中締め 「食べるということ」
西村は三人兄弟の末っ子だった。ありきたりな話ではあるが、貧しい家庭に育った彼は、小さい頃から兄貴二人とご飯のおかずやおやつの取り合いに負け続け、いつも食事に対して満足していなかった。
小学生の時に西村の祖父が老衰で入院し、寿命間近という状況で西村は母親と二人で見舞いに行った。祖父とは別居していたが兄弟の中では末っ子の彼を一番可愛がってくれていた。
日頃兄貴たちにやられている鬱憤が爆発した西村は、母親が目を離した隙に祖父の好物であった見舞品のあんドーナツをここぞとばかりに盗み食いした。ベッドの上でこちらに気づいた祖父は何も言わずににっこり微笑んだのだという。
数日後、祖父は亡くなった。
小さいながらに西村は、自分が祖父の好物を盗み食いしてしまったせいで祖父は早くに亡くなってしまったのではと自責の念に苛まされた。
葬式が終わったあとで母親は西村に祖父の残した言葉を話した。
「戦時中はとにかく食べ物がなかった。食べたい時に食べられる今の子供たちは幸せだ。たくさん食べて笑顔になって、そして大きく成長してほしい。また、いつ食べられなくなるかもわからない。食べられるときにたくさん食べて、決して食べ物は粗末にしないように」
独身40代の安月給、西村が今日も戦うのはきっと「いつ食べられなくなるかわからない時代」に向けて修行しているのかもしれない。
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