第107話 ラウニー救出作戦③ 因果は回る糸車
第107話 ラウニー救出作戦③ 因果は回る糸車
さらに侵攻はつづく。
今度はスライムを背負っているから大立ち回りはやめにして魔法攻撃でズンドコ行く。
空間をちょっとつまんで捻ってやって、その歪みを発射する『空震魚雷・激弱バージョン』をどこどこ発射しつつ一階への階段下まで進んでいく。
「ぎゃーっ」
「へぶっ」
「あべべべべっ」
いろいろな悲鳴があるもんだ。
そんな感じで内側は制圧したが外側には人の気配。
登り階段の先は扉でしっかりと締まっている。
覗き穴とかあるぞ。
覗くまでもなく外は確認できるがその扉は向こう側からは隠されていて、ここにあったよタペストリー。
しかもその両脇に二人の屈強な男が。
「これはあれだな。ここに人が入ってこないように見張り」
隠し扉なんだろうけど、見張りを立てては意味がないと思う。
「まあいいや、ここに火をつけて…」
でも火がつくようなものが何もない。
しまうぞう君の中を探すとなぜか大量の草が。
魔物除けに使う燻し草だね。
生だからよく煙が出る。
会談の脇に大量に押し込んで、着火の魔法で無理やり火をつける途端にたちこめるくっさい臭い。
あんまり臭いから結果を張りましょう。
臭いでスラたちがダメージ受けるとかわいそうだからね。
そして十分な煙が立ち込めたところで隠し扉をドッカ~ンと。
「ぐわっ」
「何だ?」
「くさ、この煙、臭!!」
見張りが大騒ぎだ。
そして表にも動きがあった。
「爆発だかまわない、突入しなさい」
あの声はシオンさんです。ご苦労様で。
「無礼者。ここをどこと心得るか~」
犯罪者のアジトだよ。
そうだ。いいこと思いついた。
「ぐわー、地下への階段が吹っ飛んだーーーっ、これでは密売用の魔獣が見つかってしまうー」
「おーーーっ、なんとしても地下二階にいかせるなー」
なんて声色を使って叫んでみたりして。
「ちくしょう、どこの馬鹿野郎だ!」
お前に言われたかないわい。
多分犯罪組織の偉い人が隠し扉の部屋まで走ってきた。
「くそが! 本当に吹っ飛んでやがる」
「ここはもうだめだ。逃げるぞ」
「つかまるわけにいかんのだ!」
何人かの男たちがバタバタと走りこんできてそのまま地下に降りていく。
その後を騎士たちが追いかけて降りていった。
犯罪者どもはゲホゲホしていたがさすが騎士団。しっかり風魔法で煙をよけて進んでいく。
ドドドドッと走りこむ騎士たちの最後尾に俺は知らぬ顔で紛れ込んだ。
逃がすなー、追いかけろーとか叫んでみたりして。
「あれ? マリオン様」
「やあ、ネム、ごくろうさま」
チュッとキスします。
夫婦の特権です。
「火事ではありません、煙幕のようです」
「密売組織の連中はこの先に逃げたようです」
「シオン様、カンナ様、ダメです。下への扉が閉まってます」
どんどん報告が上がってくる。
「どいて」
カンナさんが前に出てそのでっかい鈍器でふさがれた扉をぶんなぐる。
ズドーン! と音がして壁にびしりとひびが入る。
二撃目、そして三撃目で壁が壊れた。
「時間を食いました。急ぎますよ」
シオンさんの指揮でさらに前進。
この人たちはすごく優秀だ。
「はい、フレデリカおばさまが貸してくださった騎士たちですから。魔物の密売組織の操作に当たっていた人たちだそうです」
なるほど。優秀なはずだ。
「シオン様、魔物です。魔物の大群です」
大群というほどじゃないと思うが、まあ結構いる。
そのうち何個かの折は鍵が外されていた。
これも時間稼ぎだろう。
俺は魔力を編んだロープをシュルリと伸ばして開かないように扉を抑える。
すでに外に出ていたのは3匹ほどで、騎士たちにとびかかってあっさり切り捨てられた。
運が悪かったな。
だが正々堂々の勝負だ、文句はあるまい。
シオンさんたちはさらに奥に進み、俺は檻の扉を簡単には開かないようにちょっとゆがめておく。
握ってぐっとひねるだけです。はい。
それからゆるゆると奥に。
そしたら騎士たちが立ち止まっていた。
その目の前には床に張り付いて動けなくなった犯罪者たちがいた。
全部で6人。改めてみたら貴族っぽいのもいるな。
「これってどうなっているのかしら…」
「行ったら我々もくっつきそうですね」
そらそうだ。
仕方ないここは俺が拘束するしかないか。
「シオンさん、すみません、これ俺のトラップ魔法です」
「あら、マリオン君。いつの間に?」
「はい、最後尾から追いかけてきました。
ここは先ほど侵入したときにちょっと」
それでおそらく騎士さんでも踏み込めばつかまることを説明して、自分が拘束しましょうか?
