43話
馬車の荷台は大きく俺やペルセポネと他四人乗せてもゆったりとした空間に、御者はランドベルク出て商隊の先頭の馬車を引いていた御者が、今俺たちを乗せた馬車の手網を引く。
コベソが、言うにはこの御者は、なんでも危険察知等優れたスキルを持っているそうで、商隊で移動する時は、絶対に連れていくほどの人物だそうだ。
見た目は、ごく普通の成人男性と言ったところの身なりとそんな印象だ。
そして、ロック鳥のいる東の岩山に到着するが、出発してから丸一日経っている事に、フェルトも「戻ったら山賊討伐の内容聞きにいこうか」と幌の中で言っていた時に俺とペルセポネは、幌の中から外の様子を伺う。
魔王バスダト戦で見たランドベルク兵が、放つ矢ですら届くかどうか、そんな高い位置にロック鳥は、大きな翼を羽ばたかせている。
俺たちが、この地に足を踏み入れた時から既に『ガァガァガァ』と威嚇と取れる鳴き声をし、それが岩山に響きわたっている。
「あれが、ロック鳥……か?」
「そうよ。 あのでっかいのが」
俺は、馬車から降りると真っ先に威嚇する声がする方へ見上げると、像を五頭程横に並べても大き過ぎる鷹のような鳥が、視界に入りペルセポネに確認してしまう。
ペルセポネは、平然と答えながら馬車を降りロック鳥をチラッと目をやった後、ゆっくりと剣を取り出して、臨戦態勢になっている。
「あ、あれがロック鳥!!」
「デカすぎぃ」
「ああああああああぁぁぁ、あんなでかいの飛ぶ訳ない!あそこから落ちて楽にボコボコよっ。 貴女のランク不正って確信だわ」
フェルトとミミンは、ロック鳥がいる上の方を眺め、驚いて目をそらさずにいたが、その姿は落ち着いいるようで、その後ろから乗り出しロック鳥に指さしながら驚くリフィーナは、慌てふためいてペルセポネに向かって怒鳴っている。
「あれロック鳥ですね。レベル23だと……」
「リフィーナより上……。 勿論私たちよりも上だけど」
「うぅううぅっそぉ!! あんなでかい図体で?
「でも上空で飛んでたら攻撃届かないかも」
「なら、私の出番だけど……私」
ユカリが、目を薄らと青く発光させロック鳥を睨んでいる。すると、ゆっくりミミンが、馬車から離れペルセポネと俺がいる場所に近づこうと、忍び足で歩み寄る。時々、リフィーナ達がいる馬車に戻ろうとするが。
「おねぇさま。 あんな上空じゃ」
「ミミン……そうね」
「私の魔法で!!」
ペルセポネは、ミミンの提案を笑顔で返し、ミミンは、表情を明るくしハキハキと答えるが、その後ペルセポネの一言。
「要らない。 もっのぉすごく有難いけど。 超要らない」
「ちちょぉうぅぅ!!」
「ペルセポネさん、私攻撃しても?」
「ユカリ。 まぁいいんじゃない……やれるの?」
ミミンは、しょげながら持っている杖の石突きで、地面を突っついている所にユカリは、サッと剣を持ち構え出す。
腰を低く、剣を持つ腕を後ろにし片方の腕をロック鳥に向ける。剣が少し発光しだすとロック鳥に向け薙ぎ払うと、光が斬撃の刃となってロック鳥に飛んでいく。
『ガァアガァアアアガァァ』
地上に留まるユカリの攻撃が、ロック鳥に向かって飛んでくる事に驚いたのかロック鳥は、奇声を上げ、大きく翼を羽ばたかせ更に高く舞い上がる。
「当たってぇぇ!!」
ユカリの叫びとは裏腹にロック鳥は、ユカリの飛ぶ斬撃を羽ばたかせた翼で意図も簡単にかき消してしまう。
「えっ?」
「あの飛んでいた刃…… 無くなった」
「あの攻撃…… ユカリは魔王倒したんでしょ?」
ミミンもしょげていた顔を上げリフィーナとフェルトと共にロック鳥の動きを見つめている。
一番に狼狽えたのはユカリだった。
「う、うそ……」
「そりゃそうでしょユカリ。 その攻撃初めて使ったんじゃない?」
「そうですけど」
「飛んでくる位置から軌道読めるし、そんな飛ぶ斬撃なんて牽制以外使えないんじゃない?」
「牽制……」
「兎に角、ユカリも攻撃が届かない敵に」
「と、届きますっ。 一応魔法だって……」
ペルセポネは何かを諭すようにユカリの目を見ながら首を横の振り、ユカリの体を反転させ馬車へ押し返す。
「なっ?」
「これ、私の受けた依頼だから。 ダメ」
「おねぇさまぁ」
「あれ、かっこいい」
「ふ二人とも?何が」
ペルセポネの妙に言い難いポーズと参戦するなと言わんばかりの言葉で、ユカリやリフィーナ達に伝える。
――――あの二人やばいだろ。ペルセポネのあの変な動きに見とれてるぞ?
