第90話 覚醒

「糞ネズミ同等の奴らって…あんたは人の命を何だと思ってるの!?」


ロゼッタは化け物の言葉を聞き感情をあらわにし大声で叫ぶ。


「命ぃ…?そんなもんどうでもいいわ。俺にとってはお前らが豚や牛を殺して食うのと何ら変わらない、ただの栄養の高い飯でしかないからなぁ?」


「くっ…!!クソ野郎が…!」


ロゼッタは返す言葉が思い浮かばず、ただサーニャ、マーガレット、ミーナを殺された怒りだけが頭の中にあった。

だが怒り任せで戦ってはダメだと思いロゼッタは一度深呼吸をし、再び化け物の事を睨み付け薄ら笑いをする。


「ふぅー…そうね…。あんたがそういう理由で殺したんなら、こっちも理由あって殺していいって事よね?」


「…はぁ?」


ロゼッタの言葉を聞いた化け物は首を傾げる。


「サーニャ…ちょっと力借りるね…」


ロゼッタはサーニャの事を見ながら小声で言うと右手についたサーニャの血を舐め、ゴクリと飲み込むと目を閉じた。

手を思いっきり開くと爪が伸びだし、髪の色も濃い茶色から徐々に薄くなり明るめの茶色へと変わっていき目を開くと瞳の色は茶色から真紅へと変わる。


「ほぉ…やっと正体を現したか…」


「ええ…でも…殺す為ならどうでもいいわ…」


ロゼッタは薄笑いしながら言うと姿を消し、化け物の目の前に現れると化け物の腹部に爪を突き刺すように触れ、笑いながら攻撃魔法を放つ。


化け物は吹き飛ばされるが足元に影を出し体を無理やり止めると凄まじい速さでロゼッタの前へ移動し攻撃を繰り出す。


両者の攻撃は素早く、人間には攻撃魔法などが光の様に見えるほど早い。しかも両者互角で体中に傷が出来ていく。


そして両者とも攻撃をやめ、お互いの顔を見合う。

二人ともボロボロで血だらけだった。


「はぁ…はぁ…そろそろ決着つけましょ…?」


「はぁ…そうだな…さっさと終わらせたいぜ…」


二人は笑顔で言うとロゼッタは右手に強力な攻撃魔法を出し、化け物は同じように右手に黒い影を出す。


二人とも声を張り上げながら突撃していき、両者の体に攻撃が当たると凄まじい轟音と衝撃波が広がり両者は吹き飛ばされロゼッタはサーニャの近くへ飛ばされた。


「………。」


「………。」


辺りが静まり返り、両者はピクリとも動かない。


「う………サー…ニャ………」


ロゼッタは残された力を振り絞り、ずるずると這いつくばりながらサーニャの元へ近寄りサーニャの右手を掴む。

右手首を触るが脈は感じられず少し冷たい。


「サーニャ………ごめん……ごめんなさい………」


ロゼッタの目から涙がボロボロ流れ出す。

私が一緒に旅しようなんて言わなければ、サーニャは今頃普通に生活出来ていたかもしれない。

ロゼッタは悲しみと後悔に押し潰されそうになっていた。


「私が……私が………」


バキバキ…


「……うそ……でしょ……?」


ロゼッタは音の聞こえた化け物の方を見ると化け物は傷だらけで血と影が混ざり合った物をボタボタと垂らし、所々内臓などが見え、グロテスクな見た目だが立ち上がりロゼッタの元へとゆっくり近づいてきていた。

ロゼッタはあの攻撃でも倒せなかった、今私にできる事は何もないと思い絶望する。


「はぁ…はぁ…まさか…俺をここまで……できるやつがいるとはねぇ…。けど…もうおしまいだな…」


化け物は薄笑いしながら近寄ってくる。

化け物の魔力は凄く弱まっているがロゼッタの魔力の方が低く何も手出しできない。

更に化け物の体は少しずつゆっくりであるが傷口が塞がり出している。

反撃したところで無意味だ。ロゼッタは諦め目を思いっきり瞑る。


(…くっ!もうだめ……!)


「フリーズ」


突然聞き覚えのある声が聞こえ、化け物の体が石の様に固まり、その後に重い銃声が聞こえ化け物の体から体力の血や臓器がビチャビチャと音を立てながら飛び出し白い地面に散乱する。


化け物は地面に倒れ、化け物の後ろにいたショットガンを持った女性が化け物の頭を思いっきり踏み潰しロゼッタの元へ歩み寄った。


「…はぁ…全く…大丈夫か?ロゼッタ」


目を開くと目の前には化け物に殺されたはずのマーガレットとミーナ、そして両隣に見知らぬ少女が立っていた。


「え…?マーガレット…?ミーナ…ちゃん…?なんで…?」


「いや、私らもわかんねぇんだよ…。あのバケモンに殺されたはずなのに生き返ってんだよ…。とりあえずハンリン、ロゼッタとサーニャの怪我治してくれ」


「わかった」


マーガレットは右隣にいる少女ハンリンにそう言うとハンリンはロゼッタとサーニャの手を掴み回復魔法を唱える。

二人の傷は消えていき、ロゼッタは立ち上がるがサーニャは倒れたままだった為マーガレットがサーニャの事を背よう。

そして白い空間は組み上がったパズルを床に落とすように崩れていき、元いた病室へと戻っていく。

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