天才、異世界にて。
いある
第1話 自他ともに認める天才
天才。その言葉の意味するところは天性の才能である。生まれつき、何かに特化しており、その道を究めることにおいてアドバンテージがあるという意味。俺の場合ならそれは何かではなくすべてであるが。
運動においても、勉強においても俺は天才である。それはもはや疑いようの無いことだ。スポーツでも数々の記録を樹立し、強化選手としてお声がけがある事も少なくない。野球をさせれば打率は6割を超えるしサッカーなら疲れ知らずのストライカー。テニスなら意表を突いた精密な動作で勝利をもぎ取ってきた。結果としてその三種目の大会の優勝メンバーの中にはすべて俺の名前が刻まれている。
あまりにも強すぎて文句を言われることすらあるが、そんなものは結局実力の無いものたちの戯言だ。そして文句を言う奴ほど努力していない。俺も努力していないが、それでも自分ができないことの八つ当たりをされるほど俺は安くない。
勉強だってもちろん一流だ。海外留学はもちろんのこと、海外の大学に進学することも既に決定している。海外は飛び級制度だってある。今の俺ならその大学を卒業した卒業生より優秀な脳を持っているからして、これはもはや当然だと言えよう。
校内ランキングどころか全国模試ですら一位を逃さない。いても同率だ。
眉目秀麗…とは残念ながらいかないが、そこそこ整った顔立ちに加えてぴちぴちのお肌なのでそういった方面でも相手には事欠かない。女性があまり得意ではないのでその手の話は全てお断りしているが。
そんなマルチな才能を兼ね備える俺は夕焼けに照らされながら見知った町並みを歩いていた。高級住宅地というわけでは無いが、俺はこういう暮らしのほうがいい。近所のおばちゃんも良くしてくれるし、ちびっ子も元気だしな。
「望月の欠けることなし…ねぇ。ここまで順風満帆な生活を送っていると逆に心配になってきちまうよな」
足元の小石を蹴りながら今自分の置かれている状況を第三者の目線から見てみる。
やはり、あまりにも完璧すぎる。どこかでこのツケを払わされることになるんじゃないか、そう思えてしまうくらいには完璧すぎている。
「はは、何考えてんだ俺、いいんだよ俺は完璧で。その分みんなの分頑張らなきゃだけど、力があるに越したことは無いってのに…。変なこと考えてねーでさっさと帰るか」
誰にともなく釈明した気分だった。自分という人間に言い聞かせるような言葉だった。自分は間違っていない。自分は間違えない。自分は間違えたくない。確信、自己肯定、不安。様々な感情をないまぜにしたような言葉だと我ながら思った。
努力という言葉を知らない。よって挫折を俺は知らない。
人という生き物は挫折というものから逃れられないらしい。そしてその挫折というものは時に生きる気力すら失ってしまうと聞く。毎日のように自殺者が出ているこの日本。その数は紛争地域の死者数に匹敵するという。それほどまでに挫折というものは恐ろしいらしい。らしい、と他人事になってしまうほどに俺はその挫折からは程遠い。このまま一生そんなものは味わいたくない。そう思った次の瞬間から俺の記憶はない。
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