鳥の巣(科学)
雨世界
1 ……空から、落ちる。
鳥の巣
登場人物
赤家翼 宇宙工学専門の科学者 真の天才
朝倉静 宇宙飛行士見習いの青年 努力の凡人
渡 大富豪 CEO(最高経営責任者) この時代のカリスマ経営者の一人
朝倉秋 静の妹 見届け人
プロローグ
イメージシンボル つばさ たまご
……私は、空から落ちる。
空から落ちる。
知っていた。
私はいつか、この自由な空から落っこちるってこと。
知っていた。
ずっと昔から、知っていたのだ。
天才はいつでも、空(宇宙)を目指す。
本編
空にはなにもありませんよ。
……人類(あなた)は、いつでも、宇宙を目指す。
真っ白な宇宙船が、今、宇宙に向かって出発しようとしている。最新型のエンジンを積んだ、人類の持てる技術のすべてをつぎ込んだ、高性能の宇宙船だ。
赤家翼は腕を組んだ格好をして、その宇宙船の姿を司令室の中から、モニター越しに見つめている。
真っ白な宇宙船の横には黒いビルのような発射台がある。
すべてが順調に進んでいる。
今のところ、ミスらしいミスもないし、緊急を告げるトラブルもない。
……大丈夫。
絶対にうまくいくはずだ。
翼は自分自身にそう言い聞かせている。
宇宙船の出発時刻が、三分を切っている。
そろそろ、カウントダウンが始まる。
翼の周りにいる宇宙船の関係者たちも、緊張でだんだんとその表情を硬く、こわばらせていく。
5、4、3、2、1、……0。
カウントダウンが終わる。
翼の心臓は、どきどきしている。
その緊張を表に出さないようにしているけど、内心、翼はここ(地球 ホーム)にいる誰よりも緊張していた。
強烈な光と熱が宇宙船のエンジンから放出される。巨大な雲のような煙が吹き出して、宇宙船はゆっくりとその巨大な体を宇宙に向けて、動かしていく。
飛んだ。(やった)
翼は思った。
翼の思いの通りに、宇宙船はそれに向かってゆっくりと速度をあげて飛んで行った。
その瞬間、翼のいる司令室、宇宙科学中央コントロールセンター室内で歓声が巻き起こった。
翼も内心、ほっとする。
真っ白な宇宙船は青色の中に飛んでいく。
すべてが順調だった。
この瞬間までは。
ネットワークの放送網をえて、この瞬間を見ている世界中の人々がきっと、この部屋にいる人たちと同じように歓声を上げているだろう。
そんなことを翼が思ったときだった。
空を飛んでいる宇宙船がぐらり、と揺らいで、その巨大な体を傾けさせた。あ、と翼がその光景をモニター越しに目撃したときにはもう、次の瞬間には、宇宙船は巨大な光の塊になっていた。
そのまま強烈な閃光とともに、宇宙船は『爆発した』。
一瞬の静寂のあとで、喜びはすべて悲しに変わった。
中央コントロールセンター室にいるプロの宇宙科学技術の関係者たちが、プロとして一斉にその仕事を始めたときにはもう、翼の姿は中央コントロールセンター室の中にはなかった。
翼は誰よりも早く行動していた。
天才、赤家翼は爆発した宇宙船の墜落現場を見るために、現在、誰もいない静かな通路を一人、白いスニーカーをはいて、全速力で駆け抜けていた。
あの宇宙船には、翼の恋人である宇宙飛行士、朝倉静が乗っていた。
翼の設計した宇宙船に、今さっき爆発した宇宙船の中に、静は乗っていたのだった。恋人である、翼のことを、信じて。(翼はなんだか泣きそうだった)
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