「めいおぉ……ハーデス」
「あぁ、なんだ?」
ペルセポネが、『ハーデス』と言い慣れていたと思ってたんだが、ついつい冥府から言い慣れてた『冥王』と口を滑らせてしまったが、少し息を整えて普通に会話を始める。
「いい運動になるかも」
「ササッとやらないのか?」
「ロック鳥。 どうせ突っ込んでくるとか嘴で狙ってくるとかでしょ。 単調な動き交わしてあのアホエルフ達に見られて変な事勘ぐられても大丈夫なように…… 軽い運動しようって事」
――――つまり、この世界の人間のフリをして倒すって事か。
「わかった……。 けどな?」
「けど……何かある?」
「それにしてもロック鳥だから岩の鳥だとおもったんだけどな」
「ロックだから? ロックなだけに?」
「なんたって異世界だからな。 しかもファンタジーな世界観だしな。 もしかしたらとおもったんだけどな」
「残念だけど、ロック鳥はデカすぎ鳥。 それ岩のような鳥あるとか聞いた事あるけど……」
「ロック鳥は、ロック……。 あれって」
「急にどうしたの?」
「ロック鳥っていったら。閻魔がヤマとして治めている所の地上に、あんな巨大な鳥がいるとか聞いた事思い出した」
「そうなの? 分からないけど……」
「まぁ。 そんな話聞いた事あったっていう話さ」
上空を回転するように飛んでいるロック鳥は、俺たちがちょうど真下に来ると、狙ったかのよう急降下し、突撃をしてくる。
地面スレスレで飛行しペルセポネに狙いを定めたらしく大きな嘴を開きながら迫る。だが、ペルセポネは、難なく横に逸れ交わすとロック鳥は、そのまま急上昇して再び、上空で旋回しコチラを見ている。
その時若干、岩山の側面を翼で削るロック鳥だが、痛がっている様子も無い。
ロック鳥は、何度も交互に俺とペルセポネに攻撃を仕掛けて来るのだが、俺たちは交わすだけでロック鳥の攻撃は少しずつ早くなっている。
何も進展すらしない焦りを感じているのか、岩山に翼が当たったりし、小石が落ちてくる。
「ちょっとぉ〜!! 何してるのっ?」
「うるさいアホエルフっ」
「またっアホってぇ!! あんたの妻口悪すぎ」
「お、俺?」
――――突然俺に振られてもと思うが……。
俺もペルセポネも痺れを切らしたリフィーナの声に反応しロック鳥から目を逸らすと、何故か次第に風が強まる。
「何よっ!これぇ」
「リフィーナっ中にっ」
顔を出していたリフィーナが、スっと幌の中に入り風を凌ぐが、俺たちは風上を知るために上空を見上げると、大きく力強く羽ばたくロック鳥。
更に強く羽ばたかせ嘴を大きく広げ『ギギャァオォォ』掛け声を上げる。
「これぇっ。 痛っ!!」
「み、見えんっ。 砂が」
砂塵が舞い上がると同時に俺たちに降り掛かってくるが、既に砂塵と言うより砂嵐の様に前方が灰色の靄の様に視界が悪くなる。
目も開けられないほど強い風と細かい砂が痛みを告げる。
『ガァアガァアガァアアア!!』
砂嵐が収まりだし、強い風も無くなり俺たちは目を薄ら開けるが、目に入った砂のせいであまり開けられない。
上空に旋回する、ロック鳥は急降下し両趾を広げペルセポネに掴み掛かろうとする。
俺は、薄ら開けた目で見てペルセポネを捕まえようとするロック鳥に持っていたハルバードで咄嗟に突き刺そうとする。
『ギヤァアァアァァッ!!』
ペルセポネを捕まえる為か大きく広げた両趾の一つ左側だけが、ペルセポネの頭上を越え飛んでいき、馬車の近くで転げ落ちるが、その趾とは逆方向の上空へ引き返すロック鳥。
右の趾を開いたり閉じたりとしてはいるが、左側から赤い血がボタボタっと地面に垂れて、赤い水溜まりが出来上がっている。
「ハーデス何やって……」
「運動なんだろ?」
普通に目を開け、まるで先程の砂嵐が無かったような充血さえしていない瞳のペルセポネに、俺は槍を突く動作をしたまま、ペルセポネの返答に答えていた。
「そ、そうだけど……。 この世界の人間、人族と同じようにとは言ってないし」
「……」
――――確かに言ってないあのリフィーナ達に変な誤解を生まないだけと言っていたな。
