スクロールするじゃありませんか!

 冒険家のレニさんは、この樹海の奥でしか手に入らないという、珍しい薬草を探していたらしい。

 もしやと思って、僕が村長さんから渡された薬草セットを見せると、それがなんとビンゴ!

 目当ての薬草も含まれていたみたい。


「え? これ貰っちゃっていいの? ホントに?」


 とか言いつつも、レニさんは薬草をしっかりと握り締めている。


「はい。さっき助けてもらいましたし。お礼ということで」


「いや~、よかった! もう1週間以上も探し続けて見つからないから、そろそろ心が折れそうになってたのよね! この辺って、獰猛な魔獣とか魔物も多いし! あおは出遭わなかった?」


 ああゆうのや、こういうのや――とレニさんが身振り手振りも交えて解説してくれた相手には、妙に心当たりがあった気もするけど。

 気だけだろう。

 狼っぽいのや熊っぽいの、ワニや巨大魚に、原住民さんやら。


 ああそうか、凶暴な相手にはよく『魔』を付けたがるよね。あと、すぐに『化物』とか言ったりする。あのノリか。

 うん、そうに違いない。ふふ。


「ええ、たくさんの獣には遭いましたけど、僕は体力だけには自信があって」


「そうなんだ、見た感じじゃあ、ひょろ――貧弱そうに見えるけどね。体力値3桁ないんじゃないかなーって思った」


 言い直すなら、もう少し言葉を選んでほしいな。せめて虚弱とか。あんまり意味変わってないけど。


「ひどいなー、レニさん。体力の数値が2桁って、幼児じゃないんですから。あはは、は……ん?」


 今、って言った?


「あおは13歳って言ったっけ。実際、ステータスはどんくらい? 一般職の人だと、レベルは年齢+3くらいだから、レベル16くらいは、いってるのかな?」


「ついこの間、レベルが12から13に上がったばかりで……すよ?」


 疑問形になっちゃった。

 今、確かにって言ったよね? あと、ステータスって!


「――レニさんってステータスが視れるんですか!?」


「うわ、びっくりした!」


 僕が突然身を乗り出したので、レニさんは後ろにつんのめりそうになっていた。

 でも、僕としてはそれどころではない。


「視れるかって、そりゃあ誰でも視れるでしょ。3歳くらいで親から習ったりとかで」


 レニさんが、虚空を目で追っていた。


 あの目の動きには、見覚えがある。僕がステータスを視ているとき、鏡で映った姿はあんな感じだった。


「どうしたの? 驚いたり、がっくりしたり。大丈夫?」


「いえ、別に……はは」


 なんだ、この僕の能力。土地柄次第では珍しくもなんともなかったんだ。


 安心半分、落胆半分。

 他人と同じということに安心感はあるけれど、固有の特別な能力という優越感もなくなった。


 ……まあ、いいけどね。


「キュイ?」


 しろが僕のほっぺを舐めてくれる。

 相変わらず優しいなぁ、しろは。


 ごめんなさい、強がりました。結構ショックです。はい。


「……あれ?」


 僕からは視えないけれど、自分のステータスを視ていると思しきレニさんが、虚空に向かって人差し指を動かしている。


 なんだろ、あの動作。しょっちゅう見慣れたような――


(あ、スマホか)


 指先で弾いフリックしたり、ゆっくり滑らせスワイプしたり。

 問題は、スマホもないのに、なんで空中であの動作をやっているのかだけど。


 …………


 もしかして。


 僕は自分のステータスを視た。



 ―――――――――――――――

 レベル13


 体力 163000

 魔力 0


 筋力 67  敏捷 60

 知性 67  器用 54

 ―――――――――――――――



 うわぃ! 筋力と器用が1ずつ上がってるよ! 綱渡りの効果?


 ってか、ついに筋力と知性が並んじまったい、いやっふふぅ(喜びと哀しみが同居した声)。


 ま、それはどうでもよくないけど、今はいいとして――


 僕はおそるおそるステータスが表示された空間に指を伸ばしてみた。手を伸ばして、ちょうど届く距離。


 指を下にすいっと動かす。



 ―――――――――――――――

 名前 斑鳩 蒼


 年齢 13

 性別 ♀

 職業 中学生


 レベル13


 体力 163000

 ―――――――――――――――



 動いたスクロールした――!


 僕はがっくりと地面に突っ伏した。ちょうどorzこれ。まさか、現実で体現しようとは。


 そっかー、動くのかー! 物心ついてから10年以上気づかなかったよ!?

 だってさ、子供の頃は、そもそもステータスに手が届かなかったんだもん!

 触れないって固定観念ができても仕方ないよね!? だよね!?

 ちっくしょー!


 僕は慟哭した。

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