73話

 クラフが登場した扉が開くと三人の見覚えのある姿が目に入る。

 一人は、筋骨隆々のハゲ頭で腰巻篭手など装備はしているが、黒光りした筋肉を見せつけるのか上半身は裸のゴリマッチョ男戦士。

 そしてその横にいる二人目が、うねりのある赤い長髪に軽装備の女戦士。

 さらにその横に、黒のとんがり帽子のとローブに青紫色を靡かせた二人よりも身長が低い女魔法使い。

 堂々した立ち振る舞いをしながら三人は、回りにいる兵士や貴族を確認するかのように見渡すと、神官クラフの横にやってくる。


「ランドベルク王。 貴様の命はここで終わる」

「ん? 何を言っているんだ。 クリフ」

「おい、貴様。 無礼では無いか」


 兵士達は、鞘にしまった剣の柄を持ち構える。

 聖女は、静かに席を立ち隣に居たの若い騎士風男と共にゆっくりと離れ数名の兵士達が、聖女を守護する。

 一部の貴族も手持ちの剣を用意していると、神官クラフがその状況を観てニヤニヤと笑い出す。

 ゴリマッチョ男戦士が手に戦斧を握り女戦士は、ロングソードを手にする。女魔法使いは、なんの細工も無い杖を持ち、三人ともランドベルク王に向け構え出した。


「さぁ、ランドベルク王を殺せっ!!」

「勇者よ。 その者を撃て」


 クラフの発する大声と席を立ちランドベルク王の唸る声が重なると、既に剣を持っているユカリが立ち上がっている。

 苦虫を噛み潰したような顔をしながら何かに抵抗するかのように一歩一歩、切っ先をクラフに向けて間合いを取りながらジリジリと狭めている。


「勇者。 早くその男をっ」


 ランドベルク王と聖女の横にいた若い騎士風の男は、王と聖女の前に立ち武器に手をかける。

 進むのを抵抗しているユカリは、大きく剣を振り上げクラフに向け突き進む。


「避けてぇえっ!!」

「なっ!!」


 ランドベルク王は、若い騎士風の男の左脇を掴みそのまま横に倒れる。

 剣を振り上げたユカリは、駆け足でクラフに迫る。周囲誰もがユカリの剣がクラフに振り下ろされると思いきやユカリは、剣を振り上げたままクラフの横を通り過ぎる。

 勢いのままユカリは、剣を振り下ろす。

 ランドベルク王は、若い騎士風の男の左脇を掴みそのまま横に倒れ、目を丸くし息を荒くなる。

 振り下ろしたユカリの剣は、ランドベルク王が座っていた椅子を真っ二つに斬り裂いたてい。


「はぁ……はぁ……」

「ゆ、ゆ……貴様ァ。 それでも私に反抗するのかぁ。 勇者ユカリよっ」


 床に尻もちついたランドベルク王は、ユカリに向かって叫ぶ。そして共に倒れていた若い騎士風の男は、立ち上がり剣を抜きユカリに向けた。


「父上。 コイツは正気ではありません。仲間もグルなんです。 あのクラフ殿……クラフが父の命とこの国を」


 ゆっくり立ち上がるランドベルク王は、少し青ざめた顔色するユカリ、未だ不敵な笑みをするクラフとその横にいる三人に視線を動かす。


「勇者だけでなく、クリフっ。 やはり貴様らもカツオフィレに」

「まぁ、そう言う事としといてもいいが……。 そんな事よりもランドベルク王。 貴様と聖女の命は無いんだぞ。 潔くその首を差し出して、命を散らせ」

「父上、逃げて」

「な、なぜだ。 その隷従の首輪。 何故効かん」


 数名の兵士達が、剣を抜きランドベルク王を守る。

 若い騎士風の男が、息を荒らげるユカリに剣を向け振り上げる。

 ユカリは、若い騎士風の男の振り下ろす剣を受け止め弾き返すが、臆しない騎士風の男は、再び剣を握りユカリと打ち合う。


「ランドベルク王。 早く死を受け入れろ」


 クラフの言葉をランドベルクに向けると、聖女側の兵士五人が、クラフに突撃する。

 その間に入るゴリマッチョ男戦士は、手持ちの戦斧を薙ぎ払い兵士五人は、砕けた武器と共に背を床に倒れている。


「貴方達!!」


 聖女の叫び声と貴族の悲痛な声が響く。

 兵士五人共に胴体が分かれ、下半身はそのまま立ったまま切れ目から血を噴き出している。

 聖女の横にいた騎士風男は、剣を構えゴリマッチョ男に向ける。


「私の防御系のスキル全部使ってるのよ。 あの男の攻撃力は高いわ」


 切っ先が震えてながらゴリマッチョ男戦士に向けている騎士風男は、腰を落とし防戦する構えだが、ゴリマッチョ男戦士は、戦斧についた血を払うと直ぐにクラフの元に戻る。

 そして、クラフの口角があがりランドベルク王を直視する。


「未だに分からぬか!! ランドベルク王」

「……」

「隷従の首輪を付けた勇者ユカリは、貴様の言葉は受け付けん。 その代わり……私の言葉は絶対なのだぁ。 ガッハッハ」

「貴様、何をしたんだ」

「あの首輪、人族のなら確かに、付けさせた当人の言う事を聞くが。 あれは魔族側の隷従の首輪。 あの首輪に魔力を込めた人の事しか聞かないぃぃ。 つまり私の魔力を注いでいる」

