第126話 フォレスト・ファンガス
それにしても、
いつもなら日が射していても、太陽を隠すように覆い繁る巨木が何処までも連なっているから薄暗いんだけどね。
こうして道なき道をぼんやりと照らしてくれている光景はどこか幻想的で綺麗だ。まるで妖精の国に迷い込んだかのように見える。現実がファンタジーしてるなぁ。
奥へ向かって進むほどに、みっちり茂った草や木々の隙間から様々な茸や薬草、香草や果実等が、無理に探そうとしなくても至るところから次々と見つかる。やっぱり魔素を含んだ雨が少し降るだけで、凄いことになるんだなぁと実感できる。
そして、この辺りまで来るともう、街道沿いから入り口付近まであれほどあった水白茸はほぼ消えているね。
あれは、明るい場所を好むから。その代わりに、今度は水光茸が溢れ返っているから茸まみれなのは一緒だけど……。
まあ、町から大分離れていて人の出入りも少ないからこの光景は予想通りかな。
いつもなら喜んで採取している素材が目移りするくらい、いっぱいあるけど、今日は場所的にも時期的にも、もっともっと珍しい薬草やマジックキノコが手に入りやすいはず。なので、採りたくてウズウズしてくるのを必死で我慢している。
豊富な森の恵みを横目に、ラグナードの先導で森の中奥辺りを目指して奥へと分け入っていく。
リノと二人だけでパーティーを組んでいた時には、危険過ぎてこんなところまで来るなんて考えられなかったよね。
個人の能力を補強してくれる武器や魔道具、ポーションなどの装備品もまだまだ整っていなかったって言うのもあるし。
でも一番の問題は、奥へ行けば行くほど魔素が濃くなって強い魔物が生息しているからなんだ。
高額買取になる素材の発見率が上昇するのは分かっていたけど、安全第一に命大事にと慎重に活動していたからさ。ラグナードがいなければ、今の装備でも向かうのを躊躇していたと思う。
パワーポーションの原料がある場所は彼が把握しているので、目的の場所まで少しでも歩きやすいところを探していく。
辛うじて細い獣道らしきものを見つけてはそこを通り、少しずつ近づいて行った。
何度か魔物にも遭遇したけど数もそこまで多くなかったし、出てくるのは強くてもホブゴブリンクラスだったので問題なかったかな。
……いやまあ、私とリノだけなら大有りだったけどね。彼がいてくれたからさ、瞬殺だったよ。手を出す隙もなかった。
でもね、命が懸かっているから仕方がないとはいえ、この状態って思いっきり寄生プレイ……だよね?
当初は、とりあえずトレント討伐が収束するまで仮でパーティーを組むという約束だった。
それを延長して、私達がボトルゴードの町周辺での活動に支障がないくらいにまでは面倒をみると言ってくれたんだ。
今は余計なことは気にせずに、俺を利用してでも強くなることだけを考えるんだと発破をかけられている。
長寿種族を狙った卑劣な人身売買は昔から続いていて中々無くならなくて危険なのに、幼くてか弱いエルフの子供(本人的には大人だと思っている)が人族の町で冒険者をしているので心配してくれているんだと思う。
――多分だけど、今回もシルエラさんに頼まれているはず。
人族の蛮行にすぐ対処するためにも、横の繋がりは密で強固だと言っていたし。
期待に答えられるよう、早く強くなりたい。
聞いてみたら、ラグナードも『マップ作成』スキルを持っていて、目的の延寿の樹がある場所はマッピング済みだった。迷わず無事にたどり着けたよ。
「おっ、ラッキーだな。
ラグナードが嬉しそうに言った。どうやら高額対象の茸を見つけたらしい。ほほう、早速お宝発見ですか!
「えっ、どこですか?」
「ほら、あそこだ。ちょっと遠いから分かりにくいと思うが、延寿の樹の根元をよく見て。茶色くて歪な円形のがあるだろ?」
言われた通りよく見てみると、確かにそこにある。落ち葉に似た保護色をしており、周囲に溶け込み上手く隠れていた。
「あっ、分かりました、あれですねっ。……もしかして、群生してたりしてます?」
「うん、正解。でもここにある分は……まだ殆ど採れないな」
「そうなの?」
どれどれ? 『鑑定』してみると……。
【
効能:免疫力強化作用 滋養強壮作用 鎮静作用
可食:生食不可
たっぷり含んだ白い汁を搾り取って加熱する
ほんのり甘めのミルクのような味わいで美味
鮮度が良いほど効能が高く、高値が付く
採取:薬樹の根元に出来るが、採取可能なのは魔物化したものだけ
攻撃手段は茸の中身である白い汁の噴射で、
皮膚に触れるとかぶれるので注意
魔物化した部分を切り取って採取する
適量の魔素があれば同じ場所に何回も生えてくる 】
「本当だ……薬用茸ってなってる。他のも鑑定したけど、同じのが多いなぁ。フォレスト・ファンガスになってるのは少ない」
「そうだな。魔物化したものが、フォレスト・ファンガスと呼ばれるようになる。そうしたヤツだけ、採取が可能になるんだ」
「珍しくて効能も高く、美味しい茸だって聞いていますけど。こんなにたくさんあるのに……残念ですね」
「でも少しはあるよ。ほら、あそこ。じっと動かないけど、まだ魔物化したばかりなのかなぁ?」
魔物だと、問答無用で襲いかかって来るもんね。
「成り立てってことですか……う~ん? 見ただけでは区別がつかないです……」
「まあ、魔物化したばかりのヤツには魔石も無いし、鑑定スキルがないと難しいかもな。雨の後だから容量を越えやすかったんだろうけど、魔力も微量だし感知しにくいんだろ」
魔素溜まりが多い森の奥ほど瘴気も濃くなり、魔の物が生まれやすい環境になっていくが、ここら辺でも魔素を多く含んだ雨上がり後だと、その身に取り込む量が増えて普通の植物や茸、野生動物等も魔物化しやすくなる。
魔物は主に魔素溜まりから発生するが、その他にもスライみたいに無性生殖で分裂し増えていくものもある。
こうして生み出されたものは、必ず体内に魔石があるんだけど、今回の乳茸のように魔素を多く取り込んで魔物化してしまったものには最初、魔石がない。なので、厳密に言うとこの状態はまだ魔物じゃないらしい……。
長い時間をかけて瘴気に変化した魔素に侵蝕され、徐々に魔物へと変幻していく過程で体内に魔石が形成されていくんだとか。
ちなみに魔物と呼ばれるものは全て、有性生殖では増えないみたい。なので、この世界では魔物と人類がどうにかなって繁殖するなんて事は、起こり得ないんだよね。
女子としてはとっても安心出来る情報でした。本当、そこは異世界王道テンプレじゃなくて良かったよ……。
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