101話

 崩れ消え去るドラゴンゾンビを背に俺は、小さな黄色い魔石を握りしめている。

 ユカリ達を見るとそこには傷ついていたフェルトが、合流し魔王ノライフと戦ってるペルセポネの光景を観て話し合っている。

 魔王ノライフは、髪を靡かせながら魔法を止まることなく放っている。

 しかし、その魔法もペルセポネが振るう二本の剣で時々破裂音が轟くが、切り落とされ相殺している。

 ユカリ達が、ゆっくりと魔王ノライフに気づかれないようにコベソ達のいる馬車へと向かい出す。

 フェルトと話し合っていた内容が、『一度コベソ達の所に戻り回復した方が良いわ。それにポーションも数多く使うかもしれない。彼らから頂いて魔王ノライフと交えた方が良いわ』三人とも納得し直ぐに行動に移している。


――――ブラウンドラゴン、いやドラゴンゾンビの魔石を手に入れた事でユカリ達の準備が整ったらペルセポネも直ぐに交代するだろう。


 剣を振るう腕が、いくつもの残像を生み出し魔王ノライフの放つ魔法を処理しているペルセポネも俺が、ドラゴンゾンビを倒した事を知ってか少しずつ間合いを広げている。

 そして、魔王ノライフも気付いていた。


「白服の女ァァッ。 どけぇぇぇっ。 我が可愛いドラゴンを、勇者達よ。 よくもォォォッ」

「ドラゴン倒したってぇっ」


 笑顔で叫ぶペルセポネは、剣を構え魔王ノライフの放った炎の球を跳ね返す。

 炎の玉の跳ね返りが速く魔王ノライフは、目を見開きギリギリで交わし、歯を噛み締めペルセポネを睨む。

 俺は、ペルセポネの元にゆっくりと歩いていくと、ペルセポネは笑顔で、俺が来るのを待っている。


「魔石取ってくれましたの?」

「あぁ、これだ」


 手を広げ受け取ろうとするペルセポネの手のひらに、俺は魔石を持っている手を差し出すが、その行動にペルセポネの顔が、少し曇る。


「片手……?」

「これが、ドラゴンゾンビの魔石だ」


 笑顔が可愛いペルセポネは、俺から魔石を受け取る。ペルセポネは、手のひらに転がる魔石に目を見開き、何度か瞬きをし再び魔石に驚愕し少しの間呆然としだす。

 黒いオーラを滾らせる魔王ノライフは、眉間に力を入れ険しい顔をし睨みながら、一歩一歩俺たちの所へ歩いてくる。


「お前らァァァッ」


 低く振動する声をだす魔王ノライフ。

 そこに、回復したユカリ達が、駆け寄ってくる。


「ハーデスさん、ペルセポネさん」

「私達が来たから安心」

「良いみんな。 気を引き締めてさっきの事を」

「むーっ、分かったぁっ」


 サムズアップするリフィーナに、皆に指示を出すフェルト、そして頷くユカリとミミン。

 黒いオーラを滾らせ怒りで顔が、紅潮している魔王ノライフを目の前にユカリ達は、身構える。

 俺とペルセポネは、ゆっくりと魔王ノライフとユカリ達から離れる。ペルセポネは、手のひらに転がる魔石から目を離さない。

 受け取ってからずっと固まったまま。


――――いや少しだけ痙攣?武者震い?しているな。

すると、ペルセポネの魔石を持つ手が、小刻みに震え魔石を握り締める。


「ちょっとぉっ!!」


 いきなりの怒号を飛ばすペルセポネは、物凄い剣幕で俺に詰めより、唾を飛沫させ顔を近付けながら、怒りをぶつけてくる。


「なんなのぉっ。 この魔石はっ」

「魔石は、魔石だろ」

「ま〜せぇっきっ、違うわ。 ドラゴンの魔石大きかったものっ。 体光るほど大きかったのにぃ、なんでこんなに小さいのっ」

「ドラゴンゾンビだからじゃないのか……」

「関係ないっ。 関係ないっ、関係ないぃぃぃっ!!」


 一瞬、ペルセポネと目が合う。すると再び止まるペルセポネの首が、ゆっくりと魔王ノライフへ傾く。


「アイツだ……。 アイツが、あのドラゴンをゾンビにしたから、こんなに小さくなった。全ての元凶はアイツ。 元々の原因――――」


 鬼の形相で魔王ノライフを睨みつけるペルセポネは、歯を食いしばり怒りを抑えている。


「――――あの顔、あの女っ。 私をあんな汚い地下牢に入れたのを思い出した。 聖女だがなんだか知らないけど、許さないっ」


 怒りがフツフツを湧き鼻を鳴らすペルセポネ。


――――そういえば、俺もアイツのせいで牢に入れられたんだ。


 魔王ノライフにユカリ達の戦いは、既に始まっている。観ると武器や魔法が、多数繰り出され激戦となっている。

