第20話 兄の裏の顔

 佐藤由紀子は一息ついてから話を続けた。


「私が妊娠した時の相手の男性が内科医だって話はさっきしたわよね。


野木敦也っていうの。

昔は評判のいい内科医で、この世界ではなかなか有名だったのよ。


実はお金の面では彼に工面してもらっているの。


彼は事情があって、今では “ 闇医者 ” をしている。


何らかの事情があって普通の病院にかかれない人達のための医者よ。


まあ、はっきりと言ってしまえば犯罪者が分かりやすい例えね。


そういった人達が支払うお金をこちらにも流してくれているの。


それには私も絡んでいるわ。


使用期限が迫って廃棄処分されるべき薬を彼に秘密のルートを使って届けている。



その秘密のルートがあなたのお兄さんなのよ。



これは、もちろん公になればただでは済まないわ。


でも、、、。犯罪者だからと言って見殺しにするのはおかしいと思うのよ。


それは敦也の強い主張でもあるのだけど。


あなたのお兄さんも、私達の考えに賛同してくれたわ。


あなたのお兄さん、ミツルは18歳の時には、すでに便利屋をしていた。


当時、彼は学生だったからアルバイトみたいな感覚だったのかもしれないわね。


意外に闇医者っていうのは沢山いて彼の元には常に仕事が舞い込んでいたみたい。


ただ、、、。最近のミツルは様子が変だって敦也が言ってた。


確かに少し雰囲気が変わったような気はしたけど、だから何と言われればそれまでだった。


ずっと嫌な予感はしていたの。


ミツルから話を打ち明けられたのは、あの子が妊娠してすぐのことよ。



ミツル、覚醒剤の売人をしていたの。



それが警察にバレそうだって言ってた。


私は彼の逃亡を助けたわ。


今、彼は函館市内の私の別荘にいる。


別荘と言っても街外れの山の中にある小屋も同然の建物だけど。


彼が捕まってしまったら、私と敦也がしていることもバレてしまう。


そうなったら、路頭に迷い、私しか頼る人がいなくなった妊婦や親子は再び行き場を無くすことになってしまう。」


僕の脳内は混乱していた。


しかし、どうしても気になっていたことを確かめたかった。


「兄が妊娠させた女性は、今、行方不明になっている女子高生なんですか。」


佐藤由紀子は躊躇なく答えた。


「そうよ。野口綾香よ。」


そういうと、佐藤由紀子は僕に鍵と住所の書かれたメモを手渡して言った。


「あなたのお兄さんが身を隠している別荘の鍵と住所よ。」


僕は決めた。


兄を救いに行くと。

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