閑話 疑問
「リフィアちゃん、ちょっといいかい?」
ある日、リフィア薬草店に一人の恰幅のいい男性が訪ねてきた。
男性は引いてきた荷車を店の前に降ろすと、店のドアをコンコンと叩いてノックをする。
「はーい、なの! この声と独特のノックの叩き方はワイアットさんなの。リフィアに一体何の用事なの?」
パタパタと足音を立てながらドアを開けて出てきたのは一人の幼女。
白いフリフリのエプロンを揺らしながら、幼女はワイアットを見つめて首をかしげた。
「約束の薬草と、それから採れたての新鮮な野菜を持ってきたんだ」
ワイアットは被っていた麦わら帽子を取ると、リフィアに荷車の中を見せた。
「わぁ.......すごいの」
荷車の中はリフィアがワイアットに頼んでいた薬草と、ナスやかぼちゃ、トマト等の野菜がぎっしりと詰まっている。
採れたて新鮮な野菜は本当のようで、どの野菜もみずみずしい。
「今回は畑がワイルドボアに荒らされていて納品が遅れてしまって悪かったね。でももう大丈夫。強くて優しい冒険者さんが倒してくれたから」
ワイアットは優しそうな笑顔で朗らかに笑った。
しかし、そんな安心したような表情で笑うワイアットをリフィアは不思議そうに見つめていた。
「ワイアットさん、ワイルドボアを倒した冒険者は誰なの?」
ワイアットは大きな畑で農作物を育てているが、それでも収入はあまりよろしくない。
そんなお金がないワイアットの為に、ワイルドボアを倒してくれる冒険者なんているのだろうか。
冒険者ギルドに依頼を出しても、二束三文の報酬金で動く冒険者なんてこの街にはいないはずなのだろうに。
「アシュレイさんとウェルトくんだよ」
「え.......?」
ワイアットの口から出たのは二人の名前。
咄嗟にリフィアの頭の中に浮かんだのは一人の少年だった。
ローションを掛けられたり、赤髪の女性を緑色のヌルヌル塗れにしていた事をリフィアは鮮明に思い出した。
「いやぁ、本当に助かったよ。畑を食い荒らしている犯人は誰だか分からなかったからね。それなのに、犯人をワイルドボアだと突き止めて討伐してくれたんだからさ。それに、報酬も大根だけでいいんだと。まさに冒険者の鏡だよ、あの二人は」
リフィアの頭は混乱した。
あの少年は何故、そんな真似をしたのだろう。実は、あの少年は自分の薬草店の常連である冒険者から、報酬金が少ないと受付嬢に怒鳴り散らしていたとリフィアは聞いていた。
そんな金にがめつそうな少年が、報酬が大根だけでいいと果たして納得できるのだろうか。
「おっと、長話しちゃったね。それじゃあリフィアちゃん、自分はもういくよ」
ワイアットはキコキコと荷車を引いて店の中に入れ、手を振りながら去っていった。
「意味が分からないの.......」
リフィアは頭を傾げながら去っていくワイアットの背中を見つめて呟いた。
ワイアットが置いていった荷車の中の野菜達は、なんだか微笑んでいるような気がした。
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