 ペルセポネの魔石を握り締めた手から割れる音がすると、手を広げ握り潰した魔石の破片を払い捨てる。


「そうだ、アイツの魔石を奪おう。 魔王だから魔石ある……はず……」


 ボソッと小声で放つペルセポネは、二本の剣を鞘から抜き、切っ先を地面付け摩りながら魔王ノライフを睨みあゆみ進める。

 俺は、ペルセポネを止めようと思うが躊躇う。

 ペルセポネが、魔王を倒してしまいあの人族の神エウラロノースが、見ていたらどうなるか。

 魔王ノライフの姿は、今、カツオフィレの聖女体である。聖女の体を倒し肉体から引き離しをしたら体を持たない魔王ノライフは、どう出るのか?


 ミミンと魔王ノライフの乱発する魔法の応戦。フェルトの大盾スキルによって魔王ノライフの注意を逸らし魔法を止むとユカリとリフィーナは、斬りつける。傷を負い体力を損なうユカリ達の顔色が伺えるが、魔王ノライフも身体は傷つき少し息切れし始める。


「クッソォォッ。 あの白服の女ァァッ。 全く回復が追いつかん。 それに何故このクソッ弱い勇者共に手こずらなければならないッ」


 唾を撒き散らし怒鳴り散らす魔王ノライフは、眉間に皺を寄せ紅潮している。

 魔王ノライフと戦っていたペルセポネの攻撃は、魔王ノライフの力を大部分削いでいたみたいだ。

 ユカリ達は、魔王ノライフの動きを見て身構えている。

 地面に線を引くペルセポネは、ブツブツと聞き取れない程の声量でユカリ達の横を通ると、魔王ノライフの顔を睨みつける。


「どうでもいい。 どうでもいい……どうでも。 私の魔石の方が大事だぁぁっ」


 ペルセポネは、二本の剣が交互に振るい地面を削りながら放たれる斬撃。

 二つの斬撃を交わし、ニヤリとする魔王ノライフだが、その後目を見開くと苦痛の叫びを二度吐き出し体が、変な動きをする。


「ウギャァァァッ。 アッ、ギャァァッ!!」

「振るったら、返すものなのよ」


 ペルセポネの無表情で放つ言葉を、聞き取ることが出来なさそうな魔王ノライフの身体は、両腕の付け根から血飛沫を大量に噴き出している。

 魔王ノライフの元は聖女の白い腕が、地面に転がり次第に血で赤く染まる。

 だが、魔王ノライフは回復魔法すら使わずに痛みに耐えようともがいて、しまいには地面に片膝をつかせていた。


「その顔、いい表情だわぁっ。 本人では無いのだけれども、実に良いわ。 私のあんな冷たく暗い所に入れた私の苦痛を知って、その報い受けろっ」


 ペルセポネが、魔王ノライフに迫る。

 苦痛にもがいている魔王ノライフの目が、大きく開き体全体固まり、目の前に現れたペルセポネに驚いている。

 目の前にいるペルセポネの笑顔。

 そして、腕が無数に動く。

 再び笑顔と共に魔王ノライフから離れるペルセポネ。

 魔王ノライフが取り憑いていたカツオフィレの聖女の身体のあちこちから血飛沫を上げる。更に脚がもげ、体が崩れると同時に聖女の驚きの顔が、宙を舞い地面に転がっている。

 赤い血で埋め尽くされてる大地の上に転がるカツオフィレの聖女の死体。

 鬱憤を晴らしたペルセポネの顔が、晴れやかになる。


「ふぅ、倒したわ」

「一瞬で、斬りつけるなんて」

「やはり見えなかったわ」

「むーっ。 おねぇさまぁっ」


 リフィーナとフェルトは、驚きを隠せないのか動きが止まっている中、ミミンはペルセポネに抱きつこうと駆け寄る。


「ダメっ。 ペルセポネさん、みんなまだ魔王ノライフは……生きているっ!!」


 ユカリは、ペルセポネに駆け寄るミミンの襟首を掴み引き戻す。

 リフィーナとフェルトは、ユカリの声で我に返り武器を構えだし、ペルセポネも険しい顔になる。


「クックククッ、流石勇者だ。 単なる依代を失っただけに過ぎん」


 負の感情を突き立てる低い声が、この場を響かせると聖女の死体上空に小さな黒いオーラが、現れ急激に膨れ上がる。


「白いのォォォッ。 お前ガァァ倒したのはぁっ、そこの転がっている聖女なのだ。 残念だったなァっ、この私には、傷一つ付けてないのだァッ」


 膨れ上がった黒いオーラから、ギョロっと赤い目が、俺たちを見下ろすと人の形になり俺たちに向け手をかざす。


「来るわっ」


 ユカリの言葉と同時に、魔王ノライフの手から数多くの大きな石の棘が、俺たちに向け降り注いだ。

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