71話
「ススススススペクターだぁぁあぁっ」
コベソの驚愕な叫び声が、大地の上を走り大気に響く。
紫色のオーラを燃えるよう噴き出す人影のスペクターの何も無い顔の部分に一本の横の線が現れると線の端が、上がると次第に開きまるで、口のように見える。
コベソの声に反応したスペクターは、手をコベソに向ける何かが発射される。
それをハルバードで払う俺の見たそれは、スペクターの手から先端が尖った触手が飛び出している。
「スペクター、あんな攻撃するんだな」
「ハーデス、ユカリ達を」
「そうだな」
ユカリ達の元に駆ける俺とペルセポネだが、待ってくるはずも無いスペクターは、ゆっくりと顔を戻しユカリ達四人を見回しているようだ。
紫色のオーラを足元から上に激しく燃え上がらせるスペクターは、白い骨と武具が散らばった所に立ち武器を構えるユカリ達に手を向ける。
「こいっ」
「フェルトぉっ!!」
大盾が微かに発光しスペクターの前に構えるフェルトは、少しだけ勇気を振り絞ったのかジリジリとスペクターとの間合いを狭めているが、額には汗が煌めいている。
ニヤッと笑みを零すスペクターは、その大盾に視線を合わせたのか顎を引くと、笑みが消える。
スペクターの手の平から穂先のような鋭い物を大盾に向ける。
「防いでやる」
「フェルト、近づきすぎ」
「ここで、防げばやつに勝てる」
「何言ってるのっ。 避けるのぉぉ」
フェルトは、大盾の下を地面に付け押されないように腰を低くしどっしりと構えているが、フェルトの目は瞑っている。
その会話を聞いていたのか話が終わると、再び口角が上がるスペクターの手のひらから発射された触手が、目視出来ない速さで空を切る音すら出ずに大盾に迫る。
――――速いなっ!!
俺が、ユカリ達と所に小走りで向かって行ってたが、コベソに向けられた触手よりも速く放たれたその触手に焦りを感じるが、ギリギリ間に合い触手を払い除けた。
一瞬呆けるスペクターは、次第に二度も攻撃を跳ね除けられた事に対してなのか、開いた手を握りしめ右足を数回地面を踏み潰し地団駄している。
――――ありゃ、怒っているのか?
地団駄を踏んでいる所の地面が少し凹んでいるが、突然それをやめて大きく息を吸い取ると、スペクターは、腰を下げ下腹部に力を貯めるように動きをすると燃え盛る紫色のオーラを更に激しく燃え上げる。
スペクターの頭が辺りを見回すような動きをする。
――――もしかして、散乱されてるスケルトンやソンビでも見ているのか?
更にスペクターは、俺とペルセポネが倒したゾンビやグールの砕け散った肉の破片を眺めて口が緩む。
そして俺に向かい頷いたその瞬間。
スペクターの体を中心に紫色のオーラが、筒状になり広がっていく。すると、落ちていたスケルトンの砕けた骨がみるみる内に吸収されるかのように消える。
「ペルセポネ!! また、守れっ」
俺は、スペクターとの間合いを広くとりペルセポネに叫ぶと、すでに用意周到のペルセポネは、ユカリ達を守りその奥にはコベソ達と馬車もある。
この辺りを包み込む紫色のオーラ。
神力で俺自身も守りスペクターのオーラを防ぐ。
ペルセポネのいる所まで紫色のオーラが、広がると落ちているゾンビとグールの肉片を吸収すると、急速にオーラが戻るとスペクターの胸が一瞬膨れ上がる。
――――吸収し終わったって事か。
何も発しない口が、不気味に笑みを浮かべると俺に向かい拳を振り上げる。
スペクターの風圧の音が鳴る鋭い拳を俺は、ハルバードで振り払うと、今度は逆の拳で俺を殴り掛かる。だが、それもハルバードで払うと、徐々に、振るう拳の速さが増す。
「……」
「スペクターとハーデスて……さんは、一歩も動かない?」
「……見合ってる? 腕が見えないわ」
「速すぎて攻撃が見えないのかも。 ヘイストの魔法?」
無言のユカリにリフィーナやフェルトとミミンは、スペクターと攻防しているはずの俺とスペクターが、ただ立っているように見えるようだ。
俺の足元からじわじわと砂塵が湧き出すと、同じくスペクターの所からも出てくるが、俺よりも激しく砂塵が舞っている。
「微かにしか見えないけど、ハーデスさんスペクターの攻撃全部、あの武器で跳ね除けている」
「あの速さを?」
「そんなの信じられないわ」
「魔法なの?」
ミミンは、魔法だと信じているがその応えにユカリは、首を横に振ると更に目を開いて驚いている。
「ユカリ、あのスペクター。 魔法使えるの?」
「……能力値が見えないです。 なんか文字が変に見える」