「まぁ、とっととやっちゃいますかぁ」
「そうだな、ペルセポネの髪が凄いことになっているしな。早く終わら――――」
「ぬぅあぁぁぁにぃぃぃっ!!」
芝居じみた目の痛みを直ぐに止め、いつも通り開けてペルセポネの姿を見て返答したは良いが、その当人ペルセポネは、俺の言葉で自分の髪をゆっくりとサラッと掻き分けると、途中で「痛っ」小声呟くと激しく怒りだす。
『ガァアガァアガァアッ!!』
「ガァアガァアって、うるっさァァいっ!!」
『ガァアガァアガァアアアッ』
咆哮し威嚇するロック鳥に負けずとも劣らない声でペルセポネが、迎え撃つ。
砂嵐が止んで幌から顔をだす【青銀の戦乙女】三人とユカリ。
翼を大きく、先程よりもより強く羽ばたかせて、左側の趾の垂れてくる血を見せても痛みを感じさせないロック鳥は、その鋭い嘴を突き立てペルセポネに、向かって急降下。
二本の剣を握り締め少し腰を低くすると、本当に小さく誰にも届かない声で呟くペルセポネは、狙っていた位置にロック鳥が通ると、軌道すら見えない剣を振るう。
――――こっちにぃ?
「ハーデス、危なっ」
バランスを崩したのか翼が使えなくなったのか、ロック鳥は、そのまま崩れ落ちるように落下し、地面を擦って俺の目の前に大きな嘴迫ってくる。
ブラックワイルドボアが二匹並んでも収まる程の口が大きく広げたまま、まるでこの地面のあらゆるゴミを吸い込むかのように俺に向かってくる。
俺はペルセポネの呼び掛けで気づき、馬車のある方へ駆け出すが、そのペルセポネも同じ方向へ駆け出す。
「なんでっ!! アレだけでここまで迫るぅ」
「何したんだ?」
「翼の腱を斬ったのよぉ!!」
「もしかしたら、片方の趾とかで来てるんじゃ?」
チラッと見えるロック鳥は、健を斬られているとはいえそれでも翼をバタバタと動かしている。それが、実際滑ってやって迫ってくるのかどうか俺とペルセポネからは見えない。
「おかしいだろ!! こんなに長く滑らんだろっ!! 舗装している訳でもないのに」
確かに地面は、土で所々に大小様々な石も見られている。
「だったらアイツで、趾で地面蹴って迫ってくるってっ!! ホラーじゃん」
そう言うとペルセポネは、踵を返し二本の剣を持った腕を左右に広げ、口を大きく開けたロック鳥と対峙する。
よく見ると、ロック鳥は、自前の翼をばたつかせまるで地面を泳いでいるかのように迫ってきていている。
『クゥッエェッエェェェ』
砂塵が舞うほど、大きな口から叫び声を吐き出しばたつかせていた翼を、大きく畝らせた後高く飛び上がると大きな陰が俺たちを包み込む。そして、ロック鳥は嘴を広げ、ペルセポネを飲み込もうと急降下し始める。
だが、口から吐き出す唾が、ペルセポネの周囲に垂れていた事に目を奪われると。
「空……裂……」
ペルセポネの言葉と同時に二本の剣を目にも留まらぬ速さで上下に振り上げた後振り下ろした。
『クギャァアアァァッ!!』
翼が切断され血を撒き散らし体が歪むロック鳥の喉元に俺は、無心に言葉を発しハルバードの斧部がめり込む。
「うるせぇっぞっ鳥がぁっ!! 俺のぉぉ妻に汚ぇのっ。 掛けんなっ」
めり込む斧部の刃が、ロック鳥の喉元が徐々に切れ始め、血を噴き出すが俺はハルバードを木の枝を振るように軽く力を入れ振り切ると、ロック鳥の頭が回転しながら飛んで行き、馬車近くにドスンっと音を立て落ちる。
「きぃっ!!」
「きゃぁぁっ!!」
叫び声が馬車から聞こえ岩山に反射して更に大きく響く。ロック鳥の白目とリフィーナ達と目が合ってしまったようだ。
オドオドしながら馬車にしがみついているミミンとリフィーナと、落ち着いて分析でもし合っているユカリとフェルト。
ロック鳥が、一度地面に落ちた所から今、落下した首と翼に趾なし胴体のみのロック鳥まで、二本の赤い線が引かれ、首までに掠れた線が赤く染る。
ペルセポネは、無事に回避出来ていたのに気付き「大丈夫か?」と声を掛けたら、小さく頷き耳を赤くする。
頭を抱える俺は、悩む。
――――無心になってたようだ。ペルセポネの反応からしてまた恥ずかしい言葉を発したのか?
