第64話 四季島太一の家

四季島の家へ向かう道中

気になっていた事を聞いてみることにした


俺「なぁ、四季島の好みの女性ってどんな女性なんだ?」


四季島「何だ?気になるのか?」


俺「まぁな」

好みが被っていたら最悪だからな


四季島「そうか。残念ながら好みのタイプとかそういったモノは無い」

さっきの牛丼屋の子可哀そうに……


四季島「俺が惚れた相手が最高の女性ヒトだからな」

なんだよ、それ……


四季島「まぁ建前なんだが」

建前かよ⁉


四季島「俺が不用意に好みなんかを口にすれば、女の子達が無理をして自分を変えようとしちゃうからな……」

まぁ、好きな人の為に努力はするよな……


四季島「だが、俺はありのまま接してくれる。そんな子を可愛いと思うんだ」

ふ~ん

あっそ


四季島「お前が振ってきた話題の割に興味なさそうにしてるな」

あ、バレたか


俺「そんな事ないぞ?」

一応はちゃんと聞いてるからな


四季島「そういうお前はどうなんだ?」


俺「何が?」


四季島「好みの女性だ」

好みねぇ……


俺「そうだなぁ……まずmobである事かな」


四季島「なっ……⁉はぁ~⁉お前!千秋ちゃんと春香ちゃんはどうするつもりだ⁉」

どうするもこうするも……ねぇ?


俺「どうもしないけど」


四季島「……ふぅーーー」

頭を抱えてため息をつかれた

好みの女性について言っただけなのにな


四季島「それを誰かに言ったか?」

堀北さんには言ったなぁ……

でも、ここは


俺「言えるわけないだろ?」

と言っておく


四季島「そうだな。絶対に言うなよ?」

お、おう


俺「わかった」


四季島「にしても、そうか……だから千秋ちゃん達からのアプローチが無駄になってたのか……これは、上手くすればワンチャンあるかもしれないな……しっかり作戦を練らないと……まず……」

なんか一人で考え込んじゃったよ

めんどくさい事にならなければいいなぁ


運転手「まもなく到着いたします」

あ、やっと着くのか


窓の外は閑静な住宅街

きっと豪邸なんだろうなぁ

広い部屋に豪華な内装とか、そんなんなんだろうな……

っけ、金持ちめ……


運転手「到着でございます」


車から降りると

ごく普通の一軒家があった

お⁉意外にも普通の家なのか⁉


四季島「どこを見ている。こっちだ」

声をかけてきた四季島の方を向くと年季の入った木造の集合住宅アパートが建っていた

え?嘘だろ⁉


四季島「奥の部屋だ」

案内されたのは1階の角部屋103号室

って……借家⁉

持ち家じゃないのか⁉


俺「な、なんで……」

こんな所に住んでんだ?


四季島「何度も言わせるな。俺自身が自由に使える金は多くないんだ」

え……?

マジで言ってんの?


四季島「名目上は…金銭感覚を養う為の訓練だ」

名目上?

訓練?


四季島「まぁ、独り暮らしってのに憧れがあったから実際にやってみてるだけだ」

独り暮らしに憧れって……もっとマシな所に住めばいいのに……


四季島「まぁ、なんだ。狭い家だがあがってくれ」

ガチャリとカギを開け中へ入る

狭いキッチンに六畳一間、1ルームの部屋だ


ホントに狭いな……


四季島「勉強するぞ。今日休んだ分ちゃんと自習するんだ」

真面目通り越して生真面目だな……


時刻は午後3時過ぎ

小さいテーブルに向かい合ってノートと教科書を広げる


四季島「わからない所は聞いてくれて構わないからな」

そういえば四季島ってテストの点数、学年上位の成績だったな

運動神経も抜群だし……

本物の文武両道なんだよなぁ

多分自炊もしてるっぽいから家庭的な事も出来る、と

……完璧すぎだろ⁉⁉



取り敢えず一人で出来る範囲を勉強するかな

英語苦手なんだよなぁ……

うっ……いきなり分からない問題だ……

何を聞いてるのかすら分からねぇ……


俺「う~~~~ん……?」

さっぱりだ……


四季島「何唸ってるんだ?ん?英語か」

あ、口に出してたか


俺「すまん、煩かったか」


四季島「そんな事はどうでもいい。どこが分からないんだ?」

え?ホントに教えてくれんの?


俺「ココとココとココとココ」


四季島「つまり全部か……まず最初の所はだな」

そういって英文をネイティブか⁉ってくらい流暢に発音し、それぞれの単語の意味や用法を細かく説明してくれる

あ~なるほど……

そういう事か……

先生より分かりやすいかも……


四季島「分かったか?」


俺「な、なんとか……教えるの上手いな」


四季島「女の子達と勉強会とかする内に、教えるコツとか分かってきたんだよ。あ。そこスペル間違えてるぞ」

うわぁ……ほんとだ……bがdになってた


俺「ほんと名前持ちってスゲーな……」


四季島「そうだな。確かに名前持ちネームドは特別だ。だが、勉強は努力でどうにかなる部分でもある。それは名前のある無しに関係はないぞ」

チッ……


俺「そーかよ」


四季島「お前を観察していて気になった事がある。聞いていいか?」


俺「なんだ?」


四季島「お前は……名前が無い事で最良の人生を諦めているのか?」

最良の人生って何だよ……


俺「別に名前が無い事で何かを諦めた事はないぞ?」


四季島「なら、何か大きな野望があったりするのか?」

野望って……そんな大した野望はないな

平穏に暮らす

それが俺の目指す人生だからな


俺「大きな野望はないな」


四季島「そうか……やはり俺は間違っていたんだな……」

今のやり取りで何を言ってんの?


四季島「俺は名前無しには二通りの考えがあると思っていた。一つは名前が無いことを理由に、色々なモノを諦める考え方だ。もう一つは、どんな手を使ってでも野望を、望みを叶えようとする考え方だ」

う~ん……確かに、BやDは名前が無い事で諦めた事も多そうだなぁ

でも、仕方ないことだよな

だって、名前無しmobなんだもんな


四季島「だが、お前は違う。俺は視野が狭かったみたいだ。もっと広い視野で世界を視なければいけないと気付けた。だから、ありがとう」


いや、お礼言われるような事してないんだけど……


俺「そんな事より、次はココ教えてくれないか?」

英文ってさっぱり分からないんだよなぁ……


四季島「そんな事、か……。そうだな、お前にとってはなんだな」


四季島が丁寧に教えてくれるお蔭でなんとか英語の自習の範囲は終わることができた

一休憩入れようと、立ち上がろうとした時

足が思いの外痺れていて俺が転びそうになる


俺「うわっ⁉⁉」


四季島「ったく、危ねーな……」

なんと床に倒れる前に四季島が抱き留めてくれた

す、すげー反射神経だな……

それに俺をしっかり支えて動かないとか、体鍛えてんのか?


俺「すまん……足が痺れてて上手く立てない……」


四季島「気を付けろ。お前がケガしたら千秋ちゃん達に顔向けできないだろうが」

あ、さすがは四季島太一……

どこまで行っても女の子の為に動くな


俺「す、すまん…」



ゆっくりと俺を床に降ろしたその時


ガチャ


独り暮らしのはずの四季島の家に、突然誰かがドアを開けて入ってきた……⁉⁉

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