第467話 配役は、二者択一

翌朝、制服に着替えて俺はリビングで寛いていた


昨日のメッセージは、少し気になるけど

気にしてもしょうがないから、気にしないことにした



いつも通り、時間になると玄関の呼び鈴が鳴り

俺が学校へ行く時間を報せる


俺「はーい」

ドアを開けると、制服姿の南城さんと堀北さんが立っていた


南城「おっはよ~!」

堀北「おはよ」


俺「うん、おはよう」

さて、行きますか……学校へ!



2人と一緒に登校し始めて、すでに早8か月

最初の頃に、俺と殺す程睨んでいた人達も慣れてたのか

最近は冷たい視線は残ってるけど、それ以外の視線は気にならなくなったな




堀北さんに昨日のメッセージの事を聞こうと思ったんだけど

今日はやたら南城さんと堀北さんの2人で会話しっぱなしで、割って入る隙間がない


そのまま楽しそうに話してる2人と一緒に学校へ到着してしまった……


結局、話を数回振られてそれに答えるだけになっちゃったな

俺ってやっぱりコミュ力低いのかなぁ



下駄箱で上履きに履き替えて廊下を進むと、途中で仁科さんを見かけた


仁科「あ、おはよ~……」

なんか眠そうだな


俺「おはよ、仁科さん。何か眠そうだけど、どうしたの?」

珍しく夜更かしでもした?


仁科「あ~、うん……昨日一日中ずっとクレープ焼いてて」

一日中って……まさか⁉


俺「夜通し⁉」

そんな事、可能なの⁉


仁科「いや、さすがに徹夜はしてないよ?ただ、寝るのが遅くなっちゃって……」

あ~、びっくりしたぁ


俺「そ、そうだよね!」

やりかねないと思ったのは内緒にしておこう


仁科「でも、眠いんだよね~……片付けとかで2時過ぎちゃって……」

2時……あ~、26時か

それは眠いよね


俺「寝ても怒られない授業で寝てね」

多分、先生によっては激怒するから……


仁科「うん……耐えられなくなったら、家庭科室行くから」

なるほど……うらやましい


俺「それじゃ、階段とか気を付けてね」

いつの間にか先に行っちゃって南城さん達の姿はないし

こういう時って、いつもは待っててくれるのにな

なんで今日は置いて行かれたんだろ……

何かしたかな?



ゆっくり動く仁科さんを残して、階段を上がり自分の教室へ入ると


ゾクリとするほどの視線が俺に集中した⁉

え?

何?

この感じ、最初の頃と一緒だ……


え?

マジで何があったの⁉


B「やっと主役のお出ましか」

主役?

周りを確認するけど、四季島は見当たらない


俺「四季島はまだ来てないぞ?」

お前、何言ってんだよ?


D「いや、お前だよ」

俺⁉


俺「いや、俺はただのmobだから」

主役なんかじゃないからさ


B「今更、お前がmobだなんて誰が信じるんだよ」

いや、そうかもしれないけど……!!

それを言っちゃお終いだよ!!


俺「それで、この状況は何なんだよ?」

みんなの視線が怖いんだけど⁉


B「説明しよう!……お前は今選択を迫られている!」

説明しようって


俺「お前、それ言いたかっただけだろ」

バレてるからな?


B「ヲタなら、言ってみたいセリフだろ?」

開き直りやがった


俺「それで選択ってのは、何の選択なんだよ?」

Bは無視してDに質問する


D「はっきり言うとだな、文化祭の配役についてだ。全ては、お前の意思次第だ」

あ~……なるほどな


俺「そうか……」

さて、どうしようか


D「とりあえず、直観で聞かせてくれ。お前はどっちがいい?」

そうだなぁ

美女とジュリエットだったら

やっぱりジュリエット役には堀北さんを……うん?


俺「どっちって、何?」

何か、若干の齟齬がある気がするんだけど……

気のせい?


D「そりゃ、お前がどっちを演じるかだよ」

え?

俺が?


