第19話
そして俺は当然の様に身の丈に合わない高額のクエストを。
俗に言う無差別クエストという分類のクエストに挑むことにした。
【急募】皿洗い募集、要求条件――。
【親切・安心】システムエンジニア、要求条件――。
【狩猟】お店で使うセンスあるカーテン、要求条件――。
【採取】季節のフルーツが欲しい要求条件――。
【夜職】支給、人、容姿、頼む、寝れてない、たすけてようきゅーじょーけん――。
等々、玉石混合織り交ざっている直接ギルドを通していないクエストが無差別クエストである。
イメージでいうならばインターネットにある求人サイトで求人の斡旋業者が噛んでいない求人募集の様なものだろうか。
元々クエストとは昔の崩壊時代、世界がレベルアップして間もない頃から人々が物資を求めダンジョンから得るものを求めたが故にあったものだが今の冒険者とは何でも屋の様な側面が強い。
それも神様がテンプレートを作ってくれたこの冒険者というもののシステムのおかげだろう。
実際これのお陰で賃金の未払いや揉め事といったことは呪術的契約によりほぼほぼ不可能となっている。
だが神様は神様でありマクロな視点、つまりは人々の感覚で理不尽な沙汰が下される事も多々あった。
故に冒険者ギルドというものがあるのだが――。
俺が求めたのはルールの穴を突く行為。
その行動は決して褒められたものではないものでそしてハイリスクハイリターン。
命をチップに金を。後どっちにしろギルドからの評価は下がる行為。
そうして俺は本来はまだ挑めるレベルじゃないインビジブルモンスターの依頼を受けた。
インビジブルモンスターは下級ではなく中級が挑む類、或いは下級上位が挑むものである。
理由は外見的特徴に神秘が絡んだ神秘適応されたモンスターだからだ。
え?特徴?透明、ついでに言えば臆病で逃げやすい。
ギルドへの依頼分の手間賃をケチったのかそれとも他の事情があったのか、クエストボードにその依頼があって、報酬額が中途半端だから適正レベルにはやや旨くない話で格下はそもそもそのモンスターを捕獲できない。
そんなだから無差別クエスト――冒険者ランク関係なしの依頼だから俺も受けれた。
そして、依頼の文が簡潔でインビジブルモンスター『ドモモ』一匹の捕獲。だけだったのも良かった。
――そうして俺は当たり前の様にダンジョンに何の策も無く、何の情報も無く、ただ無為に挑んで・・・ボコボコにされたんだっけ。
「・・・っく・・・」
ダンジョン名『姿なきモノの草原』
ダンジョンの中には国が管理しているモノとそうでないモノがある。
大体のダンジョンは管理されているが、そうでない不明なものも多く世の中に蔓延っている。
ダンジョンと聞いてパッとイメージするのは後者の自然発生するダンジョンだが、未だに多くの謎が解明されていないダンジョンだ、ダンジョンコアと呼ばれる核であるモノを排除すれば周りから神秘を吸収する機能が失われる事は分かっているがそれぐらいのもんだ。
そして前者の管理されているダンジョンというのは結界で神秘の取り込みが制限されていて尚且つコアが破壊されていないという事である。
その他に管理というだけあって一種の安全装置のようなものもある、神様の力ありきのものだが。
俺の潜ったこのダンジョンは市の管理してるダンジョンで、その安全装置として貸し出されたのがこの腕輪だ。
貸し出された腕輪にはタイマーで時間が表示されていてカウントダウンされている、この時間がゼロになった時まるでゲームみたいに元の場所に戻される。
それこそ、死んでいようと生きていようと。契約した本人なら。
この場合俺は広間のホールだろうか?管理してる関係上ダンジョンの入り口に建物を建てる訳だから必然的に戻るなら室内だ。
「はい、それじゃあ冒険者さん・・・ソロ?まぁ、死なない様に気を付けて安全マージンだけはしっかりとってね、それじゃあ契約の時間は?」
「五時間で」
「はいはい、この時計は絶対無くさない様にね。これをつけてる契約した本人だけが戻れるからね、よくいるんだよね勘違いしてパーティーメンバーでバラバラに付けちゃって戻り損ねる人達」