みたいな話をした。
中には『ココから弓で足を射て、動けなくなってから魔法を解除すればいいのでは?』みたいな過激な意見もあったけど、それは採用されなかった。
その前にベキッという不吉な音がしたのだ。
ぼんっ、どごごごごっ。
「「「「「「「あっ」」」」」」」
地下通路部分がまさかの崩落。
下に空洞があったんだ。
「「「「「「「ぎゃー、ぐあー」」」」」」
密売組織の人たちの悲鳴。
そしてものすごい悪臭が…
「ぐわーっ」
「だずげてぐれー」
「ひいぃぃぃぃっ」
「シオン様、カンナ様お下がりください」
「何なんです?」
「どうも魔物の死骸捨て場のようです。
安普請のために廃棄場所から漏れ出て個々の地下に流れ出たようで…」
口元を手ぬぐいで隠し、苦しげな息をする騎士さんが報告を上げてくる。
俺は同情を禁じえなかった。
下っ端というのは本当に大変なんだよ。
まあ、中間管理職もそれはそれで最悪なんだけどさ…
そしてシオンさんが決断した。
「廃材を利用して穴をふさぎなさい。
疫病がある可能性があります。
すぐに神殿に連絡して浄化魔法の使い手を手配。
消毒薬も運び込んで!」
騎士たちはすぐに動く。
上の階から破壊され運んでこられたいろいろな板っぽいもので開いた穴はふさがれた。
中に犯罪者を閉じ込めたまま。
廃材の下からくぐもった悲鳴が聞こえてくる。
やむを得ない処理だったのかもしれないが…
「こんなところに閉じ込められるのは絶対に嫌だね」
そしたらネムがちらりと周辺の檻を見た。
織はお世辞にも清潔とは言えなかったが、それでもあそこよりは…
「ずっとましですね。こちらが天国に見えます」
ですよねー。
でも疫病は怖いからここは浄化しておこう。
俺は浄化の魔法をくみ上げて起動させる。
それを継続させるために。そうだな。浄化と言えば不動明王か?
【ナウマク サマンダ バサラダン センダ マカロシャダ ソワタヤ ウンタラタ カンマン…ナウマク サマンダ バサラダン……】
不動明王の慈救呪というやつだ。
浄化の魔法が白い炎のように揺らめき周辺を清めていく。
においまで消えていくようだ。
とりあえず犯罪者を地下に封印したままで事態は小康状態に陥ったのだった。
■ ■ ■
「まあ、かわいいラミア族ね」
「かわいい~」
処理が終わる間一階の貴族屋敷で休憩する。
シオンさんもカンナさんもラウニーの可愛さにやられていた。
ネムは初めましてなのですごく気に入ったみたい。
「マリオン君、助かったよ。これでこの町の魔物密売組織はある程度叩けたと思う」
「いえ、偶然ですから」
「それにしてもラミア族まで攫うなんて…本当にあいつらはクズだな」
何らか思うところがあるらしい。
シオンさんの話ではラミア族は人族扱いなので町にいても問題はないらしい。
ただやはりラミア族が町に来ることなどまずないことなので、住みやすいかどうかは別の話。ということだった。
確かにね。
だが二、三日ゆっくしてもらうぐらいはフォローできると思う。
そうこうしている間に神殿の神官さんがたくさん集まり、処理が開始された。
俺たちにも浄化魔法が駆けてもらえた。騎士さんたちもだ。
万が一にも疫病になどかからないように。
なんか黒死病とかいそうで怖い。
なので処理は徹底的に行われた。
神官さんたちが集まって浄化魔法を使っている中、ふたが外されて、中身を救出…するのは後回しにして大量の消毒薬が投入された。
なんかものすごくシュワシュワ泡の出るやつ。
その後、男たちが引き上げられがすでに三人は死亡していた。
死因は…考えたくないな。
残りの三人も瀕死だった。
まあこっちは十分な治療が行われるだろうから多分助かるだろう。
その後は取り調べだ。
今度はこいつらが牢屋に入る番になった。ざまあ~。
俺たちの方は詳しい話は後日ということにしていったん解散だ。
と言ってもみんなで俺の屋敷に行くんだけどね。
時間はもう夜明け近く。
ラウニーはと言えば俺の肩に俵のように担がれてよだれを垂らして眠っている。
こいつは大物になるのではないだろうか。
ネムはと言えば時間経過とともにラウニーLOVEが進行しているらしい。
『かわいい、かわいい』を連発しながらラウニーのほっぺをつついて幸せそうにしている。
まあ、概ね丸く収まったようだ。
そしてみんなお疲れ様。帰って寝ようぜ。
「あっ、朝日ですよ」
あれは夕日だ。そういうことにしておけ。二、三回その場で回れば方向なんてわからなくなるさ。
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というわけでクリスマス連続投稿でした。
少しは楽しんでいただけだでしょうか。
楽しんでいただけたら幸いです。
作者からのささやかなプレゼント。
クリスマスなので拙作に星など降ってきたなら作者もものすごく幸せです。
もしよかったら…お願いサンタさん。
さて、年末はとにかく繁忙期。
そして元日も仕事であります。
そんなようなわけで次にお会いするのは年が明けてからになると思います。
なので少々早いのですが。
皆様よいお年を~
そして来年もよろしくお願いします。
くる年が私たちみんなにとって幸多い年となりますように。
ぼん@ぼおやっじ。
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