俺「ごめん、話が理解できないんだけど。最初から話してもらっていい?」

なんか、想像してた話と大分乖離してるんだけど……


D「ったく、しっかりしてくれよ?いいか、今回の文化祭はうちのクラスは演劇をやる事になった」

うん、それは理解できてる


D「そこで、何をやるかで少し揉めたけど。決まったのはオリジナルの台本を用意して『美女とジュリエット』になった」

おーけー


D「いざ配役を決めようって時に、またもクラス内で揉めたんだ。誰が美女で誰がジュリエットをやるか」

そりゃ、そうだろうよ

そこまでは俺の想像の範囲内だ


D「そこで、最初に候補に挙がった南城さん、堀北さん、東雲さんを抜いて他の誰かにしようと、そういう話になった」

ちょっと待て


俺「なんで、その3人を抜きにするんだよ」

その3人の中で決めればいいだろ?


D「そんなの、収拾がつかないほどの喧嘩になったからに決まってるだろ」

そんなに⁉


俺「そこまで酷い喧嘩になったのか?」

信じられないんだが……


D「ああ、危うく血が流れるところだった」

それは、もう喧嘩じゃなくて抗争だろ⁉


D「そんなやむにやまれぬ事情があって、『美女とジュリエット』の配役はにしようと話がまとまったんだよ」

なるほど……?


俺「それで?」

その話のどこに俺が含まれてるんだ?


D「クラス内の投票で、主役に選ばれたのが四季島とお前だったんだよ」

なんで⁉


俺「いや、おかしいだろ⁉」

このクラスには南城さん達以外の女子だっているんだぞ⁉


D「これも仕方のない事なんだ……南城さんや堀北さんがいるクラスで、誰が主役なんてやりたがるんだよ。比較対象が凄すぎるんだよ」

そ、そういう事か⁉

南城さんや堀北さんを出さないで、他の女子が主役を演じる

それは即ち、南城さん達よりも選ばれた女子が上だと思われる……

方々に敵を作り、無駄にハードルが上がり、良い事なんて何もない


そういう事なのか⁉


俺「とりあえず、そこまでは理解した……でも、なんで俺なんだよ?」

まさか、休んでるからって押し付けられたのか⁉


D「それは……」


南城「ごめんね、私達のせい……だよ」

どういう事?


俺「それは……」


堀北「あの時、投票に参加した女子はほとんど四季島君に票を入れたのよ」

それなら、俺が選ばれる事は無いはずだろ?


南城「それで、私達は……その……君に入れたんだよね」

な……⁉


俺「どうして?」

そんな事を?


南城「だって、君が舞台で輝く姿を見たかったんだもん」

そ、それは……別に主役じゃなくてもいいんじゃないか?


堀北「私と千秋と、東雲さんが君に入れるのがB君たちにバレちゃって……そしたら、私達と同じように君に投票したみたいなの」

あの野郎Bのせいじゃねーか!!!


俺「おい、B!!」

お前、覚えてろよ⁉


B「ちゃんとした厳正な投票の結果だ!大人しく多数決に従え!!」

だから、多数決は嫌いなんだよ!!!


南城「ごめんね!」

いや、南城さんが謝る事じゃないよ


俺「はぁ、もう決まっちゃったみたいだから。それを覆すつもりはないけど……それで?」

最初のどっちってのは……俺が決めていいのか?


D「お前は、どっちがいい?か、か」

そうだな……

台本を読んでないから、アレだけど


俺「どっちか選べっていうなら……美女、かな」

ジュリエットって、名前持ちだろ?

そんな役、俺にさせようとしないでほしいんだよ


D「じゃ、決まりだな。四季島がジュリエット役でお前が美女役だ」

はぁ……

台本がどんな感じなのか、それだけが不安だ


俺「台本は?」

まさか、まだ無いなんて事はないよな?


D「今、用意してくれてるぞ」

誰が?


四季島「みんな、待たせたな。台本が刷り上がったぞ」

ホッチキスで留められた紙の束を大量に抱えた四季島が教室に入ってきた


その台本の表紙には2人の女性のシルエットと、題名の『美女とジュリエット』の文字が印刷されていた


結構、分厚いけど……俺、覚えられるかなぁ……

メインの役って事はセリフとか多いよな

自信無いなぁ

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