にです。大事なことを忘れているとはありえないです。あぁ、穴があったら入りたい。
でも、俺が転生者なのは誰も知らないからセーフか? テンプレを忘れていたなんて恥ずかしいことは言わなきゃ誰にもバレないだろ。むしろ知り合いなんていないし、この世界にテンプレなんて言葉はないだろうし。
「さぁ、一緒にステータスを見ましょうね」
そう言いつつ母さんが俺を抱き上げると膝の上に乗せた。母さんの見事な双丘がちょうど頭の後ろにきていいクッションになる。
表示されてるステータスにとりあえず目を通してみるか……
サラ・カロトバウン
女性 ??歳 種族:人間
職業:Aランク冒険者
カロトバウン男爵家夫人、主婦
Lv.75
HP:910
MP:425
筋力:825
耐久:790
魔力:345
精神:310
敏捷:850
スキル
【身体強化 Lv.9】【剣術 Lv.4】
【細剣術 Lv.9】【盾術 Lv.4】
【気配探知 Lv.7】【気配隠蔽 Lv.7】
【魔力探知 Lv.6】【魔力操作 Lv.6】
【礼儀作法 Lv.6】【家事 Lv.6】
【子育て Lv.6】【猫かぶり Lv.10】
加護
剣術神の加護
猫神の加護
ん……? ちょっと待ってみようか。色々とツッコミどころ満載なんだが。まず、なんで年齢が“??”なんだ? 女性に年齢の話をするのは禁句だとわかっているが、そのせいか? 聞くなってことか?
いや、男は度胸だ! 子供だから知らなかったで許容してもらえるだろう。いざ行かん、死地へ!
「母さん、年齢が“??”になってるけど……何で?」
その瞬間、絶対零度たる空気が辺りを包んだかのように思えた。それは一瞬のことであったが、確かに感じ取ることができた。
俺、早くも死んだか?
「……ケビン? お母さんの年齢が知りたいの?」
ガクガクブルブル……
今の心境はまさにこんな感じだった。だが、ここまできて引くわけにはいかない。死地へ赴くと決めたのだ! 俺は勇気を振り絞って答えてみた。
「ダメなの?」
「ケビンはまだ子供だから知らないのよね。いい機会だから教えてあげるわ。大人の女性に対して年齢を聞いてはいけないのよ? これは紳士の嗜みなんだから」
「もし、うっかり聞いちゃったらどうなるの?」
「その時は子供だったら許されるけど、大人だったら死を覚悟するしかないわね」
マジで!? 死ぬほどのことなの? 年齢を聞くのに命をかけなきゃいけないの? 死にたくないし、今後は気をつけるようにしよう……
「わかった。立派な紳士になれるように頑張るよ」
「さすがはケビンね。偉いわ。スキルについてはわかる?」
今サラッと話題を逸らしたな。結局何歳なのかは答えてないし……蒸し返したら絶対零度を浴びなきゃならないので、このまま話に乗っかるとしよう。
それにスキルにもツッコミどころはある。こっちは年齢が関係してないから答えてくれるだろう。
「ある程度は分かるよ。【猫かぶり】って何?」
俺の予想が正しければあのことだろうが、あえて答えてくれるか聞いてみよう。
「それはね、大人しい人につくスキルなのよ」
端折ったな、母さん。本来は本性を隠して大人しくしている人のことだろう? つまり、この話題も触れてはいけないということか。タブーが多いな母さん。
それにしても子供っぽい対応の時に、俺以外の人がくるといきなり淑女になるのはこのスキルのおかげか。
「レベルって10が1番上なの?」
「そうよ。お母さんは大人しいからレベルが10まで上がったの」
どうやら大人しい人用のスキルで通す気らしい……しかも、レベルMAXとは恐れ入る。
「【猫かぶり】があるから加護に《猫神の加護》がついてるの?」
「ケビンは頭がいいわねぇ。その通りよ。【猫かぶり】を続けていたらいつの間にか加護がついていたのよ」
「じゃあ、母さんはその道を頑張っていたんだね。凄いし、尊敬するよ」
本当に凄いよ。猫かぶりを極めるとは……しかも、加護つきだし……
「ケビンに褒めてもらえてお母さん嬉しいわ。でも、【猫かぶり】と《猫神の加護》のことは他の人に言ってはダメよ?」
「何で? 母さんの頑張った証なのに教えちゃダメなの? みんな褒めてくれるよ」
ぶっちゃけ褒めてくれる人はいないだろうが……
「世の中にはね、ケビンみたいにいい子ばかりじゃないの。スキルのレベルが高いと妬みや僻みで嫌なことをしてくる人もいるのよ。お母さんが虐められるのは嫌でしょう?」
そう来たか……あえて本題には触れずに在り来りな話でもって、本命には近づけさせない巧みな話術だ。この言い方なら【猫かぶり】云々よりも、スキルのことは他人に話しちゃダメとなる。
「あら? 新しいスキルがついたわ。このことも秘密よ?」
ウインドウに目を向けると、確かに新しいスキルを覚えていた。
【話術 Lv.2】
これって今までの話しが原因だよな? しかも、いきなりLv.2からって……
「母さん、凄いよ! 新しいスキルだよ。それに母さんが虐められないように僕が守るよ!」
「ありがとう、ケビン。お礼にギュッてしてあげるわ」
ギュッてされると、俺の頭は双丘に埋もれるんだが。
あぁ、柔らかいな……ここは天国か……?
(ふふっ、ケビンは抱き心地がいいわ。本当ならもっと色々な項目があって
隠しているけど、それは大人になってから教えようかしら。ケビンから怖いお母さんだなんて思われたくないし)
サラが任意に項目を隠してステータスを表示させていたことなど、今日初めてステータスを見たケビンが知るはずもなく、ありのままのステータスを信じきっていたのはひとえに母親への信頼の証だろう。
そして、サラのステータスが隠されたものだったと知るのは、ケビンにはまだ遠い先の未来のことであった。
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