「レベルの差なのかしら、でも見てると魔法使わなさそうね。 ねぇミミン?」
「そ、そうですおねぇさま。 もし魔法使うならもう使っていそうですし、魔法使ったような感じもしないです」
急にペルセポネから問い掛けられたミミンは、意気揚々と答えると頷くペルセポネは、小さくため息を吐くとリフィーナやフェルトにも目を配る。
「早く、あそこまで行くわよ」
「そ、そうアイツら私達の事見捨てやがって」
「リフィーナ。 違うって」
「何が違うの。 普通待つでしょ」
「コベソさん達が、兵士に中に入れるよう早めに説得しにいったんだと思う」
「今、ハーデスが抑えるんだから早く。 スペクターの標的が変わる前に!!」
ユカリの声に頷くフェルトとミミンだが、リフィーナは、少し首を傾げるがペルセポネの言葉に体の向きを変えコベソ達の元に走り始める。
ペルセポネの機転によってユカリ達をコベソの元に行かせそのままローフェンに入るという事と分かるが、それよりも早く馬車の元に向かったと言うことを目の前にいるスペクターを相手している俺は、すぐに察知する。
――――コイツ、魔法……魔石無いな。
さっきから殴り掛かってくるばかりで魔法を使うような素振りは無いし、こちらからも攻撃せずにただ拳を払っているだけなのにこのスペクターの笑みが絶たれてない。
だが、やつの視界にローフェンへ向かうペルセポネとユカリ達の走る姿が映ったようで、拳を突き出してくる所から蹴りをいれハルバードで防ぐが、それが間合いを取らせてしまいスペクターは、向きを変えペルセポネ達の方へ走り始める。
――――はぁ?相手してやっているのになぁ、こっちは……。随分、余裕こいているなよこのスペクターは。
スペクターは、両手を前に出しペルセポネ達のいる所にむけ、直ぐに触手を発射する。
最初に見た時よりも速いが、それに気付くペルセポネは、二本の剣を既に持ち向かう打つ。
ペルセポネが持つ剣の間合いに入る触手は、迫る速度を無くし止まりペルセポネは、剣を鞘に納めそのまま体の向きを変えてユカリ達の後を追う。
その触手の凄まじい速さを知るユカリ達四人は、迫り来る時に目を瞑り息を乱していたが、そこにペルセポネが入るとその場から離れるようとコベソ達がいる所へ駆け足していく。
止まった触手、そして迫っていたスペクターも止まる。
何が起きたか分からないスペクターの口が半開きになっている。
一瞬、スペクターの元に戻ろうとする触手の先は、紫色の小さな煙が噴き出し粉砕され、段々と手に向け細かく削られて行く。
声の出ないが大きくスペクターの口は、見るからに恐怖を感じているようだ。
だが、それすら気にすらせずスペクターの行く手を阻む俺は、ハルバードを軽く振りスペクターを睨む。
――――そう、コイツは俺の妻に危害を与えようとした奴だ。
俺の睨みに腹が立つのかまるで歯を食いしばった形をする口をするスペクターは、拳を構え突進してくる。
振り切る拳を難なく躱す俺。
躱されたスペクターは、一瞬戸惑うが、直ぐに向きを変え俺に殴り掛かる。だが、それも躱す。
ハルバードで防いでいた俺が、今はそれすらせずに躱している事すら分からないようで、スペクターの口が再び笑みを浮かべる。
「お前。 何か勘違いしてないか?」
「……」
俺の言葉が理解しているのか、何か言っているような口の動きをするがその口が、何故かニヤついている。
「まぁ、良いか」
再び攻撃を仕掛けてくるスペクターだが、その拳を躱しハルバードでスペクターの体を削る。
スペクターの体からまるで風船の空気が漏れるかのように紫色の煙が、噴き出している。
徐々に振るう拳のスピードが落ちる。
今までニヤついていた口が、徐々に息切れしている動きに変わっていく。すると、今更気付いたのか噴き出す紫色のオーラを掴もうと、慌てふためくスペクター。
「はぁ、もういいか?」
俺の言葉を聞いたスペクターは、目の無い顔で俺を見ると噴き出すオーラを放置して、拳を振るい上げ襲いかかってくる。
俺もハルバードを振るいスペクターへ向かい交差する俺とスペクターの攻撃。
「……」
固まったスペクターの右肩、左脇、右足、左腕が破裂し紫色のオーラが噴き直ぐに消える。
何も聴こえない驚愕を覚えた口の開きをしたままスペクターは、四肢が粉砕され胴体が下から上へ細かく破裂し行くと最後に頭部が破裂する。
俺はハルバード、軽く降るってしまい、コベソ達の元に向かって行った。
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