第4話
事情を説明し事故だという事を理解させれたところでマコトは正座を解いた。
「あくまで事故だったという事で浮気ではないんですね?」
「いや、そもそもおっちょこちょいの幼馴染と結婚とかそういうのをするわけないだろ?」
「ですよね、やっぱりそうですよね...良かったです」
ホッと胸をなでおろしユイは瓶を鞄から取り出し始めた。
作り出した回復薬を収納、保存しておくための容器を買いに行ってもらったのだ。
回復薬は錬成術と魔法を掛け合わせれば幾らでも生成できるが瓶は別、良質なガラスを生成するための砂は取りに行けないので本来聖水を入れるための瓶を中古屋で買い集めてもらったのだ。
未だ状況を飲み込めないミウはユイとその膝の上でクッキーを食べるユキを見て静止する。
「ねぇ...この綺麗な人って誰なのまこっちゃん?」
「そういえば紹介してなかったな、彼女は城の奴隷だったエルフのユイで俺の嫁だ。でそっちが次女のユキ、九歳だ」
「嫁...娘...結婚してたの?」
「百年前にな、てか今思ったんだけどお前なんでまだJKの身長身体なの?もう百九年経ってるんだぜ?」
ミウはエルフでもなければ竜種でもない、只の元の世界の人間の少女だったはずだ。
平均寿命は80数歳の日本人女性の彼女が百九年の年月を超えた今未だJKの姿なのはおかしい。
「それなら簡単よ、魔術で細胞の劣化と記憶域の解放を行なったのよ」
誇らしげに胸を張るがマコトは魔法に関して詳しくはない。
「わかりやすく頼む」
「要するに若い姿を魔法で維持してるわけ」
「そういえば良いんだよそう言えば、魔法とか俺理解したくないからな」
「まだシンジが言ったこと根に持ってるの?」
かつてのクラスメイトの名前ーーマコトは露骨に不機嫌そうに耳をほじって深い溜息を吐いた。
「勇者サマの睾丸潰れねぇかなぁ」
できるならばヒロインポジの人間に男根切られて睾丸踏み潰されて欲しい。
男としてもっとも辛い事をマコトは切に願った。
なぜ勇者ならば女を侍らせて良いのだろうか、しかも全員狂気的に惚れているときている。
毎日ヤリまくってどうせ幸せハーレム天国を味わったのだろう。
「睾丸ってやっぱり根に持ってるのね...流石にやりすぎだったのは理解するけど百年経っても憎まれるなんて可哀想ね」
「憎んでるわけないだろ?なんで俺が勇者サマなんかを考えて生きていかなきゃいかないんだか。ただちょっとムカつくイケメン顔が浮かんだからつい癖で睾丸潰れろって言っただけだ、存在自体忘れてたよ」
事実ここ九年は育児とか指輪探しで忙しすぎてマコトはあんな憎ったらしい顔と存在自体考えないようにしていたのだ。
「でだ、この依頼だけどありがとな、丁度いい」
マコトは植物採取の依頼を見てミウに心の底から感謝した。
回復薬を作るために雑草を集めたかったし今の森林の環境も知りたい、そして何より魔導免許が持つ税の免除の権利に街への入場料の免除もありがたい。
この依頼は一石二鳥どころか一石三鳥だ。
「べっ別に良いわよ、幼馴染の為だしあんな辛い事があったならもう戦いたくないでしょ?」
「ん?戦うってあれか...いや別に魔王との殴り合いで死ぬほど苦しかったけどあんな奴がうじゃうじゃいるわけじゃないし戦うっていうのを嫌ってもない」
確かに魔王戦はマコトは死ぬほど辛かったと、今思い出すだけでも吐きそうになるぐらい酷かったと思う。
戦闘中に四肢がもげた回数は計り知れないし眼球が潰されたり、全身を焼き焦がされたり、時に下半身を消し飛ばされた事だってある。
死ぬほどの致命傷を錬成術の固有スキルでカバーしたがそれでも無理があった。
もう二度と身体中が潰れる感覚は味わいたくない。
あんな苦しみ勇者サマが受けるべきでモブキャラの自分が受けるものではないのだ。
「本当若いって愚かだよな...」
状況など諸々に流されて魔王と戦うとかいう勇者みたいなことをやった自分をマコトは嘲笑した。