「……なんだと」

「勇者に死なれては困るのはこっちも同じ」

「こっち?」

「魔王は、勇者を殺す目的。 だが、勇者を殺せば再びエウラロノースは、勇者を召喚し我ら魔族と魔王に武器を突きつける」

「魔族魔王は、敵。 それが、神エウラロノース様の教え。 魔族は、我ら人族の命を奪うでは無いか」


 ランドベルク王の怒号が、神官クラフに向けられるとその言葉を聞きため息を吐き出す。


「だがな……貴様は、魔族に生まれ変わっているのを知らず私を信じ、陣中に入れた。 貴様らが崇める神が選定した人族を守る勇者よりも、血縁だけで私の言葉を信じたんだ。 その血縁から殺される。 見事までに阿呆すぎるぞランドベルク王」

「ぎ、ぎざまぁ。 兵士達よ、コイツらを囲め」


 兵士達がクラフ達を囲み、武器を突きつける。

 数名の貴族達はいつの間にかこの部屋から去っていたが、俺とペルセポネは扉側に立つとコベソとトンドは、俺達の後ろで身を隠し状況を眺めている。


「勇者ユカリよ。 そろそろ……その男を殺せ」

「速くなっ……」


 若い騎士風の男と撃ち合っていたユカリの剣が、徐々に速くなり、若い騎士風の男の顔色がどんどんと血の気が引いて、ユカリの攻撃を捌くだけで精一杯となっている。

 ユカリに剣を吹き飛ばされ尻もちをつく若い騎士風の男。ユカリは、若い騎士風の男の喉元に切っ先を突きつける。


「ご、ごめんね」

「勇者……。 その首輪のせいか」


 ユカリの顔を見た若い騎士風の男は、目を瞑るとクラフが、声を荒らげる。


「ユカリよ。 その阿呆王の息子を早く殺せ。 そしてあの男、ランドベルク王も殺せっ」


 ユカリの目から涙が、溢れ頬を伝っている。

 剣がカタカタと震えながらも若い騎士風の男の喉元に切っ先を向け堪えているユカリの横に白いベールが舞うかのように忽然と現れるペルセポネ。


「ユカリ。 何泣いてやってるの」

「ぺ、ペルセポネさん……」


 ユカリに付けられた隷従の首輪に手をかけるペルセポネ。


「そこのぉぉっ、女ァァ! その首輪は取れんぞ」

「取れない?」

「あぁ、その首輪を付けられたら最後。 付けられた本人が死ぬまで外せん」

「ペルセポネさん、私を殺して……」

「おい、お前らあの女を殺せっ。 決して勇者を殺せるな」


 クラフの横にいた三人は、武器を構えようとした瞬間。


 パリィィィッ。


 この部屋に響く、何かが割れた音。


「な?」

「なっ、そんな」


 ランドベルク王や聖女と、隷従の首輪を掴むペルセポネを囲む者みんな目を丸くする。

 クラフは、驚愕の顔をし叫ぶ。


「そんな簡単に外せる代物じゃねえぇんだぞぉぉ。き貴様のぁ何もんだァァ!!」

「ああぁ、ペルセポネさん……あ、ありがとう」

「簡単に付けちゃって。 壊したから大丈夫だけど」

「は、外せるもんじゃねぇんだぞぉ」

「うっるさいわ。 壊したってんじゃんアホなの?」

「アホ……。 アホだと? 貴様ァ覚えてろよっ。 女魔法使いヤレ」


 キョロキョロしだす神官クラフは、額に汗をかき壁に指さすと、女魔法使いは、指さされた方に手をかざす。手のひらから放たれる大きな火弾が壁に穴を開ける。


「行くぞ!!」


 神官クラフは、女魔法使いが開けた穴に飛び込み外に逃げると、追いかけるようにゴリマッチョ男戦士と女戦士に女魔法使いも駆け足で外に逃げる。


「追え。 けっして手だすな!! 何処に向かうか追跡だけしろ」


 ランドベルク王は、叫びそれを聞いた兵士達は、開いた穴からと扉から出ていく。

 ペルセポネが、目を輝かせ女魔法使いの開けた穴に飛び込み外に出ていくと、俺も着いていく。


――――兵士達がいなくなりあの部屋に沈黙が走り気まずい空気が流れそうなそんな予感がした。あの場所にいるよりあの神官クラフを追った方が気は楽そうだな。


 ペルセポネに追いつく俺に声をかけてくる。


「兵士が居なくなたら、気まずい空気流れて出てきちゃった」

「俺も感じた。 あの場にいたら凍りつくだろうな」

「だよね。 それにしても見た?」

「ん。 なにがだ」

「あの、女魔法使い。 魔法使った」

「魔法使いだから、魔法使うだろ」

「そこよ。 あの女の絶壁胸からほじくって魔石取っているの。 なのに魔法使った」

「あっそうか。魔石無いはずなのに使えるのは不自然だな」

「あの女捕まえて、コベソ達に調べさせるんだから」


――――たしかにこの世界は、魔石持ちじゃないと魔法は使えない。だが俺もあの女魔法使いが魔法使ったのは見ている。異世界って時折、設定が変わったりする事があるからなぁ。


 ローフェンの北門に向かって走る神官クラフとその三人。先に追いかけていた兵士達は、次々と息を切らし倒れ、道端で休んでいる。

 そして、いつの間にか俺とペルセポネだけが、あの四人を追いかけていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る