ペルセポネは、俺を避けるように馬車の方へ目を向けユカリに向かって手招きすると、ユカリが慌ててやってくる。ユカリと共に一緒になって着いてくるリフィーナ達。
ペルセポネは、ピクピク動いている胴体だけのロック鳥に向かって指を指しユカリに合図を送ると、ユカリの目が青く光りだし【鑑識眼】を使ってロック鳥を見つめている。
「ユカリ、こいつ……ある?」
「あっ! ……うーんこいつ、無いです」
「なっ無い?」
ゆっくりと自信満々に首を縦に動かすユカリの顔を見ていたペルセポネは、大きくため息を出し肩が落ちて楽単しまった。
「こいつ、風起こしたから魔法使えるかと思ったのにぃ!!」
「明らかに魔法の効果だと分かる物じゃないと魔石ないんですよ。 おねぇさま」
「魔石を持った魔物なんて、殆どダンジョンとか異界の樹海にいる魔物ぐらいって言われてるし」
ミミンがユカリとペルセポネの間に入ろうとし、肩を入れ覗き込むようにペルセポネの顔を見たが、連れ戻そうとするフェルトも、魔石に関する事を話してくれる。
すると、リフィーナが血相変えてこの輪に入ってくる。
「ちょっちょっとぉ!! 何、普通に魔石の話しちゃってるの?」
「何って、魔石の話題が出たからじゃない〜?」
「ミミン? フェルトは?」
「まぁ、そうだよね。 魔石の話だったし」
「えっ? そ、それじゃぁユカリは?」
「うーん。 そうですよね」
「そ、そうだよね」
たじろぎながら一つの光を見出したかのようにリフィーナは、ユカリの目を見つめ同調を求めユカリは答える。
「魔石の話でしてもんね。 魔石の話だったしちゃいますよ」
「ちっ違うでしょっ!!」
リフィーナの怒号が岩山に反響する中、俺たちはその言葉に疑問符を頭に浮かべる。
「いい、まずペルセポネ……あんた。 あのロック鳥の翼の筋? 腱? 意図も簡単に切ってるしぃ――――」
ミミンとフェルト、そしてユカリは、そのリフィーナの言葉で怒っている事を理解し頷いていると。
「――――それにあんたの旦那!!あんな細い槍なのか、わかんないけどその小さな斧部の刃で、ロック鳥の首、切り落とすのってどう言う事?」
「何言ってる? 頭おかしくなった?」
「何って? ロック鳥よ、ロック鳥っ!!」
「実際、そうなってるんだから、そうなんでしょう」
当たり前の如く、淡々と答えるペルセポネの目を合わせていたリフィーナは、その言葉を聞いてなのか頭を抱えて唸っている。
リフィーナは、頭を抱えたまま俺に睨んで、怒りを込めて怒鳴ってくる。
「ちょっ、あんたの妻おかしいよっ」
「はっ? おかしくないぞ。 ごく普通の事言っている」
「ロック鳥が、あんたのその細い槍のような斧で、あんな簡単にスパーンって切れたりしないって!!」
「リフィーナっもうそんな事考えてたの?」
「呆れちゃうよ。 考えても仕方ないんだよ」
「えっ? ミミン? フェルト? どうしちゃったの?」
「いやいや、リフィーナこそ……」
「リフィーナ、よく聞いて」
「あ……うん」
「彼らは私達よりランク上。 私達の知らない技術持っている。 私達よりも強い……。 以上」
「うーん。 っていうかなんで片言っ!!」
困惑しているリフィーナを説得させているフェルトとミミンだが、その後ろでは既にペルセポネが、ロック鳥の残骸を回収し終わっている。
俺とペルセポネにユカリは、【青銀の戦乙女】三人を他所に馬車に乗り出発するのを三人待っていた。
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