「すごいおっさん臭いわよ。今何歳よ?」
「二十歳と百八ヶ月だ。まだピチピチの二十代だな」
「そうですね、マコトさんはまだ若いですよ」
「いやそれって二十九歳でしょ?それに貴女も突っ込んで良いのよそれ...」
全面肯定にミウは思わずツッコミを入れる。
「いいか?年齢なんてさほど問題ではないんだよ、一番重要なのか心の若さだ。オーストラリアとかだと80代のおばあちゃんが80いくつの旦那とビキニ選んで海で着てるんだぜ?あれぐらいの方が精神的に健康だよ」
「出たわねオーストラリア自慢、それとこれとでは話が違うわ」
「自慢じゃねぇよ、お前の心並みに狭い考えを改めてーー」
「『
「あー本当にお前は心が広いなぁ!!なんて寛大でいいやつなんだろうか!!部下に愛されるタイプの人間だわ本当!!」
ミウの指先に尋常では無い魔力が蓄積されて行きマコトは青ざめた表情で両手を上に挙げて降参の意をしめしつつ大袈裟な動作で語る。
なんていう暴力、これでは脅迫と変わらない。
ひどい言論統制だ。
「ねぇねぇお母さんお父さんはなんで大声出してるの?」
クイッとユイの裾を引っ張ってユキは首をかしげる。
「気にしたらダメよ...瓶洗うついでに水魔法覚えましょうか」
「わかった!私頑張る!」
二人を気にせず彼女らは瓶の準備をするようだ。
魔法を使えば大分作業は捗るし楽になる、何より井戸まで水を汲みに行く手間がない。
現在では魔道具の水道があれば幾らでも水を出せるのだが魔道具なので値段が高い、一部の裕福な家庭のみが所有しているというのが現状だ。
もちろんマコトの家は裕福とはお世辞にも言えないのでまだ買ってない。
「そうだ、ミウ。お前の転移魔法でここの森まで送ってくれよ、確か使えたよな?」
「使えるけど私この後忙しいから行きだけよ?帰りは自力で帰って」
「了解、ちょっと準備するから数分待っててくれ」
依頼はできる限り早くに終わらせる、これがこの世界での常識だ。
あまりにも時間がかかりすぎるとクエストは塩漬けクエストとなり他の依頼書の下に埋もれて行く。
その場合依頼者も報酬を取り下げてクエストをなかったことにしたりするのだ。
だから早めに終わらせるのが重要だ。
自身の部屋からかなり大型の麻袋を二つと身代わり石を数個ポケットに入れてリビングに戻った。
回復薬百個分の素材なのでかなりの量が必要なのだ。
麻袋一杯に入れて二つ、合計数十キログラム分の雑草や葉っぱ、木の枝が必要だ。
本来ならば回復薬は薬草からしか生成できない、だが錬成術を使うとあら簡単、雑草自体の性質を書き換え上質な薬草に変更できるのだ。
なのでわざわざ大量の薬草を見つける必要はないし楽な仕事だ。
「じゃあ俺を東のエルプスの森まで送ってくれよ」
「お父さん、私も行きたい」
「いや、何か出るかもしれないし子供を連れて行きたくないんだよ」
魔物が出れば自分のことで手一杯になってしまい周りの安全まで保証できないかもしれない。
だが納得してないのかユキは頬を膨らませ抗議する。
「お姉ちゃんがお父さん強いって言ってたもん、それにもし危なくなっても私魔法使えるもん」
「あーうん...」
はてさてどう説得したものかとマコトは思案し口を噤む。
子供にリスクマネージメントなんてできないしそれを言ったところで納得させれない。
悩み果てたマコトを見てユイはユキを後ろから抱っこした。
「ユキはお母さんを手伝ってくれないの?」
「えっと、私は...」
「瓶を洗うの大変だから可愛い娘に手伝って欲しいな」
「お手伝い?」
「そうお手伝い、ついでに水魔法とかも覚えましょうね」
「うんわかった、お母さんのお手伝いする!」
手を組んで感謝を伝えマコトはミウに向き直る。
「じゃあ行くわよ、『
足元に発生した魔法陣が二人を照らし極光の中に二人の姿が消えて行った。
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