「・・・ソロなんで関係ないっすよ」
「ああ、ああ。悪かったね、マナーが悪い人達が悪くってね、注意しなくちゃあいけなくてね・・・これも規則、規則のうちなんでね、すいませんがね・・・はい、帰還サービスの代金も丁度ですね・・・」
「いえ、構いませんよ・・・」
「大体一時間前には戻り始める準備をした方がいいので気を付けて下さいね、あくまでも安全装置なので自分で帰りたいなと思ったら普通にダンジョンから自力で帰らないといけないですからね、転移系統のモンでも使えない限りは辛いと思うのでね、特にお一人でダンジョンに潜るならお気をつけて・・・」
「はい、ありがとうございました」
・・・なんて忠告されたっつーのに残りは一時間、もう既に草原近くの森に入ってからかなり時間が経っている。
隠れながらダンジョンに入っている所為か全然見当たらない。
それもその筈で、インビジブルモンスターの厄介な点というのが正にそれなのだ。
姿が見当たらず気付く事もなく攻撃される。
探知できる程の力量がない者は容赦なく狩られる事から別名を『下位殺し』何かしら特攻出来る力がないと負けは必至の相手である。
それに『ドモモ』は群れを作って行動するモンスター、上手く一体で透明でないモンスターを見つける事が出来れば良かったのだが、これではじり貧だ。
これ以上森の奧に進めば余計なモンスターが出て来るし、ここは余り力のないモンスターの中でも良く木の実なんかを主食にするモンスターの生活圏内で見張るのも限界が近い。
何故なら俺の安全の為にギルドで買ったモンスター除けの魔法護符ももうないからだ。
対策としての先行投資とはいえ、金を稼ぐために金を使わざるを得ないのは厳しいものがある・・・。
「後の残りの手持ちは、手製の痺れ薬を仕込んだ木の実と余った痺れ薬と失敗して出来た毒。捕獲用の檻とそれに幾つかのモンスターの素材や森で手に入れたダンジョンの資源ぐらいか」
(役に立つのはあらかじめ準備してきた痺れ薬ぐらいだが・・・)
「キョォォ」
「!?」
咄嗟に身を屈めて辺りを見回すと風が吹いている訳でもないのに揺れている木の実を発見した。
あそこの辺りは俺が予め痺れ薬を仕込んだもんだが・・・食うか!?
ジッと見ていると、風が一際強く吹き、いやより正確に言うと風の鎌の様な魔法が小さく一部分の枝ごと切り落とされた。
他にも五、六ケ所の俺が仕掛けた罠が切り落とされていく。
「・・・え?魔法使えたの?君等」
冒険者として閲覧出来る様になったギルドの情報には姿の消す魔法は先天性の所謂才能みたいな魔法が体に常時かかっているとは知っていたが流石に詳しく餌をとる際の取るに足らない風魔法の様なものまでは載せていなかったのだろう、それに事実としてレベルアップして神秘に適応?と言えばいいのか成長している奴にとってはそよ風程度なのだろう、小枝を切り飛ばす程度。
・・・だが。
(俺にはそれぐらいがピンチなんだよぉぉぉーーッ!!)
情報不足に準備不足、資金不足に武力不足、ちゃんと調べてないから一歩抜け、罠なんて簡単に看破されてそもそも捕まえる事も出来ない、おまけに・・・
風魔法が使えるという事は風に乗せた匂いも分かるだろう、痺れ薬に混ぜた甘い匂い、良く食いつくかな?と思って市販でも売ってる対捕獲用の薬品を混ぜ込んだのが不味かった。
そもそもがダンジョンに生息している身に生まれながらに神秘を宿した生物。
自分たちの縄張りを犯した格下の存在の匂いがするならば!
――俺から匂ってる筈だ。そしてモンスターなら嗅ぎ取っている筈だ!
(マズイ————感じ取られた!!)
そう思った時には遅く、体に鈍い衝撃、弾ける様な風の荒々しさを感じながら横っ腹に痛みを伴いながら隠れててた茂みから弾き飛ばされ、先程まで彼らがいたであろう近くの果実が生っていた木々まで転がった。
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